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”もうひとりの門下生”
【武人の生き様】
しおりを挟む「・・・・・・先生」
「はい? なんでしょうか新樹さん」
「・・・・・・なぜ、左のレバー打ちが直撃したんですか?」
「・・・・・・それは・・・・・・」
「分かってます。沼田さんは一流の領域。攻撃が当たっても何の不思議もない・・・・・・先生以外、ならですけどね」
「・・・・・・」
「・・・・・・左眼のせいでしょう?」
「・・・・・・ふぅ」
「左の眼が・・・・・・ないからでしょうがッッ!!」
新樹が叫んだ。
沼田はワケが分からないといった顔をしているが、セツナは目を伏している。
「目が見えていれば・・・・・・なんてことない一撃だったはず・・・・・・違いますか!?」
「芥川さん・・・・・・眼が?」
芥川はしばらく何かを考えていたようだったが、やがてはため息を吐いて、左眼を取り出した。
「それはっ!?」
「色々と・・・・・・ありましてねぇ」
「そんな状態で・・・・・・自分との勝負を!?」
「・・・・・・沼田さん・・・・・・それに新樹さんにも、伝えておかねばなりません・・・・・・」
きゅぽんっ
目玉が戻っていった。
「人間、生きていれば様々なことが起こる。病気にもなれば、怪我もする。恋人と甘いひとときを過ごすこともあれば、食事をするとき・・・・・・排泄・就寝・寝不足・疲労・・・・・・これらは必然的です」
が・・・・・・と、芥川。
「それを言い訳にはできない。武道家とはそういう生き物です。五体満足で健康体の時にしか戦いたくない? ・・・・・・んなヤツぁやめちまえ!!」
目が覚めるような一声だった。
「・・・・・・と、すみません・・・・・・言葉が汚かったですね。ともかく私が選んだ道です。新樹さん・・・・・・お気遣いは感謝しますが、余計なお世話です」
沼田は口を真一文字に結んで、ただ黙っていた。
これだ・・・・・・
会長の言っていた『芥川 月』という男・・・・・・
『彼は住んでる世界が違う・・・・・・やめといた方が利口だよ』
武の世界で生きることは簡単ではない。
ボクシング・キックボクシング・総合格闘技・プロレス・・・・・・数多あるプロの道が、武道や武術にはない。
メシを食べていくだけでも大変な毎日だ。
その中で、食事を気にして近代的で合理的なトレーニングを行い、あまつさえサプリメントまで飲みながら、己のコンディションを整える・・・・・・無理だ。
その無理を貫き通している・・・・・・
芥川・・・・・・なるほど、強いわけだ。
その時である。
「だったら・・・・・・」
新樹がプルプルと震える唇で、何やら必死に言葉を紡ごうとしている。
「・・・・・・ハッキリ言いなさい。ただし、一度口にした言葉は魂を持ち、責任を負わなければいけませんよ」
「・・・・・・ぼ、僕が・・・・・・先生の仇を取る!!」
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