38 / 59
二章「結婚の儀」
三十四話「巫女姫の来訪」前編
しおりを挟む
「姉様!」扉を開けた途端、弟のスパティフィラムが飛び込んできた。
「騎士団に入団しました。父様の従者になるんです」満面の笑みで報告するフィルに抱きしめられた。
「良かったわ。ずっと騎士に憧れてたものね」その背を撫でる私の顔は、かなり緩んでいるだろう。弟はどんどん大きくなって、あっさり私を追い抜いてしまったけど、やっぱり可愛い。
「ヒビスクスのお陰です」フィルの言葉に首を傾げる。
「父上の指導は難しくて。ヒビスクスは一つずつ確認しながら教えてくれるんです。そのお陰で試験に合格できたんだと思います」
弟の囁きに驚いた。彼にそんな繊細な所があるとは思わなかった。
「聖女。何か失礼なことを考えただろう。精霊達が爆笑してる」ヒビスクスが怖い顔をして見せるけど、口元は笑ってる。
「弟がお世話になったのね、ありがとう」口付け一つで機嫌をなおして、抱きしめてくれた。
「姉上。辛くはないですか?」側で見ていたフィルの、突然溢した言葉に驚いた。
「姉上はタリーが好きでしょ? 沢山の夫を持つことになったけど」しまった、という顔で頭を掻きながら口早に続ける。
誰かに何か言われたのかしら。尋ねようと口を開いた時に、呼び鈴が鳴った。
パクレットが扉を開けると、巫女姫が入ってくる。緩い癖のある長い銀髪、煙るようなレモン色の瞳。整った顔に強ばった笑みを浮かべて、侍女に手を引かれて歩んで……
フィルを見て、笑顔のまま固まった。フィルを見上げると、こちらも驚愕した表情で、やはり固まっている。
「お父様達も、こんな風だったのね」義母プリムラが、傍らで深いため息を吐いた。
「お義母さん、ごめんなさい」首を振って私を抱きしめる、小さな体が震えている。
「自分の目で見られて良かったわ。諦めがつくもの」義母は、息子が他国の聖女と恋に落ちたことと、彼と離れて暮らすことになることを、瞬時に理解して受け入れた。
「お義母さん、愛してるわ。側に居られなくてごめんなさい」ソファに誘い、側に座って頬に口付けると、母を挟んで父も座る。
「わたしも愛している。もう離さないぞ」父が義母の顎を掬って深く口付けた。
ふと気付くと、若い二人が両親を見て真っ赤になっていた。
「あら、落ち着いた?」抱き合う両親をソファに残して、二人を離れたテーブルに誘う。
「こんにちは、巫女姫様。私はサウスフィールドの聖女、ヴェロニカよ」そっと抱き寄せて頬に口付けると、巫女姫は躊躇いながら、そっと口付けを返してくれた。
「彼は私の弟、スパティフィラム。愛を語らっているのは私達の両親よ。巫女姫は父とは面識があるのよね?」私の言葉に、巫女姫はまた動かなくなる。
自分の実の父親かと疑う人の息子と、恋に落ちたんだものね。まぁ、あの光景を見たら、疑惑は晴れたんじゃないかと思うけど。
また鈴が鳴って、今度はタッカが扉を開ける。来客の多い日ね。
「聖女、タリー、イオナンタ! 御子が熱を出したんだ!」あらら、マジョラム。こんな時に来ちゃったのね。
「どれ? 俺が診よう」コレウスが御子を覗き込む。
「タリーとイオナンタは王宮に呼ばれちゃったんだ。もう帰ってくると思うけど」パースランがマジョラムに説明している。
「マジョラム、置いて行かないで下さいよ」モーヴ神官も駆け込んで来た。
「姉上、ここは賑やかだね」フィルが呆然と呟く。
「そうなの。タリーと二人きりより、この方が楽しいわ」やっと、フィルの質問に答えられた。
「それなら良かった」笑顔の私に、フィルも笑ってくれた。
「羨ましいです」巫女姫の小さな声は、驚く程はっきりと聞こえた。
「私の育った神殿は、いつも静かでした」御子をコレウスに預けたマジョラムとモーヴ神官が、巫女姫に気付いて困っている。
「愛してくれる人はいた?」フィルが静かに尋ねた。
「……両親が。私が一歳の頃に亡くなりましたけど。それに、神官長と神官や巫女達」ハッとした顔で、巫女姫が答えた。
「そうですね、私は愛されていました」緊張が緩む肩を、フィルがそっと撫でた。
コレウスが巫女姫の前に跪き、腕に抱いた御子を差し出す。
「みうて」御子が巫女姫に手を伸ばした。
「はい、ミルテです」巫女姫は御子の手をそっと握る。
「初めまして、御子様」表情が崩れた頬に、ぼろぼろと涙が流れた。
暫く巫女姫に抱かれていた御子がぐずり始め、コレウスが水分や果物を取るよう勧めた。マジョラム達がばたばたと世話を始める。
巫女姫はフィルと護衛のヒビスクスや女官に付き添われて、離宮の庭を散歩に行った。上気した頬で腕を組み、小さな声で話す様子が初々しい。
御子を抱くマジョラムとモーヴ神官が躊躇いながら誘って、巫女姫も一緒に王宮に帰って行く。見送りながら呟いた。
「私は殆ど話してないわ」あんなに心配して、準備したのに。
「騎士団に入団しました。父様の従者になるんです」満面の笑みで報告するフィルに抱きしめられた。
「良かったわ。ずっと騎士に憧れてたものね」その背を撫でる私の顔は、かなり緩んでいるだろう。弟はどんどん大きくなって、あっさり私を追い抜いてしまったけど、やっぱり可愛い。
「ヒビスクスのお陰です」フィルの言葉に首を傾げる。
「父上の指導は難しくて。ヒビスクスは一つずつ確認しながら教えてくれるんです。そのお陰で試験に合格できたんだと思います」
弟の囁きに驚いた。彼にそんな繊細な所があるとは思わなかった。
「聖女。何か失礼なことを考えただろう。精霊達が爆笑してる」ヒビスクスが怖い顔をして見せるけど、口元は笑ってる。
「弟がお世話になったのね、ありがとう」口付け一つで機嫌をなおして、抱きしめてくれた。
「姉上。辛くはないですか?」側で見ていたフィルの、突然溢した言葉に驚いた。
「姉上はタリーが好きでしょ? 沢山の夫を持つことになったけど」しまった、という顔で頭を掻きながら口早に続ける。
誰かに何か言われたのかしら。尋ねようと口を開いた時に、呼び鈴が鳴った。
パクレットが扉を開けると、巫女姫が入ってくる。緩い癖のある長い銀髪、煙るようなレモン色の瞳。整った顔に強ばった笑みを浮かべて、侍女に手を引かれて歩んで……
フィルを見て、笑顔のまま固まった。フィルを見上げると、こちらも驚愕した表情で、やはり固まっている。
「お父様達も、こんな風だったのね」義母プリムラが、傍らで深いため息を吐いた。
「お義母さん、ごめんなさい」首を振って私を抱きしめる、小さな体が震えている。
「自分の目で見られて良かったわ。諦めがつくもの」義母は、息子が他国の聖女と恋に落ちたことと、彼と離れて暮らすことになることを、瞬時に理解して受け入れた。
「お義母さん、愛してるわ。側に居られなくてごめんなさい」ソファに誘い、側に座って頬に口付けると、母を挟んで父も座る。
「わたしも愛している。もう離さないぞ」父が義母の顎を掬って深く口付けた。
ふと気付くと、若い二人が両親を見て真っ赤になっていた。
「あら、落ち着いた?」抱き合う両親をソファに残して、二人を離れたテーブルに誘う。
「こんにちは、巫女姫様。私はサウスフィールドの聖女、ヴェロニカよ」そっと抱き寄せて頬に口付けると、巫女姫は躊躇いながら、そっと口付けを返してくれた。
「彼は私の弟、スパティフィラム。愛を語らっているのは私達の両親よ。巫女姫は父とは面識があるのよね?」私の言葉に、巫女姫はまた動かなくなる。
自分の実の父親かと疑う人の息子と、恋に落ちたんだものね。まぁ、あの光景を見たら、疑惑は晴れたんじゃないかと思うけど。
また鈴が鳴って、今度はタッカが扉を開ける。来客の多い日ね。
「聖女、タリー、イオナンタ! 御子が熱を出したんだ!」あらら、マジョラム。こんな時に来ちゃったのね。
「どれ? 俺が診よう」コレウスが御子を覗き込む。
「タリーとイオナンタは王宮に呼ばれちゃったんだ。もう帰ってくると思うけど」パースランがマジョラムに説明している。
「マジョラム、置いて行かないで下さいよ」モーヴ神官も駆け込んで来た。
「姉上、ここは賑やかだね」フィルが呆然と呟く。
「そうなの。タリーと二人きりより、この方が楽しいわ」やっと、フィルの質問に答えられた。
「それなら良かった」笑顔の私に、フィルも笑ってくれた。
「羨ましいです」巫女姫の小さな声は、驚く程はっきりと聞こえた。
「私の育った神殿は、いつも静かでした」御子をコレウスに預けたマジョラムとモーヴ神官が、巫女姫に気付いて困っている。
「愛してくれる人はいた?」フィルが静かに尋ねた。
「……両親が。私が一歳の頃に亡くなりましたけど。それに、神官長と神官や巫女達」ハッとした顔で、巫女姫が答えた。
「そうですね、私は愛されていました」緊張が緩む肩を、フィルがそっと撫でた。
コレウスが巫女姫の前に跪き、腕に抱いた御子を差し出す。
「みうて」御子が巫女姫に手を伸ばした。
「はい、ミルテです」巫女姫は御子の手をそっと握る。
「初めまして、御子様」表情が崩れた頬に、ぼろぼろと涙が流れた。
暫く巫女姫に抱かれていた御子がぐずり始め、コレウスが水分や果物を取るよう勧めた。マジョラム達がばたばたと世話を始める。
巫女姫はフィルと護衛のヒビスクスや女官に付き添われて、離宮の庭を散歩に行った。上気した頬で腕を組み、小さな声で話す様子が初々しい。
御子を抱くマジョラムとモーヴ神官が躊躇いながら誘って、巫女姫も一緒に王宮に帰って行く。見送りながら呟いた。
「私は殆ど話してないわ」あんなに心配して、準備したのに。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる