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8.コントロール不可能(4)
しおりを挟むもう幾度目かのキスのあと、
抱きしめられていたら、なんだか、胸の辺りがざわざわっとして、
これ、なんだろう? と、
わずかに身体をモゾ、とさせたら、そんなボクのささいな身動きに、
「あ、ワリぃ」
と、慌てたように先輩が、ぱっと腕をといてボクの身体をはなした。
その瞬間の、青くくすんだ気持ちがなんなのか咄嗟に自分でもつかめなくて、
それで、
自分の気持ちの色にも、先輩の「わりぃ」にも、
何だろう? と思ってると、
「オレ、汗クサイだろう・・?」
決まり悪そうに沢垣先輩が言った。くっきりとしている眉毛が下がると、男っぽい顔立ちがなんだか、でかいクマのぬいぐるみみたいに可愛らしい雰囲気になる。
あ、こーゆー表情もスキだなあ、とか思ってら、
(え、『スキ』・・・って?)
自分でつかった表現にびっくりした。
ううん。ううん。これはあれだ。
先輩が、ってことじゃなくて、
表情が、ってことだし。
そんなふうに頭ん中で葛藤してたら、
全然、先輩、汗くさくなんかないよ。それに、ボクだって部活で汗かいてるし、って言うのが遅れて、
それで、
「ほい」
先輩が足元に置いていたボクの学校指定のサブバッグをひろってくれた。
「あ、ありがと」
差し出されたものを受け取った。
もう、帰る気なんだ、とわかって、こころの底で、「ちぇー」と思ってる自分に気づいて、
また、びっくりした。
まだ、舌にさっきまでの感触が残っている。
身体が、ボクが、先輩から離れたくない、と思っている。
―――― も一回だけ、
と思いそうになって、慌てて頭の中の言葉を消した。
「陸?」
自分のスポーツバッグを肩にかけて、身体はもう公園の出口のほうを向いている先輩が、ぎゅっと眉根を寄せているボクを怪訝そうに見た。
「あ、えっと、明日の宿題を思い出したんだ、今」
とっさに言い訳をして、先輩の横に並んだ。
「そうか、何が出たんだ」
歩き始めた先輩の隣で、歩幅を合わせて足を進めながら、
公園の出口まででいいから、
手、とかつなぎたいなー、
と、思って、
先輩と手をつないでる姿が頭に浮かんだ瞬間、
わっ、なんで、ボク、そんなこと思っちゃうんだ、って、また、びっくりして、
きゅうっと顔をしかめた。
「・・・数学。―――― 高校の教科書ってさ、中学のと違って、字はちっちゃいし、解説は言葉が難しくてさ、判りにくいよね」
と、誤魔化したけど、それはそれで、本当のことだった。
口をとがらせながらそう言ったボクに、先輩が苦笑いをこぼした。
先輩と一緒にいると、お互いの空気がしっくりなじんでるみたいに居心地がよくて、なのに、へんな感じに緊張して・・・、
緊張でかたくなった身体は、けど、先輩がふれてくると、溶ける。
溶けて、そこから、―――― もっと、へんな感じに身体の自由がきかなくなる。ゆるっと溶けて、それで、すごく、どきどきしてくるんだ。
ただの、学校の先輩だったはずなのに。
まだ出会って一ヶ月もたってないのに。
知らなかった先輩のいろんな顔を知るたびに、
もっと、いっぱい先輩のことを知りたくなる。
どうして、ボク、こんなに、先輩のことで頭の中が埋まってったりするんだろう。
―――― 好きって言われたら好きになっちゃうもんなのかなあ・・・。
学校の食堂で、クラスの友だちと昼飯を食べていたけれど、野郎ばっかで、騒がしい限りなのに、なぜか、ボクの頭の中の隅っこは静かだった。
そこの場所は、沢垣先輩のことばかりが浮かび上がってくる。
すぐ隣りでは、板倉と早瀬が昨日のK-1の話しで盛り上がりに盛り上がっている。
だから、なんとはなしに、頭の中で考えたつもりだったから、
「誰の話し?」
ボクの目の前にすわっている北野の耳に届いているとは思わなかった。
だって、板倉の身びいきな話しに早瀬の味方になってさっきから茶々を入れている。
「え、あ」
だから、まさか、返事が返ってくるとは思ってなくて、どぎまぎした。
「小笠原の?」
「ぼ、ボク、なんか言ったっけ?」
「『スキって言われたらスキになっちゃうのかなあ』って言ったよ」
北野は、子犬みたいなあいらしい瞳をしている。けど、そのやや子どもっぽい容姿と反比例して、毒舌だし、物事は率直に言うタイプだ。
その北野のつぶらな瞳が、ボクに向かって楽しげに細められていた。
( つづく )
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