【R18】【BL】籠の中の鳥は夏を歌う

サディスティックヘヴン

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本編

十四羽

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「立夏を生贄にするやなんて、俺は絶対に許さへん! 立夏がああいう生まれなんは、立夏に関係あらへんやろ、どれもこれも、あんたの勝手な理屈やないか。立夏が死ねば奥さんが帰ってくる思うてるんか! それであの人の顔をちゃんと見れるんかあんたは!」
「星司!」
「強い式神しきが欲しいだけなんやったら、俺が用意したるわ! その式神しきに立夏を護らせたったらええ。戦力も増えるしな。奥さんが戻るんなら、どんな手段でも関係あらへんやろ、違うか!?」
「死ぬぞ」
「ええわ! 俺の命ひとつで立夏を救えるんやったらそれでええ!」

 何を言うてるんか、僕にはまったくわからへん。
 でも、星司クンが何かしようとしてるのはわかった。

「星司クン! あかん、星司クン!」

 言いつけを破って部屋を出ようとしたんやけど、どこも開かんし障子紙一枚破けん。これは結界が張られて閉じ込められてもうてる。僕は必死で呼びかけた。まるで壁のような障子を叩いて、叫んだ。けど、誰も応えてくれへんやった。

 そのうち、木が砕けるような音と、獣の唸り声、そしてものすごい叫び声が聞こえた。

「星司クン!」

 今の悲鳴は、絶対に星司クンやった! 
 向こうでいったい、何が起こってるのや。爪が取れてまうんやないかと思うくらい必死で引っ掻いても、結界の内側からは出られやしまへん。

 僕にできるのは、星司クンの無事を祈ることだけやった。
 戦いは長く続いていた。

 僕に力があれば、星司クンに辛い思いをさせることなかったんに! せめて能力が零でも、普通の人間やったら良かった。そしたら、お母はんは寝たきりになることなかった、お父はんに憎まれることも、こんな風に生贄とか儀式とか、そんなもんとは無縁のはずやったんに!

 星司クンを犠牲にすることも、なかったんに……。




 どのくらい経ったのか、物音はすっかり収まっていた。それなのに、その静寂がどこか寒々しうて僕は動けんやった。

 障子の向こうに誰かが立っている。
 光の加減か、えらい背の高い人のように見える。高すぎるんと違うかな……。

「だ、誰? ここ、結界があって開かんのや。外は、どないなってますの?」
「……………………」

 返事はあれへん。
 ただ、まるで獣みたいな荒い息遣いがあるだけやった。

 僕は思わず、怖なって後退ってた。
 結界があるんやから、逃げられるわけないのに。ううん、そもそも、誰も入ってこられへんやろ。そう思うてホッとしたのも束の間、いきなり障子がガタンと鳴った。

「ひゃっ!?」

 結界の外側に立っている人が、障子を開けようと力任せに揺さぶっていた。ガタンゴトンと木ぃのぶつかる音が、段々と激しく、大きくなっていく。

「や、やめてぇや! 誰やの、いったい」
「グィィウウウウァァァ」
「あう……」

 あかん。
 あれは、あかん。
 あれは、ヒトではないものや!

 逃げなあかんと思うて、僕は反対方向の障子へ張り付いた。でも、押しても引いてもムダやった。僕は障子を叩きながら助けを求めた。

 その間にも、無理やり開けようとする音はどんどん大きなっていってる。

「誰かっ! 誰か助けて! 星司クン!」

 ガッシャン!
 と、硝子の割れるような音がして、結界が破られたんがわかった。その瞬間、僕の後ろでは障子が粉々になっていた。僕は今度こそ障子を開けて逃げ出していた。

 目の前にあるはずの畳の大広間は、襖に仕切られていていた。僕は自分が入れるだけの隙間を開けて、広間へ入った。襖をどんどん開けて、玄関の方へと逃げる。

「グアアアアァァァッ!」

 唸り声と、襖が破られる音。
 逃げなと思えば思うほど、足がもつれる。逃げながら僕は、とうとう振り返ってしもうた。

「ひっ!」

 そこには、青い炎のようなもんを身に纏うて、長い黒髪を振り乱した肌の真っ青な鬼がいた。恐ろしい顔、ヨダレを垂らす大きな口の中は血のような赤で、鋭い牙を剥き出しにして唸ってる。

 喰われる!

 直感的にそう思うた。
 けど、そのときにはもう遅かった。振り返ったせいで追いつかれて、僕は化け物の爪に引っ掛けられて畳に押し倒されていた。

「あっ! 嫌や!」

 そのまま覆いかぶさられて、噛みつかれた。

「痛ぁ!」

 でも、着物が邪魔やったみたいで、そいつは僕のお腹を膝で抑え込んだまま、爪で服を剥ぎ取り始めた。足掻いても力では勝てへん。

「お、お父はん! 重政はん! 誰か……星司クン……!」
「リッ……ガァ……」
「えっ」

 今、この鬼、僕の名前を呼んだんか?
 僕はまじまじと青い鬼の顔を見た。鬼も、手を止めて僕を見た。その目は、もうさっきまでの獣のようなんとは違って、人間の目ぇやった。

「星司、クン……?」
「………………」
「やっぱり! 星司クンなんやろ?」
「逃げて、ください、立夏……、このままだと、俺は……っ!」
「星司クン! どないしてん、苦しいんか? 今、誰か呼んでくるさかい……」

 どうにか抜け出そうとする僕の肩を、星司クンの手が痛いほどギュッと掴んだ。

「無駄です。俺は鬼の調伏ちょうぶくに失敗して逆に取り込まれてしまった、助けは来ません。このまま、俺ごと倒されて、式神にされるか消滅するか……」
「そんな!」
「鬼は貴方の魂を体ごと食べるつもりだ、だから、早く逃げてください……俺がまだ、貴方の知る俺でいられるうちに……! 今からこの屋敷は戦場になる、その混乱に乗じて、遠くへ、逃げて……捕まれば貴方は、別の鬼を引き寄せる餌に利用される! 貴方の魂が、奴らの好物だから……貴方の血肉が、鬼をおとなしくさせる贄だから……」

 星司クンは苦しそうに体を震わせながら、僕にそう言うた。逃げるて言うても、僕、離れと学校以外の場所なんてわからへん、この母屋の中でさえ案内なしには歩けへんのに……。

 ふと、僕は昔、お祖母さまに聞いた、あることを思い出した。僕ら八咫の中には、鬼を力ではなく血によって鎮められる者がおるって。それはこのことやったんや、きっと。

「やったら、星司クン、僕の血を飲んでや! そしたらきっと、鬼を抑え込んで調伏できるはずやろ!」
「立夏……」
「肉とかは怖ぁけど、血なら、全然……!」

 僕はどうにか血を流そうとして唇を噛んでみた。けど、どこまで噛んだらええんかわからへん。ぎゅ~っとやってみたけど、痛いだけで血は出らんやった。

「何をしているんです、立夏」
「しやから、血ぃ出そと思て」
「血なら、さっき噛み付いたときの傷から……。しかし、そんなこと……」
「ええから!」

 ほんまは怖い。
 けど、星司クンが鬼にならへんためやったら、僕は、何でもする! 覚悟を決めてぎゅっと目を瞑ってたら、遠慮がちに舐められた。

「んっ!」

 ピリッとする痛みが走る。
 僕の手足を押さえつけて、星司クンの舌が僕の首を舐めあげる。それは段々と激しうなっていった。
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