1 / 1
〇〇しないと出られない部屋!?
しおりを挟む
いつも通り仕事をして、飲みに行く同僚の誘いを断る。何があるわけでもないけど家にまっすぐに帰って風呂に入って、寝て、起きたら全く知らない部屋で目を覚ました。
床から壁、天井まで白い大理石で覆われ、窓は一つもない。
天井には照明が一つだけついていて部屋の中は薄暗く、その照明の下には黒いシーツと枕が二つ並んだ大きなベッドが置かれていた。そしてこの部屋にはベッドしか家具がない。
枕元には白いカードが置かれている。二つ折りになったそれを手に取って読んでみるとそこには『ここはPLAYしないと出られない部屋です』と書かれていた。
「どうすんだよ、これ」
俺は横で能天気に寝そべっている男の顔にカードを載せる。彼は顔に置かれたカードを邪魔そうに手に取りその一文を読むと目を細めた。
「やるしかないだろう?」
「はぁ?無理だから」
俺がそう言うと男はベッドから起き上がり部屋をうろうろし始める。
「無駄だって、もう俺が調べた。壁は大理石で壊れそうもないしドアもない」
男は部屋を壁伝いに歩いてすぐにベッドに戻ってくる。
「もうPLAYするしかないだろ」
「いやだから無理」
「何が嫌なんだよ」
「お前がDomで!!俺もDomだからだ!」
今俺の目の前で呑気に腹を掻きながらPLAYしようといってくるこの男はDomだ。しかも、幼馴染。
まだ知らないやつとここにとじ込められた方がましだった。なぜなら、俺の目の前にいる男 ゼノ・クレメンズのことを中学から高校を卒業するまでずっと好きだったからだ。しかも初恋。
ゼノは恐ろしく顔が整っていて、健康的に日に焼けた肌に肉体は筋肉に覆われ肉食獣のように身体はしなやかで美しい。ゴールデンレトリーバーのような艶やかな金髪と瞳は赤味帯びた琥珀色をしている。逞しげにはっきりした目鼻立ちをしているが、俺は彼の魅力が他にもあるのを知っていた。彼の魅力は笑ったときに見えるえくぼとわずかに厚い下唇だ。
好きだと自覚したのは中学1年の学校に慣れてきたころで、失恋したのも早かった。何故なら俺とゼノの二次性がDomだとわかったからだ。
「PLAYパートナー=恋人でなくてはならない」なんてこともないし「PLAY=sex」でもないがパートナー兼恋人が一般的だった。俺もその考えの一人でどうしてもPLAYパートナーは恋人じゃなきゃ嫌だった。だからDom同士の俺とゼノはたとえ気持ちが通じ合っても恋人にはなれないのだ。
Dom同士はPLAYができないから。
お互いの欲求を満たせない関係なんて絶対にうまくいかない。
高校を卒業しゼノと違う大学に進み彼から離れて5年たった今、やっと彼に対する気持ちが落ち着いてきたばかりだった。
だから彼から一刻も早く離れたかった。卒業間近俺はゼノを避けに避けまくったから……隠すつもりもなかったし。無理やり理由をつけて彼から距離をおいた。
今思えばひどい態度だったと思う。授業の合間はトイレに行き話しかけてくるゼノから逃げ、最後の授業が終わりベルが鳴った瞬間家に逃げるように帰った。
でも仕方なかったのだ。当時はそれだけ必死だったから。
「PLAYしなきゃ出られないだろ?一生ここで俺と二人きりでいいのか?」
ゼノの指が俺の下唇に触れる。ゆっくり感触を楽しみながら形をなぞる様に。気付けばゼノはすぐそばにいた。ゼノの琥珀色の瞳と目が合う。目の奥でじりじりと炎が燃えているのが見える。彼の瞳に映る俺は情けない顔をしていた。今にも泣きそうな、捨てられた犬のような顔だ。
「でも、俺は恋人しかPLAYしたくないし…」
「知ってる」
「なら…」
「カイル《おいで》」
「は?」
突然のCommandに驚く。それ以上にDomどうしでCommandなんて効かないはずなのに俺の身体が勝手に動き始めて驚き目を瞬いた。
「なんで……」
手を引かれ胡坐をかいたゼノの足の上に座らされる。
「なんでだろうなぁ~」
にやにやと嫌な笑みを浮かべたゼノが覗き込んできた。
「だって俺とお前はDomだろ?し、かも俺……」
「《目をそらすな》」
Commandに逆らえない。何で、どうして?
ゼノは笑みを深めてCommandで目をそらせない俺の頭をさわさわと撫でる。そしてふっと笑みを浮かべた。
嗚呼、ダメだ。
落ち着いてきたはずの気持ちが騒ぎ出すのを感じる。胸が切なくなり、目が熱くなる。
心の奥にしまっていた幾度も報われない想いに涙を流した夜とゼノとの大切な思い出が溢れる。
「カイル、俺のことをどう思ってる?《言え》」
「無理だっ」
「言えたら褒めてやるから、ほら。な?」
ゼノがぐっと顔を近づけてくる。鼻同士がふれ、ゼノの吐息が俺の唇を撫でた。
「お、俺…は………ゼノが好きだ」
その言葉をついに言ってしまった。
そうなるともう、ゼノに対する気持ちを隠すのは無理だった。本人に知られてしまった。言葉に出してしまえば、自分を偽ることはもうできない。
「《いい子だ》」
褒められ、あたたかいGlareに身体が包まれる。今まで威圧にしか感じられなかったのに。ゼノのご褒美Glareに思考がゆっくりとろけていくのがわかる。
「ゼ、ゼノは…?」
PLAYは恋人としかしない俺に「知っている」と言いながらCommandを使ったゼノの考えを聞きたい。
すると、身体を持ち上げられ向かい合うように座らされる。ゼノは真剣な表情で口を開いた。
「俺も好きだ、いや……愛してる」
「嘘だ!」
「嘘じゃない」
ゼノが、俺のことを好きなんて…。
言葉が頭に入ってこない。
「ずっと好きだった、初めて会ったそのときから」
「だって…お、前。そんなこと一度も言わなかったじゃん」
あ、ダメだ。零れる。目の前がぼやけてよく見えない。
「言おうとしたんだ、高校3年の夏に。カイルに二次性の再検査してもらってDomでも告白しようとしていたんだ。でもお前、大学がなんとかいって俺を避けてただろ?」
俺がゼノを好きになる前から俺が好きで、それなのに何も言わずにずっと俺のそばにいて、しかも告白しようとしていた?
「だって……そんな」
「俺も確信がなくて迷った。ごめんな」
ゼノに抱きしめられる。肩に寄せた俺の目からボロボロと涙が零れる。
「何言ってるんだよ……意味わかんねぇ………なんで、俺はDomなのに」
「お前は俺のSubになったんだよ」
「ゼノのSub?………」
泣いている俺を慰めるようにと優しく頭を撫でられる。
「そんなことありえるのか?」
鼻を啜りながら言えば、ゼノは頷き俺に説明してくれた。
「稀に二次性が後天的に変わることがあるらしい。まだそのケースが少ないから知られてないが」
「そう……なんだ」
「その二次性が変わった人をSwitchと言うらしい。カイル、お前はSwitchでDomからSubになったんだよ」
「俺がSubに……」
抱きしめるゼノの肩を押し身体を少し離すと、少し頬が赤くなったゼノと目が合った。愛おしいものを見ているような熱い視線。その細められた琥珀色の目の奥がちらっと光ったように見えた。
今ならはっきりとわかる。俺の身体がゼノのGlareとCommandを求めている。
心の奥底から支配されたい、満たされたいという欲望が湧いてくる。
今まで抑制剤と安定剤でDomとしての欲求をおさえてきた反動なのか、もうその欲求をとめられそうにない。
「ゼノっ…好きだ!」
彼の瞳に余裕のない俺の顔が映っている。
恥ずかしい。
でも今の俺にとっては些細なことだった。
「カイル……今まで俺にしてきた酷い態度、お仕置きするけど良いよな?」
俺を怖がらせないようにかDomとしての本能を必死に押し殺すようにしているものの、彼の目からGlareが漏れ出ている。腰に来るような甘く低い声。
その声とGlareに俺の身体は意思とは関係なく反応してしまう。
「うぅ……」
じわっと身体をゼノのあたたかいGlareが包み込んだ。身体から力が抜ける。
俺のすっかり力の抜けた身体を抱き留めながらゼノはクスリと笑った。
「お利巧すぎるだろ…お前。spaceに入りそうだな。そんなに嬉しいのか?」
身体から骨がなくなったみたいに力の抜けきっている。俺の身体はゼノの思い通りに動く人形になっていた。
「Safe wordはまだいいか……。カイル、お前何が欲しい?《教えて》」
「き……キスしてほし」
俺が言い終えるよりも早く唇を塞がれる。
唇の隙間からにゅるりとゼノの舌が口の中に入ってきた。上顎を擽り、歯列をなぞると舌を吸われる。必死に舌の動きを追っているうちに、もう何がなんだかわからなくなってくる。ただ気持ち良いという感覚だけが増えていく。濡れた唇の触れる音とお互いの乱れた呼吸が恥ずかしくて、それがたまらなく気持ちがよかった。
「んんっ…ん…」
飲みきれない唾液が口の端から零れる。ゼノは零れた唾液を舐めとりゆっくり俺をベッドへ押し倒すと、額をやんわり撫でた。
「はぁ…」
唇が離れる。
「もっと欲しいか?」
「んっ、もっと…キスして、ほし」
「くそっかわいい。もっとGlareをやる」
「んんっ…あぁっ」
ゼノに目を覗き込まれる。琥珀色の瞳の奥から強烈なGlareが放たれ俺の身体を包み込んだ。全身を支配されるのがわかる。でも、それが心地良い。
「敏感だな、カイル」
上着を胸の上までまくり、ズボンを下着と一緒に脱がされる。不思議と恥ずかしいと思わなかった。ただただ、この目の前の美しいDomのGlareとRewardがほしい。その一心だった。
ゼノが首筋、鎖骨、胸元とキスをしながらだんだん下にずれていく。濡れた唇の感触。ときどき肌を吸われるのがわかる。そして太腿を辺りに吐息を感じた。ごくり唾を思わず飲み込んだ。見られている。居心地が悪くなり膝を擦り合わせると、膝裏を掴まれ片足を肩に担がれた。すべて彼に見られている。
「やっやめ…見るなっ」
「シー、《動くな》」
「んぁっ…はぁ、ぁ」
動きをとめられてしまう。動かすことはできる。でも、Domの命令に逆らいたくない。そう思っているからか、動かす気は起きなかった。言うことを聞き、我慢すればご褒美ももらえるから。
ゼノの大きな手が肩に担いだ太腿を擦り、際どいところに触れる。キスをされて緩くたちあがった陰茎を掠めた。何度も何度も太腿を擦る手は肝心なとこを触らず、触れても羽が掠めるようにしか触れない。期待にだんだんと息が乱れてくる。
触れてほしい。思い切り強く。
「どうした?ん?」
とゼノが言う。俺がどうしてほしいかなんて、一番ゼノがわかっているはずなのに。
彼は俺の口から言わせたいのだ。はしたなく、触ってほしいと乞う様を―――――
「言ってみろ…なんでも欲しいものはくれてやる」
こういうときにわざとCommandを使わないのが憎らしい。ゼノは意地悪な男だった。
お互いに余裕はなかった。興奮して息を乱して、全身に汗をかいてる。ゼノも目もぎらつかせ、穴が開きそうなほど俺を見ていた。
「ほら、言わないとわからないぞ」
内腿を強く吸われる。吸われたところは赤く跡が残った。跡が着いたそこをゼノがゆっくりと舐めあげる。俺と目を合わせながら見せ付けるように。赤い舌が跡をなぞり、そして彼の歯が食い込んだ。
「うぅっ…ぁっ痛い」
痛みに捩れば、噛んだところを労わるように舐められる。赤い鬱血の上に歯形がついていた。それをみると何故か嬉しくなる。
「ほら、言えって…なぁ、俺も我慢できない」
「ぁ……ゼノが、欲しい」
「っ俺の全てをくれてやる」
言いながら、強引に唇を合わせられる。息を奪うような激しいキスだった。お互いの息遣いを感じる。頬に添えられた彼の手も汗でしっとり濡れていた。俺もすっかり汗をかいているから俺の汗かもしれないが。
「んぅ…ん…っは、ぁっ…」
「全部俺のものだ」
角度を変えながらゼノが言う。
そうだ、俺はゼノのもの。
そして、ゼノは俺の全て。
唇を何度も合わせていると、下からジーとファスナーを下げる音がする。見たい。けれど、顔をゼノに固定されていて顔をそらせない。
「んんっ…‥ふっ、はっ」
はぁっとゼノが苦しそうにあえいだ。
俺のDomが苦しんでいる。
自ら唇を押し付け、舌を吸うと早急に担がれていない方の足を開かれ、足の間に身体を割り込ませてきた。足の付け根に熱い何かが触れる。見なくても分かった、ゼノの猛った陰茎だ。俺のものを擦るように触れてくる。
でも足りない。手をのばすと指先が熱いものが掠めた。手探りでお互いの陰茎をあわせ扱き上げると、ゼノの唇がやっと離れる。喘ぐように息をすると、目元に優しくキスされた。
「いいぞ、でも…そのまま《射精禁止》だ」
「っく、あっ…ぅんん」
ゼノの手が俺の手ごと陰茎を握り激しく扱き始める。ぐちゅぐちゅと音をたてながらお互いの陰茎が擦れ気持ちがいい。彼が俺のこめかみ辺りに顔を埋め獣のように息を乱している。
「くっ、はぁっ…ぁ、もう」
「まだだ…」
Commandのせいで達することができない。でも、今にも熱が溢れようとぐるぐると下腹部で渦巻いていた。太腿が痙攣し腰が浮く。図らずに自分の陰茎を押し付ける形になってしまい、ゼノがふっと笑った。
「はっ…ん、厭らしいな。カイル」
「だって…もっぅ、我慢できなっ…あぁっふ」
「ほら、もう少しだ」
イきたい。
だしたい。
頭はそれで一杯になった。
扱きあげる手がはやくなる。その手に合わせてゼノが腰を動かすと、まるで犯されている気分になった。
「もっ無理、んっ・・・あ、あっ」
「くっ・・・いいぞ、俺も射精っ、カイル《イけ》」
言いながら先端を強く撫でられると、張り詰めていた糸が切れ達してしまう。腹あたりに熱いものがかかる。
余韻に戦慄きながら下を見ると程なくしてゼノも達し、俺の腹に熱を出していた。
「《いい子だ》」
「うぅっ、あっ・・・ぁんん」
達した余韻で身体はいっぱいいっぱいだったのに、追い討ちをかけるようにゼノがGlareとRewardをくれる。もう俺のキャパを超えていた。
ふわふわと思考がとろけて、今まで感じたことのない多幸感に支配される。彼のGlareに全身が包まれて、ゼノで満たされていく。
「Space入ったのか、本当にいい子だな。手綱は握ってやるから、可愛いい顔をもっと見せろ」
「んぅ・・・ぁっゼ・・・ノ」
―――ここがSpace。
プレイもはじめてだったけどSpaceは、はじめてだった。
ふわふわする。身体が浮いているような感覚だ。ゼノしか分からない。視界がぼんやりして、音も鈍い。でも、怖くない。
ゼノが俺の手を握ってくれているから。
このDomなら俺の全てを任せられる。俺は全身に彼の心地いいGlareを感じながら、思考を手放した。
◇◇◇◇
大好きなDom/Subです!
後日攻め視点も載せる予定です。よろしくお願いします!
床から壁、天井まで白い大理石で覆われ、窓は一つもない。
天井には照明が一つだけついていて部屋の中は薄暗く、その照明の下には黒いシーツと枕が二つ並んだ大きなベッドが置かれていた。そしてこの部屋にはベッドしか家具がない。
枕元には白いカードが置かれている。二つ折りになったそれを手に取って読んでみるとそこには『ここはPLAYしないと出られない部屋です』と書かれていた。
「どうすんだよ、これ」
俺は横で能天気に寝そべっている男の顔にカードを載せる。彼は顔に置かれたカードを邪魔そうに手に取りその一文を読むと目を細めた。
「やるしかないだろう?」
「はぁ?無理だから」
俺がそう言うと男はベッドから起き上がり部屋をうろうろし始める。
「無駄だって、もう俺が調べた。壁は大理石で壊れそうもないしドアもない」
男は部屋を壁伝いに歩いてすぐにベッドに戻ってくる。
「もうPLAYするしかないだろ」
「いやだから無理」
「何が嫌なんだよ」
「お前がDomで!!俺もDomだからだ!」
今俺の目の前で呑気に腹を掻きながらPLAYしようといってくるこの男はDomだ。しかも、幼馴染。
まだ知らないやつとここにとじ込められた方がましだった。なぜなら、俺の目の前にいる男 ゼノ・クレメンズのことを中学から高校を卒業するまでずっと好きだったからだ。しかも初恋。
ゼノは恐ろしく顔が整っていて、健康的に日に焼けた肌に肉体は筋肉に覆われ肉食獣のように身体はしなやかで美しい。ゴールデンレトリーバーのような艶やかな金髪と瞳は赤味帯びた琥珀色をしている。逞しげにはっきりした目鼻立ちをしているが、俺は彼の魅力が他にもあるのを知っていた。彼の魅力は笑ったときに見えるえくぼとわずかに厚い下唇だ。
好きだと自覚したのは中学1年の学校に慣れてきたころで、失恋したのも早かった。何故なら俺とゼノの二次性がDomだとわかったからだ。
「PLAYパートナー=恋人でなくてはならない」なんてこともないし「PLAY=sex」でもないがパートナー兼恋人が一般的だった。俺もその考えの一人でどうしてもPLAYパートナーは恋人じゃなきゃ嫌だった。だからDom同士の俺とゼノはたとえ気持ちが通じ合っても恋人にはなれないのだ。
Dom同士はPLAYができないから。
お互いの欲求を満たせない関係なんて絶対にうまくいかない。
高校を卒業しゼノと違う大学に進み彼から離れて5年たった今、やっと彼に対する気持ちが落ち着いてきたばかりだった。
だから彼から一刻も早く離れたかった。卒業間近俺はゼノを避けに避けまくったから……隠すつもりもなかったし。無理やり理由をつけて彼から距離をおいた。
今思えばひどい態度だったと思う。授業の合間はトイレに行き話しかけてくるゼノから逃げ、最後の授業が終わりベルが鳴った瞬間家に逃げるように帰った。
でも仕方なかったのだ。当時はそれだけ必死だったから。
「PLAYしなきゃ出られないだろ?一生ここで俺と二人きりでいいのか?」
ゼノの指が俺の下唇に触れる。ゆっくり感触を楽しみながら形をなぞる様に。気付けばゼノはすぐそばにいた。ゼノの琥珀色の瞳と目が合う。目の奥でじりじりと炎が燃えているのが見える。彼の瞳に映る俺は情けない顔をしていた。今にも泣きそうな、捨てられた犬のような顔だ。
「でも、俺は恋人しかPLAYしたくないし…」
「知ってる」
「なら…」
「カイル《おいで》」
「は?」
突然のCommandに驚く。それ以上にDomどうしでCommandなんて効かないはずなのに俺の身体が勝手に動き始めて驚き目を瞬いた。
「なんで……」
手を引かれ胡坐をかいたゼノの足の上に座らされる。
「なんでだろうなぁ~」
にやにやと嫌な笑みを浮かべたゼノが覗き込んできた。
「だって俺とお前はDomだろ?し、かも俺……」
「《目をそらすな》」
Commandに逆らえない。何で、どうして?
ゼノは笑みを深めてCommandで目をそらせない俺の頭をさわさわと撫でる。そしてふっと笑みを浮かべた。
嗚呼、ダメだ。
落ち着いてきたはずの気持ちが騒ぎ出すのを感じる。胸が切なくなり、目が熱くなる。
心の奥にしまっていた幾度も報われない想いに涙を流した夜とゼノとの大切な思い出が溢れる。
「カイル、俺のことをどう思ってる?《言え》」
「無理だっ」
「言えたら褒めてやるから、ほら。な?」
ゼノがぐっと顔を近づけてくる。鼻同士がふれ、ゼノの吐息が俺の唇を撫でた。
「お、俺…は………ゼノが好きだ」
その言葉をついに言ってしまった。
そうなるともう、ゼノに対する気持ちを隠すのは無理だった。本人に知られてしまった。言葉に出してしまえば、自分を偽ることはもうできない。
「《いい子だ》」
褒められ、あたたかいGlareに身体が包まれる。今まで威圧にしか感じられなかったのに。ゼノのご褒美Glareに思考がゆっくりとろけていくのがわかる。
「ゼ、ゼノは…?」
PLAYは恋人としかしない俺に「知っている」と言いながらCommandを使ったゼノの考えを聞きたい。
すると、身体を持ち上げられ向かい合うように座らされる。ゼノは真剣な表情で口を開いた。
「俺も好きだ、いや……愛してる」
「嘘だ!」
「嘘じゃない」
ゼノが、俺のことを好きなんて…。
言葉が頭に入ってこない。
「ずっと好きだった、初めて会ったそのときから」
「だって…お、前。そんなこと一度も言わなかったじゃん」
あ、ダメだ。零れる。目の前がぼやけてよく見えない。
「言おうとしたんだ、高校3年の夏に。カイルに二次性の再検査してもらってDomでも告白しようとしていたんだ。でもお前、大学がなんとかいって俺を避けてただろ?」
俺がゼノを好きになる前から俺が好きで、それなのに何も言わずにずっと俺のそばにいて、しかも告白しようとしていた?
「だって……そんな」
「俺も確信がなくて迷った。ごめんな」
ゼノに抱きしめられる。肩に寄せた俺の目からボロボロと涙が零れる。
「何言ってるんだよ……意味わかんねぇ………なんで、俺はDomなのに」
「お前は俺のSubになったんだよ」
「ゼノのSub?………」
泣いている俺を慰めるようにと優しく頭を撫でられる。
「そんなことありえるのか?」
鼻を啜りながら言えば、ゼノは頷き俺に説明してくれた。
「稀に二次性が後天的に変わることがあるらしい。まだそのケースが少ないから知られてないが」
「そう……なんだ」
「その二次性が変わった人をSwitchと言うらしい。カイル、お前はSwitchでDomからSubになったんだよ」
「俺がSubに……」
抱きしめるゼノの肩を押し身体を少し離すと、少し頬が赤くなったゼノと目が合った。愛おしいものを見ているような熱い視線。その細められた琥珀色の目の奥がちらっと光ったように見えた。
今ならはっきりとわかる。俺の身体がゼノのGlareとCommandを求めている。
心の奥底から支配されたい、満たされたいという欲望が湧いてくる。
今まで抑制剤と安定剤でDomとしての欲求をおさえてきた反動なのか、もうその欲求をとめられそうにない。
「ゼノっ…好きだ!」
彼の瞳に余裕のない俺の顔が映っている。
恥ずかしい。
でも今の俺にとっては些細なことだった。
「カイル……今まで俺にしてきた酷い態度、お仕置きするけど良いよな?」
俺を怖がらせないようにかDomとしての本能を必死に押し殺すようにしているものの、彼の目からGlareが漏れ出ている。腰に来るような甘く低い声。
その声とGlareに俺の身体は意思とは関係なく反応してしまう。
「うぅ……」
じわっと身体をゼノのあたたかいGlareが包み込んだ。身体から力が抜ける。
俺のすっかり力の抜けた身体を抱き留めながらゼノはクスリと笑った。
「お利巧すぎるだろ…お前。spaceに入りそうだな。そんなに嬉しいのか?」
身体から骨がなくなったみたいに力の抜けきっている。俺の身体はゼノの思い通りに動く人形になっていた。
「Safe wordはまだいいか……。カイル、お前何が欲しい?《教えて》」
「き……キスしてほし」
俺が言い終えるよりも早く唇を塞がれる。
唇の隙間からにゅるりとゼノの舌が口の中に入ってきた。上顎を擽り、歯列をなぞると舌を吸われる。必死に舌の動きを追っているうちに、もう何がなんだかわからなくなってくる。ただ気持ち良いという感覚だけが増えていく。濡れた唇の触れる音とお互いの乱れた呼吸が恥ずかしくて、それがたまらなく気持ちがよかった。
「んんっ…ん…」
飲みきれない唾液が口の端から零れる。ゼノは零れた唾液を舐めとりゆっくり俺をベッドへ押し倒すと、額をやんわり撫でた。
「はぁ…」
唇が離れる。
「もっと欲しいか?」
「んっ、もっと…キスして、ほし」
「くそっかわいい。もっとGlareをやる」
「んんっ…あぁっ」
ゼノに目を覗き込まれる。琥珀色の瞳の奥から強烈なGlareが放たれ俺の身体を包み込んだ。全身を支配されるのがわかる。でも、それが心地良い。
「敏感だな、カイル」
上着を胸の上までまくり、ズボンを下着と一緒に脱がされる。不思議と恥ずかしいと思わなかった。ただただ、この目の前の美しいDomのGlareとRewardがほしい。その一心だった。
ゼノが首筋、鎖骨、胸元とキスをしながらだんだん下にずれていく。濡れた唇の感触。ときどき肌を吸われるのがわかる。そして太腿を辺りに吐息を感じた。ごくり唾を思わず飲み込んだ。見られている。居心地が悪くなり膝を擦り合わせると、膝裏を掴まれ片足を肩に担がれた。すべて彼に見られている。
「やっやめ…見るなっ」
「シー、《動くな》」
「んぁっ…はぁ、ぁ」
動きをとめられてしまう。動かすことはできる。でも、Domの命令に逆らいたくない。そう思っているからか、動かす気は起きなかった。言うことを聞き、我慢すればご褒美ももらえるから。
ゼノの大きな手が肩に担いだ太腿を擦り、際どいところに触れる。キスをされて緩くたちあがった陰茎を掠めた。何度も何度も太腿を擦る手は肝心なとこを触らず、触れても羽が掠めるようにしか触れない。期待にだんだんと息が乱れてくる。
触れてほしい。思い切り強く。
「どうした?ん?」
とゼノが言う。俺がどうしてほしいかなんて、一番ゼノがわかっているはずなのに。
彼は俺の口から言わせたいのだ。はしたなく、触ってほしいと乞う様を―――――
「言ってみろ…なんでも欲しいものはくれてやる」
こういうときにわざとCommandを使わないのが憎らしい。ゼノは意地悪な男だった。
お互いに余裕はなかった。興奮して息を乱して、全身に汗をかいてる。ゼノも目もぎらつかせ、穴が開きそうなほど俺を見ていた。
「ほら、言わないとわからないぞ」
内腿を強く吸われる。吸われたところは赤く跡が残った。跡が着いたそこをゼノがゆっくりと舐めあげる。俺と目を合わせながら見せ付けるように。赤い舌が跡をなぞり、そして彼の歯が食い込んだ。
「うぅっ…ぁっ痛い」
痛みに捩れば、噛んだところを労わるように舐められる。赤い鬱血の上に歯形がついていた。それをみると何故か嬉しくなる。
「ほら、言えって…なぁ、俺も我慢できない」
「ぁ……ゼノが、欲しい」
「っ俺の全てをくれてやる」
言いながら、強引に唇を合わせられる。息を奪うような激しいキスだった。お互いの息遣いを感じる。頬に添えられた彼の手も汗でしっとり濡れていた。俺もすっかり汗をかいているから俺の汗かもしれないが。
「んぅ…ん…っは、ぁっ…」
「全部俺のものだ」
角度を変えながらゼノが言う。
そうだ、俺はゼノのもの。
そして、ゼノは俺の全て。
唇を何度も合わせていると、下からジーとファスナーを下げる音がする。見たい。けれど、顔をゼノに固定されていて顔をそらせない。
「んんっ…‥ふっ、はっ」
はぁっとゼノが苦しそうにあえいだ。
俺のDomが苦しんでいる。
自ら唇を押し付け、舌を吸うと早急に担がれていない方の足を開かれ、足の間に身体を割り込ませてきた。足の付け根に熱い何かが触れる。見なくても分かった、ゼノの猛った陰茎だ。俺のものを擦るように触れてくる。
でも足りない。手をのばすと指先が熱いものが掠めた。手探りでお互いの陰茎をあわせ扱き上げると、ゼノの唇がやっと離れる。喘ぐように息をすると、目元に優しくキスされた。
「いいぞ、でも…そのまま《射精禁止》だ」
「っく、あっ…ぅんん」
ゼノの手が俺の手ごと陰茎を握り激しく扱き始める。ぐちゅぐちゅと音をたてながらお互いの陰茎が擦れ気持ちがいい。彼が俺のこめかみ辺りに顔を埋め獣のように息を乱している。
「くっ、はぁっ…ぁ、もう」
「まだだ…」
Commandのせいで達することができない。でも、今にも熱が溢れようとぐるぐると下腹部で渦巻いていた。太腿が痙攣し腰が浮く。図らずに自分の陰茎を押し付ける形になってしまい、ゼノがふっと笑った。
「はっ…ん、厭らしいな。カイル」
「だって…もっぅ、我慢できなっ…あぁっふ」
「ほら、もう少しだ」
イきたい。
だしたい。
頭はそれで一杯になった。
扱きあげる手がはやくなる。その手に合わせてゼノが腰を動かすと、まるで犯されている気分になった。
「もっ無理、んっ・・・あ、あっ」
「くっ・・・いいぞ、俺も射精っ、カイル《イけ》」
言いながら先端を強く撫でられると、張り詰めていた糸が切れ達してしまう。腹あたりに熱いものがかかる。
余韻に戦慄きながら下を見ると程なくしてゼノも達し、俺の腹に熱を出していた。
「《いい子だ》」
「うぅっ、あっ・・・ぁんん」
達した余韻で身体はいっぱいいっぱいだったのに、追い討ちをかけるようにゼノがGlareとRewardをくれる。もう俺のキャパを超えていた。
ふわふわと思考がとろけて、今まで感じたことのない多幸感に支配される。彼のGlareに全身が包まれて、ゼノで満たされていく。
「Space入ったのか、本当にいい子だな。手綱は握ってやるから、可愛いい顔をもっと見せろ」
「んぅ・・・ぁっゼ・・・ノ」
―――ここがSpace。
プレイもはじめてだったけどSpaceは、はじめてだった。
ふわふわする。身体が浮いているような感覚だ。ゼノしか分からない。視界がぼんやりして、音も鈍い。でも、怖くない。
ゼノが俺の手を握ってくれているから。
このDomなら俺の全てを任せられる。俺は全身に彼の心地いいGlareを感じながら、思考を手放した。
◇◇◇◇
大好きなDom/Subです!
後日攻め視点も載せる予定です。よろしくお願いします!
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
隠れSubは大好きなDomに跪きたい
みー
BL
ある日ハイランクDomの榊千鶴に告白してきたのは、Subを怖がらせているという噂のあの子でー。
更新がずいぶん遅れてしまいました。全話加筆修正いたしましたので、また読んでいただけると嬉しいです。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる