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一章 聖女と守護者達
二十七話「国境の攻防」
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「くそっ、こちらにも追手が」聖騎士タマリは、背負った巫女姫を包む布を結び直して走り出した。精霊の誘導で何とか包囲網を潜り抜けて来たが、後一歩の所で足止めされている。
最初は軽いと思った巫女姫が、こんなに重く感じるとは。国境は見えているのに、傷めた脚は震えるだけで、巡回の隙間を縫って走り込む事ができない。あの兵士に見つかったら終わりだ。分かっているのに、隠れる場所もなく立ち尽くすだけだ。あぁ神よ、精霊よ、巫女姫をお助け下さい。目を閉じて兵士の誰何を待つ。
「じっとしているんだ」急に耳元で声がして、驚きの余り大声を出すところだった。精霊が抱き締めてくれる気配を感じて、何とか耐える。大丈夫、と囁く精霊に心で頷いた。
「そのまま少し待てば、騒ぎが起きる」兵士が振り返り、何かを気にしている。こちらへは……来ない。
「まだだ。待て」早く逃げたい。もう限界だ。
「走るなよ、合図してからゆっくり歩くんだ。そう、今だ」大声で呼ばれた兵士が、そちらへ向かって走り出した。
「歩け、何も気にするな。ただ歩くんだ」静かな声に従う。穏やかな力強い声だ。
歩くうちに、大きな音と光、炎が上がっているのが視界に映り込む。
「来い。もう少しだ。真っ直ぐ歩け」声に従う。精霊の囁きを信じるしかない。他に方法もないんだ。
「よくやった」美しい銀髪、優しい青い目の端正な顔。どこかで見たことがある。
自分の体が崩れ落ちるように倒れ、彼に受け止められたのを感じて、安堵の涙が零れた。
「おはよ」パクレットの口付けで目覚める。
「今のは夢?」嬉しそうな微笑みに確信する。彼らが保護されたのね。パクレットの首にしがみついて、喜びを分かち合う。
「お父様、凄いわ」興奮が冷めない。彼らを保護したのは私の父デュランタ、風の騎士だ。精霊の力を借りて誘導したのね。
「うん、格好良かった。ぼくがあの聖騎士……タマリなら惚れてるね」確かに。美しいとか思ってたものね。
「私も惚れ直したわ。勿論、国境まで見通せる貴方にも」ちゅ、と口付けた唇を舐めて開かされ、優しい舌が入ってくる。反応する度に舌先で突つかれ、花の香りが上がった。
「朝食には間に合わせるから……挿入ていい?」パクレットの目がギラリと光る。
「お願い」笑いかけると、がばりとのし掛かられ、全身での愛撫が始まった。
巫女姫がイーストフィールドを出立して十日。姫は精霊の支援《サポート》と献身的な部下達の活躍で、何とか国境に到達した。
彼女とその支援者達が、自身の力でこの国に逃げ込んでくれれば保護できる。そうでなければ、サウスが侵略し略取したと判断されるのだ。
この世界では、他国に戦争を仕掛けると精霊の加護を失う。勿論抜け道はあり、過去に他国を傀儡《かいらい》化したり経済的に支配した例もある。しかし、そういった国は長くは保てず瓦解した。
ただ、国内での紛争や、プロである暗殺者や強盗団を使って他国の力を削ぐ事までは制約されない。世界の中央に位置するセントラルは、貿易で積み上げた財力で他国を牽制しながら抗争を続けている。
このサウスは、のんびりとした国民性からも、防衛を精霊の加護に頼るところが大きい。私が加護を得ることで、国全体の力が底上げされ、個人も集団も使える魔力や力が増すのだ。
「ぁぁ、気持ち、いい」だから、私が七人全ての守護者と交われたことは、この国に大きな力を与えた筈だ。
「もぅ、入れて」でも、私達にとっては、愛しているから抱きたい、抱かれたいだけ。
昨夜、守護者選定から半月以上待たせたパクレットと、やっと交わることができた。
光の御子の世話係であるマジョラムとモーヴは、同性愛を厭うイーストフィールドの慣習にも引き摺られて、なかなか行為を楽しむことができなかった。光の精霊には罪悪感や恐怖心といった負の感情が毒になる。彼らが純粋に愛し合い快楽を楽しまなければ、その乳を吸う御子に澱が溜まってしまう。
また、魔力の少ないモーヴと精霊の減った国の守護者マジョラムには、夜に一度の補給がやっと。羞恥心を抑える為に防音の魔道具も必要だし、彼らの教育と準備には時間がかかった。
御子が擂り潰した命の樹の実を食べられるようになり、一日一回の授乳で足りるようになった昨日、とうとう彼らに御子を預けられたのだ。
最初は軽いと思った巫女姫が、こんなに重く感じるとは。国境は見えているのに、傷めた脚は震えるだけで、巡回の隙間を縫って走り込む事ができない。あの兵士に見つかったら終わりだ。分かっているのに、隠れる場所もなく立ち尽くすだけだ。あぁ神よ、精霊よ、巫女姫をお助け下さい。目を閉じて兵士の誰何を待つ。
「じっとしているんだ」急に耳元で声がして、驚きの余り大声を出すところだった。精霊が抱き締めてくれる気配を感じて、何とか耐える。大丈夫、と囁く精霊に心で頷いた。
「そのまま少し待てば、騒ぎが起きる」兵士が振り返り、何かを気にしている。こちらへは……来ない。
「まだだ。待て」早く逃げたい。もう限界だ。
「走るなよ、合図してからゆっくり歩くんだ。そう、今だ」大声で呼ばれた兵士が、そちらへ向かって走り出した。
「歩け、何も気にするな。ただ歩くんだ」静かな声に従う。穏やかな力強い声だ。
歩くうちに、大きな音と光、炎が上がっているのが視界に映り込む。
「来い。もう少しだ。真っ直ぐ歩け」声に従う。精霊の囁きを信じるしかない。他に方法もないんだ。
「よくやった」美しい銀髪、優しい青い目の端正な顔。どこかで見たことがある。
自分の体が崩れ落ちるように倒れ、彼に受け止められたのを感じて、安堵の涙が零れた。
「おはよ」パクレットの口付けで目覚める。
「今のは夢?」嬉しそうな微笑みに確信する。彼らが保護されたのね。パクレットの首にしがみついて、喜びを分かち合う。
「お父様、凄いわ」興奮が冷めない。彼らを保護したのは私の父デュランタ、風の騎士だ。精霊の力を借りて誘導したのね。
「うん、格好良かった。ぼくがあの聖騎士……タマリなら惚れてるね」確かに。美しいとか思ってたものね。
「私も惚れ直したわ。勿論、国境まで見通せる貴方にも」ちゅ、と口付けた唇を舐めて開かされ、優しい舌が入ってくる。反応する度に舌先で突つかれ、花の香りが上がった。
「朝食には間に合わせるから……挿入ていい?」パクレットの目がギラリと光る。
「お願い」笑いかけると、がばりとのし掛かられ、全身での愛撫が始まった。
巫女姫がイーストフィールドを出立して十日。姫は精霊の支援《サポート》と献身的な部下達の活躍で、何とか国境に到達した。
彼女とその支援者達が、自身の力でこの国に逃げ込んでくれれば保護できる。そうでなければ、サウスが侵略し略取したと判断されるのだ。
この世界では、他国に戦争を仕掛けると精霊の加護を失う。勿論抜け道はあり、過去に他国を傀儡《かいらい》化したり経済的に支配した例もある。しかし、そういった国は長くは保てず瓦解した。
ただ、国内での紛争や、プロである暗殺者や強盗団を使って他国の力を削ぐ事までは制約されない。世界の中央に位置するセントラルは、貿易で積み上げた財力で他国を牽制しながら抗争を続けている。
このサウスは、のんびりとした国民性からも、防衛を精霊の加護に頼るところが大きい。私が加護を得ることで、国全体の力が底上げされ、個人も集団も使える魔力や力が増すのだ。
「ぁぁ、気持ち、いい」だから、私が七人全ての守護者と交われたことは、この国に大きな力を与えた筈だ。
「もぅ、入れて」でも、私達にとっては、愛しているから抱きたい、抱かれたいだけ。
昨夜、守護者選定から半月以上待たせたパクレットと、やっと交わることができた。
光の御子の世話係であるマジョラムとモーヴは、同性愛を厭うイーストフィールドの慣習にも引き摺られて、なかなか行為を楽しむことができなかった。光の精霊には罪悪感や恐怖心といった負の感情が毒になる。彼らが純粋に愛し合い快楽を楽しまなければ、その乳を吸う御子に澱が溜まってしまう。
また、魔力の少ないモーヴと精霊の減った国の守護者マジョラムには、夜に一度の補給がやっと。羞恥心を抑える為に防音の魔道具も必要だし、彼らの教育と準備には時間がかかった。
御子が擂り潰した命の樹の実を食べられるようになり、一日一回の授乳で足りるようになった昨日、とうとう彼らに御子を預けられたのだ。
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