DANCING・JAEGER

KAI

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第1章

【川田の外道】

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 この男は『川田 啓介』と言い、川田組の組長だ。


「エルフの薬は高く売れる。もっと気合い入れて作れよ!!」


 彼を見る『バラス』たちの目には、明らかな憎しみが。


 だが、川田は余裕そのもの。


「川田さん。これ以上働かせたら、病気になってしまいます」

「それが俺と何の関係があるんだよ」


 ズイッとクイン・川田の間に割って入ってきたのはモル。


 身長はあまりないので、川田を憎々しく見上げている。


「へえ~そんな態度とるんだ~なら、あの子たちの飯は一週間抜きにしちまおうかなぁ」

「・・・・・・」

「へっ! モルちゃんそんな恐い顔しないでいりゃ、別の『横になってるだけでいい』をやらせたいくらいだ」


 モルの括った髪を乱暴に掴む川田は下卑た笑い声を上げていた。


 彼女のあどけなさが残る顔が痛みと恥辱で歪んだ。


「・・・・・・ッッ」

「モル・・・・・・下がれ」


 彼女を守るように、クインが一歩前に歩み出る。


「仲間想いだねぇ・・・・・・そこが弱点だがな」


 川田は口から垂れるよだれをハンカチで拭いながら、続ける。


「あの子たちのことを思えば、病気になろうが死のうが本望だろ?」


 川田がここまで強気でいるのには理由があるのだった。


 でなければ、八つ裂きになっているところだろう。


「にしても・・・・・・こないだまた売人がバラされたらしいじゃねえか」

「はい・・・・・・」

「ま、売人なんて掃いて捨てるほどいるからな・・・・・・だけどよ、あの古狸の息子!!」


 機嫌が悪くなった川田は癇癪かんしゃくを起こしたらしく地団駄を踏む。


「クソガキ!! あの千石龍敏!! アイツがいつもチラついて邪魔してくる!! 憎たらしくて眠ることもできねえ!!」


 憎たらしいのはアンタだよ・・・・・・そんな言葉をクインは飲み込んだ。


 肥満体型の川田はすぐにハァハァと息を荒げて汗をかいている。それを側近が拭く。


 そして、多重人格化のようにへへへと笑い始めた。


「だけどもうそれも関係ねえ・・・・・・あと一ヶ月・・・・・・あと一ヶ月で俺はこの神奈川の王になるんだ・・・・・・」


 川田はクインの胸ぐらをつかむ。


「それまでにヤクを売れるだけ売るんだ・・・・・・今日から生産量を三倍にしろ・・・・・・もしもできないってんなら・・・・・・へへへ・・・・・・どうなるか分かってるよなぁ?」

「・・・・・・はい」

「俺が後ろ盾を得たら、お前ら『バラス』も川田組の代紋を掲げさせてやるよ。感謝しろよ」


 全然喜ばしくなんかない・・・・・・


 だけど・・・・・・


「ありがたく思います」


 そう答えるしかない。


 クインの未来には絶望しかない。


 目の前のブタに搾り取られるだけ取られ、そして捨てられる・・・・・・そんなことは解りきっている。


 だが「こんな臭いとこにいたら服に匂いが移っちまう」などと言ってドアを出て行く川田にお辞儀をすることしかできないのであった。


 そんな自分が歯痒い・・・・・・


 どれほど高級なスーツを着ても、救われない。


 龍敏が・・・・・・羨ましい。


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