放課後シリーズ 妄想暴走な先輩×鉄拳の後輩

ヒイラギ

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16.ぜんぶ

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「ねえ、きみきみ、小笠原くん」
部活の休憩中に、呼びかけられた。
聞き覚えのあるその声に、え? と思って、声がしてきたほうを見上げると、
「・・東野、先輩?」
体育館を半分に仕切っている緑のネットの向こう側に、バスケ部の東野先輩がにこやかな笑顔をボクに向けて立っていた。
真夏の体育館は、むあん、とムシ暑い。
午後3時ともなれば、いくら扉や窓を開け放していても、風はそよ、とも吹いてこない。
休憩中でさえも、ぬぐってもぬぐっても汗がぽたぽたとこぼれおちてくる。
なのに夏休みの練習時間が午後だけの卓球部とちがって、バスケ部は午前中から部活をしているのに、東野先輩はどこか涼しげだ。
色素が薄くて、柔和な顔立ちだからかな?
背が高くて、細身の身体つき。長めの髪を、ひとつにまとめて首の後ろでしばっている。さすがに、髪の毛は汗でしめっているけれど、それでもやや茶色くて細い髪はサラっとして見える。
整った顔立ちはおだやかそうで ―――― 事実、声を荒げているところを見たことはないけれど、うかうかしていると、蜂の一刺しのような鋭い毒舌で、やられてしまうんだと、バスケ部の1年生が言っていたっけ・・・。
「ちょっとこっちに、来てくんないかなあ」
その東野先輩が、ボクに手招きした。
東野先輩はバスケ部の副キャプテンで、ボクの密かな恋人、バスケ部の沢垣先輩と同じ2年生だ。
夏の大会のあと3年生が引退して、ボクが入っている卓球部も、沢垣先輩が入っているバスケ部も2年生が新しいキャプテンと副キャプテンになった。
で、沢垣先輩はバスケ部の新キャプテンに選ばれたようなんだけど・・・。
あの性格で大丈夫なのかなあ、とボクは少し心配している。
「・・・ボク、ですか?」
仕切りネットの近くにすわっていたボクは、床から立ち上がって、東野先輩に近づいた。
ボクのそばにすわっていた同じ1年生の佐倉が、どうしたんだ? って顔で、こっちを見たから、なんでもないよ、って意味でかるく手を振った。
「うん。ちょっとね、小笠原くんにお願いがあるんだ」
東野先輩は、ちょっと困ったふうな表情をすると、近くにいた、卓球部キャプテンの城島先輩に「小笠原くんを借りていくな」と声をかけた。
部活は違うといえども、先輩後輩のヒエラルキーは絶対なので、ボクは、なんだろう? と首をかしげつつも、卓球部の先輩に「ちょっと行ってきます」と言って、天井からカーテンのようにぶら下がっている緑色のネットをめくり、バスケ部のテリトリーに入って行った。








手招きされるまま体育館の入り口まで東野先輩について行くと、
東野先輩は入り口の右手にある階段 ―――― 人目の付かないところで立ち止まった。
そして、
「はい、これ」
と、手に持っていた水のペットボトルとタオルをボクに渡してきた。
・・・なんだろう? と思いながらも受け取ると、東野先輩が両手でガシっとボクの頭をつかんだ。
「えっ、あのっ?!」
ボクが驚いて上げた声なんか、おかまいなしに、
「顔をこんくらい傾けて、」
と、東野先輩が力強い手で、ボクの顔をななめに傾けた。
そして、さらに、
「で、こんなふうに上げて、と」
アゴを持たれてちょっとばかし上を向かされた。
「それで、上目づかいで、くちびるを半開きにしてくれるかな?」
勢いにおされて、言われた通りにしてみたら、
「をを、オレって、グッジョブ」
東野先輩が満足げな顔をした。
「で、小笠原くん。キミの肩に、われら、バスケ部の命運がかかってるから、よろしく頼むな」
は?
「その今の顔と角度で、沢垣に『先輩、休憩しよv』と、言ってきてくれ」
なるっべく、やさしい声でな、と言われた。
ますますわけがわからなくて、
はあ・・・? って顔したボクに、東野先輩が肩をすくめてみせた。
「やー、昨日の西津高校との練習試合、いいところまでいったんだけど、接戦で負けちゃったんだよね。うちの学校、西津高校とはいつも市内大会で優勝を争っているライバル校だからさ、沢垣が『練習が足りねぇんだよっ!』とか言って激怒しちゃってね」
ぽりぽりっと東野先輩が頭をかいた。
「あいつのああいう猪突猛進なとこはキャプテンらしくっていいんだけど、自分が人一倍体力バカだっていう自覚がなくてさ。しかも、うちの部員も負けん気の強いやつらばっかだから、一応、沢垣の練習メニューについてってるけど、みんな疲労も極限なわけだよ」
そーいえば、今日は、バスケ部の練習、いつにもまして厳しいなあとは思っていた。沢垣先輩も、すごく真剣な顔して、檄を飛ばしてたし。
でも、それと、ボクが先輩に、「休憩しよう」って言うのとは、なんのつながりがあるんだろうか。
「な、なんでボクが・・」
「そりゃまあ、小笠原くんが、あいつのウィークポイントだからね」
へ?
意味深な笑みを浮かべて東野先輩が言った。
そこに、ピーっという鋭い笛の音がした。
「ああ、交代だ。沢垣がコートから出てくるからよろしくな」
「あの、でも、こんなに一生懸命、部活やってる沢垣先輩にボクが言ったってムダだと思いますけど」
「ま、やってみようや」
戸惑うボクに、東野先輩はかるくそう言って、ボクの背中を押した。
そうかあ、と思いながら、体育館の中に戻って、
身体中にみっしりと汗をかいたまま、コートの中に向かって、何やら怒鳴っている沢垣先輩にうしろから、おそるおそる近づいた。
「あ、あの・・せんぱい」
「ああっ?! 」
ものっそ、怖い顔でふりむかれて、ビクっとなって、脇に立っている東野先輩をちらっと見たら、頑張れのコールを目で送られた。
ので、また、沢垣先輩に視線を戻すと、
「あー、なんだ、陸かぁ。ん? どうしたんだぁ?」
呼びかけたのがボクだとわかった沢垣先輩の表情と口調が急にかわった。
「え、えーと」
東野先輩が顔を傾けて、アゴを少しあげてる・・・。あ、そうだった・・・・、でも、そのタコチューの口は出来ません。
無理だと思うけどなー、と思いつつ、教えられた顔の角度と表情で言ってみた。
「『先輩、休憩しよv』」
「そうだなvv」
(ぇ・・、)
そして、
沢垣先輩は、くるんとコートのほうを向くと、野太い声で叫んだ。
「をーし、みんな、休憩ーーーっ!!」




・・・なんでっっ!??







気がつけば、沢垣先輩に体育館の裏へ連れてこられていた。
「おいしそーだなー、陸のくちびるサクランボみたいになってる」
ついさっきまで練習していたから熱くて顔が上気してるんだろうなあボク。汗も、いっぱいかいてるし。
「部活中は、しないから」
へらーっと表情を崩してる先輩に、ボクは厳しい口調で言った。
先輩は、うんうんとうなずいてる。
「わかってるわかってる」
そう?
「つやっつや」
指でさわってくる、・・・本当にわかってる?
背中にまわってきてる手がなんか怪しい。
「チュってだけしよっか?」
全然、わかってないし!
「や・だ・!」
「な、すこーし、ちゅ、って」
「もォ、やだって、言ってるだろ」
絶対に、ちゅ、だけで終わらない確率120%
「んー、陸、その顔もかわいいなあ」
先輩、ボクの話し聞いてる? って言おうとしたら、先輩のでっかい手に、顔をガバっとつかまれて、
問答無用に、
ちゅううううううーって。
・・・・・・・・・・・。
でも、なんか、先輩しょうがないんだから、とか流されてしまうあたり、ボクもそうとうおかしいのかも、と反省しながら、やっぱり、なんといおーか、先輩とのキスは気持ちよくて、ダメだよボク、と自分につっこみながらも、うっとりなんか、してきたりして、部活中なのに、学校なのにー、とか思いながらも、くちびるをかるく噛まれると、あ、とか息がもれて・・・、
そしたら、
背中にまわっていた先輩の手が、もっと下にさがってきて、
部活用の短パンのスソから入ってきて、しかも下着のすそもくぐって、直接、ボクのお尻を、モミモミっと・・・――――。









「あれ、小笠原くん、沢垣は?」
一人で、体育館に戻ったら、東野先輩に聞かれた。
「もう少ししたら戻るそうです」
今、股間押さえて、地面に寝てます、と心の中で付け加えた。






( おわり )





【 おまけ 】 → <a href="4omak1.html">東野先輩に遊ばれる沢垣先輩</a>

 


「小笠原くんの顔をした校長と、校長の顔をした小笠原くんとキスするんだったらどっちだ?」
と、東野先輩が言ったら、
「ぬ、ぬぉおおおおおお」
沢垣先輩が頭を抱えて悩み始めた。




今日も沢垣先輩といっしょに駅まで歩いてきた部活の帰り、
駅のプラットフォームでたまたまいっしょになった東野先輩は、そんな全く現実味のない質問を沢垣先輩に放ると、自販機で買った缶コーヒーを飲みながら、ぐううう、っと悩んでいる沢垣先輩をながめて、にやにやしている。
「東野先輩って、沢垣先輩のこと手のひらの上で転がしてますね」
「あ、妬ける?」
っう・・・。
妬けるっていうか、
仲良いなあ、と思うだけで、
それは、
東野先輩はボクが知らない沢垣先輩を、いっぱい知ってるんだろうな、というなんだか、すこぅしばかり、ニガイ気持ちなわけで、・・・・・。
ううん、そんなんじゃなくて!!
ネガティブ思考にはまりそうになって、ボクは内心、ううんっ、と首を振った。
「いえ、えーっと、ボクも沢垣先輩の操縦法を知りたいなーって」
そう、ただ、沢垣先輩の突拍子もなさを、なんとかしたい、だけだから!
「ああ、そうなんだ。でも、小笠原くんは、オレなんかのテクニックよりも、最強のカード持ってるだろ」
「へ?」
ぴ、っと指をさされた。
「小笠原くん自身だよ」






東野先輩は、ボクと沢垣先輩がつきあっているのを知っている。
まだ、1学期だったとき、いつもみたいに部活のあとに、学校の正門を出てすぐの路地で沢垣先輩を待っていたら、体育館で見たことのあるバスケ部2年の先輩がやってきて、ボクの顔を見るなり、
「沢垣、遅くなるから今日はいっしょに帰れないってさ」
と、言った。
ボクが驚いてなんにも返事出来ずにいたら、
「急にレギュラーだけのミーティングが始まってさ。レギュラーは沢垣の他は、3年の先輩たちばっかだから、ちょっとばかし抜けけて言いにも来れなくてさ、オレが伝言を頼まれたんだ」
と説明してくれた。
けど、びっくりしてかたまっているのは、そうじゃなくて・・・。
「あー、そんなに驚いてるのは、オレが沢垣と小笠原くんがつきあってんのを知ってるかもしれないと思ってるから?」
と、笑顔でにっこりと、図星・・・・・・。それが、東野先輩だった。
それで、ボクは、1学期の期末テストの成績の結果次第で、ケータイを買ってもらう約束を親としたのだった。






「や、やっぱり、顔はどうであれ、陸とキスする」
っはぁー、っはぁー、と肩で息をしながら、沢垣先輩が言った。
そんなありえないことをどんだけ、悩んだんだ?


「じゃあ、小笠原くんと校長がくちびるを交換したら?」
「ふ、ふぉおおおおおおおーっ」





( おわり )
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