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一章 聖女と守護者達
十九話「光の御子・誕生」中編
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「光の御子の護衛ですか。重大任務ですね」父が腕を組んで答えた。
一瞬タリーやヒビスクスに厳しい視線を向けたのは『後で説明しろ』ってことだろう。二人が汗を拭っている。
「妻と息子の同行が必要なのですか?」父の問いにイオが頷き、穏やかに答えた。
「確認しましたが、三人で、とのお願いで間違いありません」ふぅ、と父が息を吐く。
「亡くなった妻ラディアータの遺髪を、聖女のお墓に供えたいと思ってはいました。妻の望みなので。ただ、ヴェロニカの結婚式には出席したいのですが」私達は目を見交わした。
「結婚式はいつでもいいと聞いたわ。他の行事に重ねて貰った方が大げさにならないし。確認してみるわね」ただの公式行事だもの。みんなが頷き、父は渋々義母と弟に向き直った。二人とも目を輝かせて父を見ている。
「精霊の依頼では仕方ない。三人で行くか」父の言葉に歓声があがった。
この世界では滅多に旅はできない。馬や馬車でしか移動できないこと、野獣や魔獣、盗賊等の危険が大きく護衛が多く必要で、費用が莫大になることが主な理由だ。
つまり、義母と弟にとっては恐らく、最初で最後の国外への家族旅行になる。それは喜ぶわよね。
ちなみに私は生涯、この国を離れることはないと決まっている。行事以外では、この離宮を出ることもないだろう。
前世では平日は職場と家の往復だけ、休日も買い物くらいの出不精だった私には、広い離宮内だけで充分だ。
「では、王宮に報告に行こう。プリムラ、フィルと馬車で帰っておいてくれるか?」義母が頷く。
「一緒に来て貰えるな?」視線を向けられたタリーとヒビスクスが、項垂れて父に歩み寄る。
父は私達に手を振り、二人を伴い出て行った。
「姉様も頑張るから、フィルも御子様を宜しくね。無事お送りできるよう、しっかり鍛えておいてね」側に立つ弟を抱き寄せる。弟は父と同じ騎士を目指しているのだ。
「はい、姉上」先日別れる時には『姉様』と泣いていたのにね。頬にそっと口付けて、髪を撫でた。
父達三人は王宮の軽食に手も付けておらず、勧められたフィルは嬉しそうに食べ始めた。パースランとパクレットが側に座って、楽しそうに話している。
「ヴェロニカ、頼まれていた荷物は届けたわ。他に何か必要な物はない?」義母が私を抱きしめてくれる。
病に伏せる実母に代わって私を育ててくれた、優しい義母。彼女と弟、タリー達の存在が私を支えてくれた。
「私達の愛しい娘。御子様の出産については私には分からないけど、大変なこともあるでしょう?」義母が私の頬を撫でて、目を合わせる。疲れているのがバレたようだ。
「大丈夫よ。最初は戸惑ったけど、精霊の言うことにも事情があるんだと分かってきたから。できることを頑張るわ」
私が光の御子を生み、家族が実母の故郷であるイーストフィールドに送り届けることで、実母の心残りも晴れるだろう。
「お義母さんこそ、長旅になりそうだわ。用意も大変でしょうし。ごめんね」小柄な義母を抱きしめる。経験のある父が躊躇う様な道程なのだ。
ふと、皿に盛った命の樹の実に目が止まった。私の為にタリーが用意したものだ。義母に持ち帰って貰わなければならない、と強く感じる。
「お義母さん。これ、離宮でしかできない実なの。お父様と食べてね。子どもには良くないから、フィルはダメよ?」手巾に包んで渡すと、笑って受け取ってくれた。
「お許しがあれば、また来るわね」義母の柔らかな頬に口付けて、幸福を祈る。父母の軽食まで食べて満足したらしい。ご機嫌なフィルも抱きしめた。
馬車まで送るコレウスとパースランが出て行く。
「樹の実、渡して良かったの?」パクレットに訊かれ、イオを見上げた。
「義母に渡せと言われた気がしたの。多分、精霊の勧めだと思うけど」
「そのようです。私もそれが良いと感じました」イオも頷く。
コレウスとパースランが戻って来て、みんなでイオを見つめる。
「で、どういうことだ?」コレウスが代表して訊いた。
「スパティフィラムはイーストフィールドの命の守護者です」誰も言葉が出なかった。
「お父上が第二子を彼の国に返す、と約した為、彼は命の守護者として生まれました。光の御子を巫女姫に渡せば、彼女は十八歳で聖女となります。彼はその伴侶候補者です」
「両親は、弟まで失うのね」私の呟きにイオが頷いた。
「だから、次の子を授けたいそうです」樹の実を渡したのは、そういうことね。
一瞬タリーやヒビスクスに厳しい視線を向けたのは『後で説明しろ』ってことだろう。二人が汗を拭っている。
「妻と息子の同行が必要なのですか?」父の問いにイオが頷き、穏やかに答えた。
「確認しましたが、三人で、とのお願いで間違いありません」ふぅ、と父が息を吐く。
「亡くなった妻ラディアータの遺髪を、聖女のお墓に供えたいと思ってはいました。妻の望みなので。ただ、ヴェロニカの結婚式には出席したいのですが」私達は目を見交わした。
「結婚式はいつでもいいと聞いたわ。他の行事に重ねて貰った方が大げさにならないし。確認してみるわね」ただの公式行事だもの。みんなが頷き、父は渋々義母と弟に向き直った。二人とも目を輝かせて父を見ている。
「精霊の依頼では仕方ない。三人で行くか」父の言葉に歓声があがった。
この世界では滅多に旅はできない。馬や馬車でしか移動できないこと、野獣や魔獣、盗賊等の危険が大きく護衛が多く必要で、費用が莫大になることが主な理由だ。
つまり、義母と弟にとっては恐らく、最初で最後の国外への家族旅行になる。それは喜ぶわよね。
ちなみに私は生涯、この国を離れることはないと決まっている。行事以外では、この離宮を出ることもないだろう。
前世では平日は職場と家の往復だけ、休日も買い物くらいの出不精だった私には、広い離宮内だけで充分だ。
「では、王宮に報告に行こう。プリムラ、フィルと馬車で帰っておいてくれるか?」義母が頷く。
「一緒に来て貰えるな?」視線を向けられたタリーとヒビスクスが、項垂れて父に歩み寄る。
父は私達に手を振り、二人を伴い出て行った。
「姉様も頑張るから、フィルも御子様を宜しくね。無事お送りできるよう、しっかり鍛えておいてね」側に立つ弟を抱き寄せる。弟は父と同じ騎士を目指しているのだ。
「はい、姉上」先日別れる時には『姉様』と泣いていたのにね。頬にそっと口付けて、髪を撫でた。
父達三人は王宮の軽食に手も付けておらず、勧められたフィルは嬉しそうに食べ始めた。パースランとパクレットが側に座って、楽しそうに話している。
「ヴェロニカ、頼まれていた荷物は届けたわ。他に何か必要な物はない?」義母が私を抱きしめてくれる。
病に伏せる実母に代わって私を育ててくれた、優しい義母。彼女と弟、タリー達の存在が私を支えてくれた。
「私達の愛しい娘。御子様の出産については私には分からないけど、大変なこともあるでしょう?」義母が私の頬を撫でて、目を合わせる。疲れているのがバレたようだ。
「大丈夫よ。最初は戸惑ったけど、精霊の言うことにも事情があるんだと分かってきたから。できることを頑張るわ」
私が光の御子を生み、家族が実母の故郷であるイーストフィールドに送り届けることで、実母の心残りも晴れるだろう。
「お義母さんこそ、長旅になりそうだわ。用意も大変でしょうし。ごめんね」小柄な義母を抱きしめる。経験のある父が躊躇う様な道程なのだ。
ふと、皿に盛った命の樹の実に目が止まった。私の為にタリーが用意したものだ。義母に持ち帰って貰わなければならない、と強く感じる。
「お義母さん。これ、離宮でしかできない実なの。お父様と食べてね。子どもには良くないから、フィルはダメよ?」手巾に包んで渡すと、笑って受け取ってくれた。
「お許しがあれば、また来るわね」義母の柔らかな頬に口付けて、幸福を祈る。父母の軽食まで食べて満足したらしい。ご機嫌なフィルも抱きしめた。
馬車まで送るコレウスとパースランが出て行く。
「樹の実、渡して良かったの?」パクレットに訊かれ、イオを見上げた。
「義母に渡せと言われた気がしたの。多分、精霊の勧めだと思うけど」
「そのようです。私もそれが良いと感じました」イオも頷く。
コレウスとパースランが戻って来て、みんなでイオを見つめる。
「で、どういうことだ?」コレウスが代表して訊いた。
「スパティフィラムはイーストフィールドの命の守護者です」誰も言葉が出なかった。
「お父上が第二子を彼の国に返す、と約した為、彼は命の守護者として生まれました。光の御子を巫女姫に渡せば、彼女は十八歳で聖女となります。彼はその伴侶候補者です」
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