27 / 361
”もうひとりの門下生”
【授業】
しおりを挟むーーーー暗闇に、ひと筋の光りが差し込み、鈍痛が押し寄せてくる。
「~~~~・・・・・・」
むくっと起き上がった沼田は、周りを芥川・新樹・セツナに囲まれていることに気がついた。
救急箱が置かれており、自分の鼻の穴に違和感。
「・・・・・・手当てを?」
「顔面の中央部をまともに打ったので、念のためです」
「・・・・・・ありがとございます。敗北以上です」
戦った相手に、怪我の手当てをされる。
屈辱的ではあったが、そんなに度量の狭い沼田ではない。
「負けたのに・・・・・・スッキリしてます」
「それは、全力で戦った証拠。後悔無くして終わったのですから、良い勝負だったということです」
「そうですね」
ゆっくりと二足で立つ。
ふらつきもなく、痺れなどもない。
「鼻骨が折れた以外は大丈夫ですよ」
「ハハハ・・・・・・白真会では、かすり傷のようなものです」
「流石」
さてと・・・・・・と、
「沼田さん。少々、お願いがあるのですが・・・・・・」
「押忍。何でも言ってください」
「胸をお借りできませんか?」
「はい?」
数分後ーーーー
鼻にガーゼを貼りつけた沼田と、芥川がまたもや道場の真ん中で向き合っていた。
だが、勝負という雰囲気ではなかった。
「いいですか? 打撃戦での要は、スタミナでもリズム感でもありません。敵の次なる行動を読み、そこを挫く・・・・・・」
芥川が目で合図を送る。
沼田は応えるように、軽く右ストレートを放った。
「このように重く鋭い一撃でも、必ず隙があります。どう動くべきか・・・・・・新樹さん」
「はい。半身だけ動き、敵から離れすぎずに躱す」
「正解・・・・・・頭に攻撃がくると分かっていれば、頭を逸らすだけでも大違い」
スッと身体を動かし、沼田の攻撃を躱すと同時に密着した。
「大事なのはここからです。攻撃時、人体は必ず右か左に重心が移動します。この場合だと・・・・・・セツナさん」
キュキュッ
『左足』
「またもや正解。良い生徒さんたちに恵まれてますね・・・・・・左足を、こう・・・・・・」
芥川は足首を、沼田の左足に沿わせる。
「さて、問題は膝か足首か・・・・・・闇雲に払ってはいけません。次に自分がどうしたいかで、変わってきます。私の場合だと・・・・・・」
パッと左足同士で払ったかと思うと、バランスを崩した沼田のアゴを軽く掴んだ。
「このまま地面に叩きつけたいので、ふくらはぎをス~っと伝って足首を取りますかね」
「いやはや、お見事」
叩きつけられそうな沼田が、褒める。
「大の大人を地面に叩きつける・・・・・・言葉にすれば簡単ですが難しい・・・・・・でも、芥川さんなら簡単でしょうね」
「まあ、一応実践的な総合武術を謳ってますからね」
新樹とセツナは食い入るように見ていた。
「では次の授業・・・・・・沼田さん。いきなりですが、重量挙げの記録は?」
「記録には興味ないですが・・・・・・まあ一〇〇キロは楽勝ですかね」
「それは凄い! 私の体重は七〇キロ強・・・・・・沼田さん。私の襟を掴んでいただけますか?」
言われたまま、沼田が襟を掴む。
「で、どうすれば?」
「持ちあげてください」
「はい?」
「柔道のようにいかずとも、私の身体を浮かべて下さい」
「・・・・・・分かりました」
簡単な話しだった。
七〇キロの男性を持ちあげて宙吊りにするくらい・・・・・・
グッ・・・・・・グッ・・・・・・
!?
「え?」
襟は指でしっかり握り込んでいる・・・・・・にもかかわらず・・・・・・
ググッ!!
「う、動かん・・・・・・ッッ」
「まるで演武みたいでしょ?」
「どんなマジックを?」
芥川はニヤッとすると、視線を足下に落とした。
「私はただ立っている・・・・・・だけではありません。ものすごく動いてます」
「動いてる?」
「ほらっ!」
ミシミシ・・・・・・
静かにすると・・・・・・なにか軋む音が聞こえてくる。
よくよく観察するとーーーー
「指?」
「ええ。足の指で床を『噛んでいる』のです」
「・・・・・・ということは」
「はい。沼田さんは先ほど、この道場の床全体を引っ剥がそうとしていた・・・・・・ということになりますね」
「・・・・・・ハハハ、ボディビルダーでも無理だ」
「私が勝手に名付けましたが、『足噛』という技術です。不思議なもので、靴を履いていても有効な場面も多い」
「安定感バツグンの立ち方・・・・・・空手の『三戦』に似てますね」
「ま・・・・・・パクってるので」
「えぇ・・・・・・」
と、芥川が手を掴んでいる沼田の手首に引っかけた。
「・・・・・・はっ!」
「!?」
ズンッと沼田の姿勢が崩れた。
(!? 意味が分からん・・・・・・まるで土嚢を背負わされたかのよう・・・・・・)
「合気道も、もれなくパクってます。相手が上へ上へと力を出している・・・・・・それに合わせて、落とす」
どんどん沼田と芥川の海抜が低くなってゆく。
「重要なのは力で落とさないこと。腕力で無理矢理下へ押してもダメです」
よく見ると、手で制しているように見えて、身体の足首・膝・腰・背中・肩・腕が意思を持っているかのように同時に動いている。
「身体全体で、下へ向かっていく・・・・・・その間、姿勢は正しく。相手の気を殺すのではなく活かして・・・・・・一緒に下へ・・・・・・」
グググッ・・・・・・
「うっ・・・・・・」
「そうしたら・・・・・・円を描くように、腰を動かし・・・・・・相手と自分の場所を交換するようなイメージでっ!」
ぐるん!!
「うわっ!」
ドスンッ!
沼田が轢かれたカエルのように、芥川が立っていた場所でのびている。
「今の動き方や力の伝え方を、水のように流れのごとくできるようになれたら、実践的にも使えます。沼田さん、ありがとうございました」
「いや・・・・・・ハハ」
むくり・・・・・・
「礼を言わなくてはいけないのは自分の方です・・・・・・勉強になりました」
「・・・・・・空手は立ち技主体の総合格闘術」
「は?」
「柔・関節・合気・理合・・・・・・それらを、正面から剛で打ち砕く・・・・・・授業が上手くいったのも沼田さんが協力的だったからこそ。空手を使えば、幾重にも打開策はあったでしょう?」
「・・・・・・胸を貸した手前、封じました」
「ええ。ですから、ありがとうございました」
芥川は深々と頭を下げた。
「・・・・・・押忍ッッ」
二人の武道家が、それぞれの挟持で礼を尽くした。
なんとも美しい光景であったがーーーー
そんな美談には浸れない男がひとりーーーー居た。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる