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番外編
五羽
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朝、起きて枕元の時計を見やると四時やった。星司クンはギリシャの彫像みたぁに筋肉の浮き出た身体にシーツ一枚かけたきりで僕の横に寝とった。肩の下まである長い黒髪を掬い取っても起きやん。
お風呂場へ行って先にお湯ためとこ思うたんに、やり方がわからへんで苦労した。けど、最終的にちゃんとお湯ためられたんやから、ひとり立ちしてもやってけると思うわ。
「星司クン、お湯用意できたよ。起きてや」
「ん……。立夏?」
寝惚けた星司クンは可愛い。頬にキスすると、くすぐったそうに笑った。
「立夏の体調が万全なら、今すぐ抱き寄せてベッドの中に引き込みますのに」
「ふふっ、僕今、脚ひょこひょこやからな」
「ええ。なので万全になったら思い切り抱きしめて、抱き上げて振り回してあげますよ」
「え~っ? 落っことさんといてよ?」
そんなことを言うて笑い合った。思えば、星司クンがこんなにいい笑顔してはるのも久々な気ぃするな。やっぱり八咫から離れとるからやろうか。
ずっと閉じ込められとった僕に、組織の経営とか政治的な動きはできまへん。しやから、星司クンが僕の前に立って、お父はんや重政はん、フユと対峙してきてくれたんやよな。
「どうしました、立夏」
「ううん。星司クンには苦労かけ通しやな思て。星司クンかて、まだ高校生やのにね」
頭を撫でていたら、星司クンが起き上がってきて、ベッドの上に膝を詰めて正座の姿勢になった。……裸んぼやけど、ええの?
「立夏、俺がずっと修行を続けてきたのは、立夏がいずれ八咫の当主になり、それを俺がお支えするときが来ると信じていたからです。父の座を奪ってでも、貴方の側にいたいと願って。ですから、何も苦ではありません。むしろ本望です」
じんわりと胸に熱が広がる。八咫の家は、僕にとっては今も針の筵やけど、星司クンは僕を生かすためにずっと昔から、努力し続けてきてくれたんやね。
「……ほんま、変わったおひとやな、星司クンは」
「でも、そんな俺でも好きでいてくれるんでしょう?」
「……わかってるクセに」
僕の返事は、星司クンが食べてしもた。このひとを失いとぅない。半分鬼になった星司クンを守るためには、僕も頑張らんと。
「星司クン」
「はい」
「僕、星司クンが好きや。けど……向うに戻ったら、星司クンと恋人同士なんは隠さんとあかんと思うのや。しやから、ふたりっきりのとき以外は、そういうことしたらあかんで」
「えっ」
星司クンはビックリした声を上げた後、バツが悪そうに視線を逸した。まさか……、まさかもうバレバレやなんて、そんなこと、あれへんよね!?
「せ、星司クン……?」
「まぁ、その。そうですね、表向きは大人しくしておきましょう」
「うぅ、まさか全員にバレてるとかないやんな? 家族と重政はんくらいやと思うとったのに」
「気にしてはいけませんよ、立夏。ちょっとフライングしただけで、いずれはそういう関係になっていたことは、周囲も理解していると思います」
「待って!? そういう関係なんも皆に知られてるん!?」
嘘や~~! もう、みんなに顔向けでけへん!!
思わず両手で顔を覆って俯いてると、星司クンがふっと小さく笑うのが耳に聞こえた。
「立夏」
「何やの」
「俺は嬉しいですよ。立夏が俺の恋人だって、認めさせたのも同然ですからね。まぁ、二度と誰にも、立夏に触らせたりしないつもりですから、公認だろうとそうでなかろうと同じことですが」
僕の格好いい恋人は、そう言うてふんわり微笑んだ。そうやね。恋人同士ですって、ハッキリ言えるのはありがたいよね。でも、フユとか樹クンにまでバレんでよかったんねんけど。
あと、「二度と誰にも触らせやん」って、誰のこと言うてますのやろ。……もしかして、西陣クンとか、三条クンのとこかいな。まだ怒ってる? そっと見上げてみても、星司クンの笑顔からは何も読み取れんやった。
★ ☆ ★
それからお風呂で世話を焼いてもらい、一階の大食堂で食事を摂った。そういえば、昨日はほとんど何も食べてへんやったと今さらながらに思う。
大食堂が開くのと同時に来たさかい、あんまりお客もおらんで、しばらく星司クンとふたりでゆったりとした時間を過ごした。僕はビュッフェなるもんを今日初めて知ってビックリしたのや。足がよぅなったら、僕も自分でお皿に取ってみたいわ。
それからすぐにチェックアウトした。時間を合わせてホテルの前に来てくれる迎えの車を待ちながら、僕は羽織の裾を寄せてぼやいた。
「もう、帰らなあかんのかぁ」
「そうですね。早く帰って禊をして、点滴をして、結界の中でお休みいただきたいです」
「そうかぁ」
外に出られるようになってもまだ、僕の身体は穢れに弱いらしい。昨日もほとんどの時間眠ったままやったしな。星司クンにも重政はんにもまだまだ迷惑をかけてしまうなぁ。
「また来ましょう、近いうちに。予定を調整しておきますから」
「おおきに。星司クン」
しんみりしていた僕に、星司クンが優しぅ肩を叩いて笑いかけてくれる。
すぐにリムジンが来て、僕たちは家まで帰ることになる。他の人らにとってはほんの短い距離、ほんのわずかな時間。けど、僕にとっては初めての遠出で、自由になった証明でもある。
課題はまだまだ多い。けど、少なくとも僕は、今の生活も好きになれそうやと思うた。ひとりやないから。いつでも星司クンが隣に居ってくれるから。
――了――
お風呂場へ行って先にお湯ためとこ思うたんに、やり方がわからへんで苦労した。けど、最終的にちゃんとお湯ためられたんやから、ひとり立ちしてもやってけると思うわ。
「星司クン、お湯用意できたよ。起きてや」
「ん……。立夏?」
寝惚けた星司クンは可愛い。頬にキスすると、くすぐったそうに笑った。
「立夏の体調が万全なら、今すぐ抱き寄せてベッドの中に引き込みますのに」
「ふふっ、僕今、脚ひょこひょこやからな」
「ええ。なので万全になったら思い切り抱きしめて、抱き上げて振り回してあげますよ」
「え~っ? 落っことさんといてよ?」
そんなことを言うて笑い合った。思えば、星司クンがこんなにいい笑顔してはるのも久々な気ぃするな。やっぱり八咫から離れとるからやろうか。
ずっと閉じ込められとった僕に、組織の経営とか政治的な動きはできまへん。しやから、星司クンが僕の前に立って、お父はんや重政はん、フユと対峙してきてくれたんやよな。
「どうしました、立夏」
「ううん。星司クンには苦労かけ通しやな思て。星司クンかて、まだ高校生やのにね」
頭を撫でていたら、星司クンが起き上がってきて、ベッドの上に膝を詰めて正座の姿勢になった。……裸んぼやけど、ええの?
「立夏、俺がずっと修行を続けてきたのは、立夏がいずれ八咫の当主になり、それを俺がお支えするときが来ると信じていたからです。父の座を奪ってでも、貴方の側にいたいと願って。ですから、何も苦ではありません。むしろ本望です」
じんわりと胸に熱が広がる。八咫の家は、僕にとっては今も針の筵やけど、星司クンは僕を生かすためにずっと昔から、努力し続けてきてくれたんやね。
「……ほんま、変わったおひとやな、星司クンは」
「でも、そんな俺でも好きでいてくれるんでしょう?」
「……わかってるクセに」
僕の返事は、星司クンが食べてしもた。このひとを失いとぅない。半分鬼になった星司クンを守るためには、僕も頑張らんと。
「星司クン」
「はい」
「僕、星司クンが好きや。けど……向うに戻ったら、星司クンと恋人同士なんは隠さんとあかんと思うのや。しやから、ふたりっきりのとき以外は、そういうことしたらあかんで」
「えっ」
星司クンはビックリした声を上げた後、バツが悪そうに視線を逸した。まさか……、まさかもうバレバレやなんて、そんなこと、あれへんよね!?
「せ、星司クン……?」
「まぁ、その。そうですね、表向きは大人しくしておきましょう」
「うぅ、まさか全員にバレてるとかないやんな? 家族と重政はんくらいやと思うとったのに」
「気にしてはいけませんよ、立夏。ちょっとフライングしただけで、いずれはそういう関係になっていたことは、周囲も理解していると思います」
「待って!? そういう関係なんも皆に知られてるん!?」
嘘や~~! もう、みんなに顔向けでけへん!!
思わず両手で顔を覆って俯いてると、星司クンがふっと小さく笑うのが耳に聞こえた。
「立夏」
「何やの」
「俺は嬉しいですよ。立夏が俺の恋人だって、認めさせたのも同然ですからね。まぁ、二度と誰にも、立夏に触らせたりしないつもりですから、公認だろうとそうでなかろうと同じことですが」
僕の格好いい恋人は、そう言うてふんわり微笑んだ。そうやね。恋人同士ですって、ハッキリ言えるのはありがたいよね。でも、フユとか樹クンにまでバレんでよかったんねんけど。
あと、「二度と誰にも触らせやん」って、誰のこと言うてますのやろ。……もしかして、西陣クンとか、三条クンのとこかいな。まだ怒ってる? そっと見上げてみても、星司クンの笑顔からは何も読み取れんやった。
★ ☆ ★
それからお風呂で世話を焼いてもらい、一階の大食堂で食事を摂った。そういえば、昨日はほとんど何も食べてへんやったと今さらながらに思う。
大食堂が開くのと同時に来たさかい、あんまりお客もおらんで、しばらく星司クンとふたりでゆったりとした時間を過ごした。僕はビュッフェなるもんを今日初めて知ってビックリしたのや。足がよぅなったら、僕も自分でお皿に取ってみたいわ。
それからすぐにチェックアウトした。時間を合わせてホテルの前に来てくれる迎えの車を待ちながら、僕は羽織の裾を寄せてぼやいた。
「もう、帰らなあかんのかぁ」
「そうですね。早く帰って禊をして、点滴をして、結界の中でお休みいただきたいです」
「そうかぁ」
外に出られるようになってもまだ、僕の身体は穢れに弱いらしい。昨日もほとんどの時間眠ったままやったしな。星司クンにも重政はんにもまだまだ迷惑をかけてしまうなぁ。
「また来ましょう、近いうちに。予定を調整しておきますから」
「おおきに。星司クン」
しんみりしていた僕に、星司クンが優しぅ肩を叩いて笑いかけてくれる。
すぐにリムジンが来て、僕たちは家まで帰ることになる。他の人らにとってはほんの短い距離、ほんのわずかな時間。けど、僕にとっては初めての遠出で、自由になった証明でもある。
課題はまだまだ多い。けど、少なくとも僕は、今の生活も好きになれそうやと思うた。ひとりやないから。いつでも星司クンが隣に居ってくれるから。
――了――
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