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本編
一羽
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蝉時雨に曝された教室には僕ひとりしかおらんなってしもうた。二クラス合同の補習やったんに、課題が終わらんとまだ残ってるんは僕だけや。
「はー、風気持ちええなぁ……」
白いカーテンをはためかせて、風が涼を運んでくる。春夏秋冬、季節の移ろいに様々な名前のあるこの国で、僕がいっとう好きなんが夏や。長雨が明けて太陽が燦々と降り注ぐ夏が。僕の名は立夏や。お母はんがくれたこの名が、僕は好きや。
「立夏、帰れますか?」
「あ、星司クン……。実はな、まだなんや。えろぅすんまへん!」
「構いません。待っていますから」
教室の外から声をかけてきたんは、僕のひとつ年上の星司クンや。すらっと背の高いイケメンで、男女ともに人気があるんや。モデルに誘われたとか噂で聞いたことあるし、えらいモテるおひとやよ。黒い髪は肩まであって、暑うないんかと思うけども、本人はいつも涼しげや。
なんでこないイケメンはんが僕をわざわざ迎えに来てくれはるんか言うと、まあ、家の事情ですわ。ウチは旧くからある卜占を扱う集団の主家筋なんや。式神いう、人間が使役し易いように型に閉じ込めた神さんが祖先におるゆう噂もあるのや。神道に陰陽道に、なんや色々取り混ぜて、ウチは大きくなってきた、らしい。
その集団は八咫って名乗っとるんやけど、ウチの家名は烏丸や。ヤタガラスっていうんが神さんの遣いにおるんやけど、それに引っ掛けてるんと違いますやろか。
そんな超霊感応者の集団の中に一人、主家筋の長男坊のくせに能力0で、自分の身ぃすら守れんのが僕です。せやから星司クンがわざわざ車にも一緒に乗ってくれて、教室まで送り迎えしてくれはるゆう、えろぅ申し訳ない事態になっているわけで。
「この前の返事を、頂けませんか?」
「あ……う、うん、帰ってから……」
「今、聞かせてください」
ずい、と星司クンが僕に詰め寄る。身長差があるせいで見上げんと顔を見られへんのが今は逆に助かっとる。
「誰かに聞かれたら……」
「構いません」
構うやろ……。星司クンに変な噂が立つんは嫌や。
星司クンの手が伸びてきて僕の耳を包むようにして捕まえる。上を向かされると、星司クンの潤んだように熱を持った目とぶつかる。……このまま、キス、されてしまうんやろうか……。
「俺のことが嫌いですか、立夏」
「嫌いやなんて……」
「だったら……」
「うん、その、僕なんかで良かった……んぅ?」
「はぁ……立夏、立夏」
「ん……う、せ、星司クン?」
「嬉しい、です」
「あ、やぁ…………」
唇を舐められてビクッとなってしもうて、嫌やって手で押し返そうとしたら舌が中まで入ってきてビックリして、動けんくなってしもうた。ガッチリと肩に星司クンの手が、重みがある。
僕は……いつ息を吐いたらええんかタイミングが掴めんくてずっと吸うことしか出来んやった。苦しくて目に涙が浮かんでくる。ようやく星司クンが離してくれたから溜め込んでいた空気を吐くことが出来た。
「続きは、帰ってからにしましょう」
「ウ、ウン……」
僕、初めてやからわからんのやけど、あんなにちゅうちゅう吸うもんなんやろか、キスって。あと、息が苦しいんやけど、どうやって呼吸したらええんかな。
それとや、「お試しでお付きあいしてみん?」って言いそびれてるんやけど………………。
「立夏が俺を受け入れてくれて、嬉しいです」
「ウ、ウン……」
抱き寄せられて髪の毛にキスを落とされる。星司クンのつけているコロンか何かの、爽やかな匂いが強ぅ香った。
星司クンの辛抱強い指導のおかげで、課題は何とか片付いた。車の中は涼しぅて、ちょっとだけ罪悪感を抱いてしまう。小一時間車を走らせて、僕らは家に帰ってきた。
八咫の屋敷は敷地含めて東京ドーム一つはゆうに入るゆうて笑ってはったおじ様もおるくらい広い。私有地やから周りには部外者はよう入れんし、結界もあって警戒は厳重や。
それは同時に、中から外へ許可なく出るのも難しいっちゅうことなんやけども。
母屋に挨拶をして、離れにある僕の部屋に帰ってきた。離れは木造瓦葺きの小さな平屋で、中には台所、トイレ、風呂場と、ここだけで生活できるようになっている。僕だけのために建てられた、霊的な脅威から守ってくれる結界の役目をしているんや。
「星司クン、おおきに。ほな、また……」
「………………」
「星司クン?」
星司クンは黙って玄関の縁に手をかけて立っとった。そこおられると閉められまへんがな……。
いつも無口で無表情やから、星司クンの考えは僕には全然分からへん。
「中に入っても、いいですか?」
「ええけど……」
あ、いや、ええことないやん。
さっきの続きをされてしまう……。
「あ、そや、僕まだお仕事あんねや。星司クン、荷物置いてきたらええ。ほんでお茶でも飲んで待っててもろても……」
「立夏……」
「あ…………」
ささっと上がったろ思って背を向けたら、星司クンに左手を掴まれた。
「は、離してんか……」
「嫌です」
振り向くのが、怖い……。
ぞくぞくする……。
星司クンが玄関入って、戸を、鍵まで閉めたんが聞こえて分かってしまった。どうやら母屋の自分の部屋に戻るつもりはなさそうやんな。
そら、離れにも星司クンがいつでも泊まれるように最低限の色々は揃っとるけれども。
「立夏……」
「……!」
星司クンの甘くて低い声が僕の名を呼ぶ……。耳がくすぐっとうて僕は息を詰まらせた。背骨の、腰の付け根が痺れたようになってしまう。
「逃がしません」
「う…………」
逃がして欲しいと言えへん僕は、ただただ、星司クンの腕の中で口づけを受け入れた……。
「はー、風気持ちええなぁ……」
白いカーテンをはためかせて、風が涼を運んでくる。春夏秋冬、季節の移ろいに様々な名前のあるこの国で、僕がいっとう好きなんが夏や。長雨が明けて太陽が燦々と降り注ぐ夏が。僕の名は立夏や。お母はんがくれたこの名が、僕は好きや。
「立夏、帰れますか?」
「あ、星司クン……。実はな、まだなんや。えろぅすんまへん!」
「構いません。待っていますから」
教室の外から声をかけてきたんは、僕のひとつ年上の星司クンや。すらっと背の高いイケメンで、男女ともに人気があるんや。モデルに誘われたとか噂で聞いたことあるし、えらいモテるおひとやよ。黒い髪は肩まであって、暑うないんかと思うけども、本人はいつも涼しげや。
なんでこないイケメンはんが僕をわざわざ迎えに来てくれはるんか言うと、まあ、家の事情ですわ。ウチは旧くからある卜占を扱う集団の主家筋なんや。式神いう、人間が使役し易いように型に閉じ込めた神さんが祖先におるゆう噂もあるのや。神道に陰陽道に、なんや色々取り混ぜて、ウチは大きくなってきた、らしい。
その集団は八咫って名乗っとるんやけど、ウチの家名は烏丸や。ヤタガラスっていうんが神さんの遣いにおるんやけど、それに引っ掛けてるんと違いますやろか。
そんな超霊感応者の集団の中に一人、主家筋の長男坊のくせに能力0で、自分の身ぃすら守れんのが僕です。せやから星司クンがわざわざ車にも一緒に乗ってくれて、教室まで送り迎えしてくれはるゆう、えろぅ申し訳ない事態になっているわけで。
「この前の返事を、頂けませんか?」
「あ……う、うん、帰ってから……」
「今、聞かせてください」
ずい、と星司クンが僕に詰め寄る。身長差があるせいで見上げんと顔を見られへんのが今は逆に助かっとる。
「誰かに聞かれたら……」
「構いません」
構うやろ……。星司クンに変な噂が立つんは嫌や。
星司クンの手が伸びてきて僕の耳を包むようにして捕まえる。上を向かされると、星司クンの潤んだように熱を持った目とぶつかる。……このまま、キス、されてしまうんやろうか……。
「俺のことが嫌いですか、立夏」
「嫌いやなんて……」
「だったら……」
「うん、その、僕なんかで良かった……んぅ?」
「はぁ……立夏、立夏」
「ん……う、せ、星司クン?」
「嬉しい、です」
「あ、やぁ…………」
唇を舐められてビクッとなってしもうて、嫌やって手で押し返そうとしたら舌が中まで入ってきてビックリして、動けんくなってしもうた。ガッチリと肩に星司クンの手が、重みがある。
僕は……いつ息を吐いたらええんかタイミングが掴めんくてずっと吸うことしか出来んやった。苦しくて目に涙が浮かんでくる。ようやく星司クンが離してくれたから溜め込んでいた空気を吐くことが出来た。
「続きは、帰ってからにしましょう」
「ウ、ウン……」
僕、初めてやからわからんのやけど、あんなにちゅうちゅう吸うもんなんやろか、キスって。あと、息が苦しいんやけど、どうやって呼吸したらええんかな。
それとや、「お試しでお付きあいしてみん?」って言いそびれてるんやけど………………。
「立夏が俺を受け入れてくれて、嬉しいです」
「ウ、ウン……」
抱き寄せられて髪の毛にキスを落とされる。星司クンのつけているコロンか何かの、爽やかな匂いが強ぅ香った。
星司クンの辛抱強い指導のおかげで、課題は何とか片付いた。車の中は涼しぅて、ちょっとだけ罪悪感を抱いてしまう。小一時間車を走らせて、僕らは家に帰ってきた。
八咫の屋敷は敷地含めて東京ドーム一つはゆうに入るゆうて笑ってはったおじ様もおるくらい広い。私有地やから周りには部外者はよう入れんし、結界もあって警戒は厳重や。
それは同時に、中から外へ許可なく出るのも難しいっちゅうことなんやけども。
母屋に挨拶をして、離れにある僕の部屋に帰ってきた。離れは木造瓦葺きの小さな平屋で、中には台所、トイレ、風呂場と、ここだけで生活できるようになっている。僕だけのために建てられた、霊的な脅威から守ってくれる結界の役目をしているんや。
「星司クン、おおきに。ほな、また……」
「………………」
「星司クン?」
星司クンは黙って玄関の縁に手をかけて立っとった。そこおられると閉められまへんがな……。
いつも無口で無表情やから、星司クンの考えは僕には全然分からへん。
「中に入っても、いいですか?」
「ええけど……」
あ、いや、ええことないやん。
さっきの続きをされてしまう……。
「あ、そや、僕まだお仕事あんねや。星司クン、荷物置いてきたらええ。ほんでお茶でも飲んで待っててもろても……」
「立夏……」
「あ…………」
ささっと上がったろ思って背を向けたら、星司クンに左手を掴まれた。
「は、離してんか……」
「嫌です」
振り向くのが、怖い……。
ぞくぞくする……。
星司クンが玄関入って、戸を、鍵まで閉めたんが聞こえて分かってしまった。どうやら母屋の自分の部屋に戻るつもりはなさそうやんな。
そら、離れにも星司クンがいつでも泊まれるように最低限の色々は揃っとるけれども。
「立夏……」
「……!」
星司クンの甘くて低い声が僕の名を呼ぶ……。耳がくすぐっとうて僕は息を詰まらせた。背骨の、腰の付け根が痺れたようになってしまう。
「逃がしません」
「う…………」
逃がして欲しいと言えへん僕は、ただただ、星司クンの腕の中で口づけを受け入れた……。
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