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”日常その壱”
【器の自覚】
しおりを挟む立っていたのは美少女だった。
銀色の髪は風に揺られ、ルビーのような赤い目をこっちに向けている。
絹よりも滑らかな肌・・・・・・ダウンの下は半袖のみなので、双丘の形がハッキリと視認できるのであった。
「お、お前・・・・・・」
「・・・・・・」
セツナ・・・・・・
一ヶ月半前に、自分をボコボコにした女だった。
「・・・・・・何しに来たんだよ」
新樹は思わずつっけんどんな対応をしてしまう。
本当は、もうとっくに許しているのに、ツンツンしてしまうのだ。
「先生から連れてこいとでも言われたのかよ・・・・・・僕みたいな雑魚なら、ひとりでも引きずって行けるって?」
クソッ・・・・・・思ってもいないのに・・・・・・嫌味が出てくる出てくる。
「芥川道場の看板娘はお前ひとりで充分じゃん・・・・・・僕なんかがいても邪魔に・・・・・・」
新樹はそこまで言って、言葉を詰まらせた。
ジロッと、セツナが見つめてくるからだ。
不思議なまでの催眠的磁力・・・・・・
吸い込まれてしまいそうだ。
キュキュッ・・・・・・
『私のせいだったら、謝る』
そう書くと、セツナは頭を下げた。
新樹が戸惑っていると、続けてセツナはこう書いた。
『この一ヶ月以上で私も成長したと思う。先輩、目上の人への敬意が足らなかった。貴方のこと・・・・・・尊敬している』
「僕を尊敬って・・・・・・何倍も強いお前が?」
『・・・・・・私のこれまでの人生で、戦いに尊敬を持つなんて場面はなかった』
それを消すと、
『常にご飯を守ったり、自分の身を守ったり・・・・・・必死すぎて、相手のことなんか考えていなかった』
「・・・・・・」
『戦うときはいつも、『恐い』『辛い』そう思いながら戦ってきた。でも・・・・・・今なら分かる』
「・・・・・・何が」
『誇り高く戦い、そして生きる。自分の魂を護るために・・・・・・強くなる』
だけど・・・・・・
『貴方とゲツの二人の空間にお邪魔したのも悪いと思っている・・・・・・もしも、私が要らなかったら、私は・・・・・・出て行く』
「ど・・・・・・何処に行くんだよ・・・・・・」
『分からない。けど、もう二度と貴方に顔を見せないと約束するわ』
・・・・・・
器が違うなぁ~
僕って・・・・・・どんだけ浅い器だったんだろ・・・・・・
たった一回の立ち合いで、諦めて、グジグジいじけて・・・・・・
そんで、年下の女の子に、ここまで言わせるなんて・・・・・・
「・・・・・・ダサすぎるって・・・・・・」
いつの間にか、拳を握っていた。
「新樹ちゃ~ん? どなた?」
「父さんと母さんは来ないでッッ!!」
新樹は両の拳を掲げて、構えをとった。
その後ろには、何事だと慌てて走ってくる両親の足音が。
「新樹ちゃん!?」
「新樹ちゃん! パパがダメすぎてとうとう女の子に暴力を振るうように!?」
「・・・・・・引っ込んでろッッ!!」
新樹のこめかみには、一筋の汗が・・・・・・
「勝負だ・・・・・・言っておくけど、僕のことを気遣ってわざと負けたりしたら、今度こそ道場に退会届を持って行く」
『・・・・・・真剣勝負』
「そうだ。乗るだろ?」
「・・・・・・」
セツナはホワイトボードを地面に置き、ダウンジャケットを脱ぎさって構えた。
左足を前へ出し、右足は斜め四五度。
両拳は、片方はアゴの位置、もう一方は中段で止めている。
「構え、習ったんだな」
「・・・・・・(コクリ)」
「来ないなら・・・・・・こっちから行くぞ!!」
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