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第13章
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俺はシーバスリーガル兄弟によって椅子に座らされてガムテープで後ろ手に固定された。
「もう一度訊く」余市は煙草を吸っていた。「相方……ジョニー・ウォーカーはどこにいる?」
俺は黙っていた。どう答えればいいのかわからなかった。あいつはどうしたのか、それは俺も知らない。逃げたのか? それともなにか企んでいるのか。
「――まあ、君に訊かずとも、これで呼び出せばいい話だが」
余市は俺の携帯を出した。指で操作する。
「セキュリティロックくらいしておくんだったな」
周りで小さく笑いが起こった。余市は携帯を耳に当てた。そして間もなく舌打ちをすると、床に放り投げて拳銃でそれを撃った。
「電源が入ってなかった。……見捨てられたな」
はあとエンジェルがため息をついた。「かわいそうな子」
えっと俺は余市を見た。まさか本当に……関係ないと吐き捨てて、奴は俺を見放したのか……。
前々から首を突っ込むなと言っていた。それを無視し続けたのは確かに俺だ。でもだからといって……いや、やめよう。
俺とあいつはそもそも友達ではない。仲間でもない。こいつらの言うような相方でもない。命を賭けてまで一緒に行動するような間柄ではない。立場が逆だったら俺だって奴を見捨てるだろう。
畜生、俺は鼻の奥がツンと痛むのを感じた。蹴られたせいではない。畜生ともう一度呟く。堪えられなかった。涙が落ちる。もうダメだ。そう思うと泣くことを止められなかった。
「無様ね」
スマイルが笑っていた。はあと余市がため息をついた。
「泣いたって謝ったって許しちゃやれねえよ」
「あんたを思って止めたのに」
「それを無視したんだからな」
シーバスリーガル兄弟が言った。
「そういうことだ」余市が言った。「これは誰が悪いんじゃない、自分のせいだ。全部」
涙が止まらなかった。死ぬのが怖いせいなのか見捨てられた悲しさのせいなのか、なんなのかはわからなかった。もう俺には泣くことしかできなかった。
「臭いわね」
唐突にエンジェルが言った。
「そう?」
スマイルが言うと、
「……マズいわね」
エンジェルが奥へ向かっていった。遅れてスマイルがあとを追った。余市は舌打ちをした。エンジェルとスマイルが叫ぶ声がした。
「野郎」
俺が座っている椅子を蹴った。俺は床に頭を打ち付けて、そのまま転がった。
「火事です」
「逃げましょう」
シーバスリーガル兄弟が言うと、余市はさらに俺の顔面に蹴りを入れて出口へ向かった。俺は倒れたままエンジェルとスマイルが向かったほうへ視線を向けた。二人がこちらへやってくる。その後を白い煙が追ってきていた。
「やってくれたわね」
エンジェルが俺の足元まで来ると銃口を向けた。
「ぶっ殺してやるわ」
なにしてるんですか、逃げ遅れますよ、手下がそう叫んでいる。うるさいとエンジェルが叫んだ。煙がこちらまで迫ってきている。引っ張っていってとスマイルが怒鳴る。手下がエンジェルを羽交い絞めにしてそのまま引きずっていった。スマイルが乱暴にエレベーターのボタンを叩く。ああもう、スマイルが叫んだ。
「裏口から行くわよ」
はいと言ってエンジェルとスマイル、それに三、四人の手下が逃げていった。
煙がこちらまで届いた。本当に火薬の臭いがした。誰もいない部屋で俺は焼かれて死ぬのか、そう思うとさらに涙が出てきた。助けてくれと叫んで身をよじらせる。拘束は解けないし声も届かない。叫び続けてそのまま煙を吸い込んでしまった。思い切りむせて、むせながら泣いた。
「馬鹿野郎が」
身が軽くなるのを感じた。
「こっちに来い」
俺の腕が肩にかけられて立ち上がらされた。
「ジョニー・ウォーカー……」
奴は聞こえていないのか、そのまま俺を店の奥へと連れて行った。
「もう一度訊く」余市は煙草を吸っていた。「相方……ジョニー・ウォーカーはどこにいる?」
俺は黙っていた。どう答えればいいのかわからなかった。あいつはどうしたのか、それは俺も知らない。逃げたのか? それともなにか企んでいるのか。
「――まあ、君に訊かずとも、これで呼び出せばいい話だが」
余市は俺の携帯を出した。指で操作する。
「セキュリティロックくらいしておくんだったな」
周りで小さく笑いが起こった。余市は携帯を耳に当てた。そして間もなく舌打ちをすると、床に放り投げて拳銃でそれを撃った。
「電源が入ってなかった。……見捨てられたな」
はあとエンジェルがため息をついた。「かわいそうな子」
えっと俺は余市を見た。まさか本当に……関係ないと吐き捨てて、奴は俺を見放したのか……。
前々から首を突っ込むなと言っていた。それを無視し続けたのは確かに俺だ。でもだからといって……いや、やめよう。
俺とあいつはそもそも友達ではない。仲間でもない。こいつらの言うような相方でもない。命を賭けてまで一緒に行動するような間柄ではない。立場が逆だったら俺だって奴を見捨てるだろう。
畜生、俺は鼻の奥がツンと痛むのを感じた。蹴られたせいではない。畜生ともう一度呟く。堪えられなかった。涙が落ちる。もうダメだ。そう思うと泣くことを止められなかった。
「無様ね」
スマイルが笑っていた。はあと余市がため息をついた。
「泣いたって謝ったって許しちゃやれねえよ」
「あんたを思って止めたのに」
「それを無視したんだからな」
シーバスリーガル兄弟が言った。
「そういうことだ」余市が言った。「これは誰が悪いんじゃない、自分のせいだ。全部」
涙が止まらなかった。死ぬのが怖いせいなのか見捨てられた悲しさのせいなのか、なんなのかはわからなかった。もう俺には泣くことしかできなかった。
「臭いわね」
唐突にエンジェルが言った。
「そう?」
スマイルが言うと、
「……マズいわね」
エンジェルが奥へ向かっていった。遅れてスマイルがあとを追った。余市は舌打ちをした。エンジェルとスマイルが叫ぶ声がした。
「野郎」
俺が座っている椅子を蹴った。俺は床に頭を打ち付けて、そのまま転がった。
「火事です」
「逃げましょう」
シーバスリーガル兄弟が言うと、余市はさらに俺の顔面に蹴りを入れて出口へ向かった。俺は倒れたままエンジェルとスマイルが向かったほうへ視線を向けた。二人がこちらへやってくる。その後を白い煙が追ってきていた。
「やってくれたわね」
エンジェルが俺の足元まで来ると銃口を向けた。
「ぶっ殺してやるわ」
なにしてるんですか、逃げ遅れますよ、手下がそう叫んでいる。うるさいとエンジェルが叫んだ。煙がこちらまで迫ってきている。引っ張っていってとスマイルが怒鳴る。手下がエンジェルを羽交い絞めにしてそのまま引きずっていった。スマイルが乱暴にエレベーターのボタンを叩く。ああもう、スマイルが叫んだ。
「裏口から行くわよ」
はいと言ってエンジェルとスマイル、それに三、四人の手下が逃げていった。
煙がこちらまで届いた。本当に火薬の臭いがした。誰もいない部屋で俺は焼かれて死ぬのか、そう思うとさらに涙が出てきた。助けてくれと叫んで身をよじらせる。拘束は解けないし声も届かない。叫び続けてそのまま煙を吸い込んでしまった。思い切りむせて、むせながら泣いた。
「馬鹿野郎が」
身が軽くなるのを感じた。
「こっちに来い」
俺の腕が肩にかけられて立ち上がらされた。
「ジョニー・ウォーカー……」
奴は聞こえていないのか、そのまま俺を店の奥へと連れて行った。
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