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二章「結婚の儀」
三十五話「巫女姫の来訪」後編
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「お帰りなさい」父と義母、弟を加えたみんなで食卓を囲んでいると、タリーとイオナンタが王宮から戻って来た。
「お疲れさまでした」イオナンタが両親に挨拶をしてから、私の側に来てくれた。
「大変だったみたいですね」イオの言葉に笑いが混じってるから、光の精霊に聞いたのね?
「御子は巫女姫ミルテに会いたがって、興奮しすぎて熱を出すほどだったそうです。フィルと会った時も喜んでいましたが、やはり自身の聖女は特別なようですね」
うん、あの光景には聖母子像が思い浮かんだわ。
「巫女姫に出生の秘密を説明することになるのかと悩んでたのに、拍子抜けしちゃった。助かったけど」
私の言葉に、周囲のみんなも笑った。
「タリーとイオはいないし、三組の来客が重なるし。オレも本当は不安だったよ」パースランが頭を掻く。
「まぁ、巫女姫がフィルと恋に落ちた瞬間に、巫女姫のことは彼に任せればいいと分かったがな」御子へのコレウスの呑気な対応は、病気じゃないと分かってただけじゃないのね。
「え? 新領地って……」突然上がったフィルの大声に、みんなが注目する。
「昇進には殆どの場合、配置変えが伴う。これまでは病身のラディアータの為に断ってきたが、今後は遠方任務も、家族での異動もあるだろう」落ち着いた父の声に、義母も頷いている。
「だって、巫女姫は……」王都にいるのに、か。
「お前は騎士団に入団したんだ。そんな覚悟もなかったのか。王都にいても従者は激務だ。遊ぶ暇などないぞ」父の叱責に、弟は言葉も出ない。
私の家族に囲まれてしまったタリーが困っている。側に行こうとした私を、タッカが引き止めた。
「スパティフィラム。貴方は何を優先しますか?」義母プリムラの凛とした声に、実母の姿が重なった。
「貴方はまだ騎士ですらない。彼女を助けた父親と聖女である姉の力を笠に着て、彼女の側にいるつもりですか?」義母は続ける。
「姉の傍らに立つためにタリーがどれ程努力していたか、貴方は見ていた筈です」
「……すみませんでした。舞い上がっていたようです」フィルは良い子だ。巫女姫の孤独を慰めてあげたかったのだと、みんな分かっている。そして、それが許される立場でないことも。
「巫女姫も、新領地の神殿で療養予定です」タッカの囁きに頷く。絆を結ばなくてはならない時期だものね。王都より自由に行動できる、新領地の方がいいに決まっている。
「私は家族や御子との別れが寂しいわ」タッカに口付けて囁き返すと
「寂しがる暇なんて、あげませんよ」こっそり腰を撫でる伴侶の言葉に納得し……ちょっと怯える。
パクレットが赤くなって私達を見つめていた。聞かれちゃったわ。でも、風の精霊も生む約束だものね。笑いかけると、こくりと頷く様子が愛しい。また忙しい日々になりそう。
「では、結婚式は来月初めで宜しいですね」タリーの声に、みんなが注目した。
「分かった。伴侶の方々、守護者の皆さん、ヴェロニカを宜しくお願い致します」家族三人と合わせて、私も頭を下げる。
「大切にするとお約束致します」タリーの言葉に涙が零れた。
とうとう結婚するのね。色々あって後回しになっていたけど、こうして絆が深まってからの儀式で、私達にとっては良かったと思う。結局、七人の守護者全員と結婚することになったし。
「披露は女王の在位三十年の祝賀を兼ねて、王族の結婚式に準じた流れで行われます。ヴェロニカの実母ラディアータが王族の血を引くことを我国が了解していると示す為です」タリーが息を継いだ。
「でも実際には、警備上の問題が大きいそうです。女王は騎士団に、ヴェロニカと守護者各々の家族の護衛を依頼しました」タリーの声に皆の顔が真剣になった。
「明日、女王の訓示があります。ヴェロニカのご家族にはこのまま王宮に留まっていただきます」タリーがちらりとフィルを見た。
「日中は、プリムラ様は離宮にお越しください。花嫁教育という名目で、巫女姫も参加予定です」フィルは瞬きしただけで、お父様は微かに頷いた。
「デュランタ様とスパティフィラム殿には、プリムラ様の送迎をお願いします。できればお食事は、離宮でご一緒にお取り下さい」お父様が了解した。これも警備上の問題ね。
「守護者の家族も今月末には王宮に揃います。顔合わせの機会が設けられるそうです。各々で対応して下さい」コレウスが露骨に嫌な顔をするのに、笑い声が洩れた。
「害意があれば離宮には入れませんが、念の為、結界の近くには近付かないで下さい」タッカが付け加え、みんなが頷いた。
「お疲れさまでした」イオナンタが両親に挨拶をしてから、私の側に来てくれた。
「大変だったみたいですね」イオの言葉に笑いが混じってるから、光の精霊に聞いたのね?
「御子は巫女姫ミルテに会いたがって、興奮しすぎて熱を出すほどだったそうです。フィルと会った時も喜んでいましたが、やはり自身の聖女は特別なようですね」
うん、あの光景には聖母子像が思い浮かんだわ。
「巫女姫に出生の秘密を説明することになるのかと悩んでたのに、拍子抜けしちゃった。助かったけど」
私の言葉に、周囲のみんなも笑った。
「タリーとイオはいないし、三組の来客が重なるし。オレも本当は不安だったよ」パースランが頭を掻く。
「まぁ、巫女姫がフィルと恋に落ちた瞬間に、巫女姫のことは彼に任せればいいと分かったがな」御子へのコレウスの呑気な対応は、病気じゃないと分かってただけじゃないのね。
「え? 新領地って……」突然上がったフィルの大声に、みんなが注目する。
「昇進には殆どの場合、配置変えが伴う。これまでは病身のラディアータの為に断ってきたが、今後は遠方任務も、家族での異動もあるだろう」落ち着いた父の声に、義母も頷いている。
「だって、巫女姫は……」王都にいるのに、か。
「お前は騎士団に入団したんだ。そんな覚悟もなかったのか。王都にいても従者は激務だ。遊ぶ暇などないぞ」父の叱責に、弟は言葉も出ない。
私の家族に囲まれてしまったタリーが困っている。側に行こうとした私を、タッカが引き止めた。
「スパティフィラム。貴方は何を優先しますか?」義母プリムラの凛とした声に、実母の姿が重なった。
「貴方はまだ騎士ですらない。彼女を助けた父親と聖女である姉の力を笠に着て、彼女の側にいるつもりですか?」義母は続ける。
「姉の傍らに立つためにタリーがどれ程努力していたか、貴方は見ていた筈です」
「……すみませんでした。舞い上がっていたようです」フィルは良い子だ。巫女姫の孤独を慰めてあげたかったのだと、みんな分かっている。そして、それが許される立場でないことも。
「巫女姫も、新領地の神殿で療養予定です」タッカの囁きに頷く。絆を結ばなくてはならない時期だものね。王都より自由に行動できる、新領地の方がいいに決まっている。
「私は家族や御子との別れが寂しいわ」タッカに口付けて囁き返すと
「寂しがる暇なんて、あげませんよ」こっそり腰を撫でる伴侶の言葉に納得し……ちょっと怯える。
パクレットが赤くなって私達を見つめていた。聞かれちゃったわ。でも、風の精霊も生む約束だものね。笑いかけると、こくりと頷く様子が愛しい。また忙しい日々になりそう。
「では、結婚式は来月初めで宜しいですね」タリーの声に、みんなが注目した。
「分かった。伴侶の方々、守護者の皆さん、ヴェロニカを宜しくお願い致します」家族三人と合わせて、私も頭を下げる。
「大切にするとお約束致します」タリーの言葉に涙が零れた。
とうとう結婚するのね。色々あって後回しになっていたけど、こうして絆が深まってからの儀式で、私達にとっては良かったと思う。結局、七人の守護者全員と結婚することになったし。
「披露は女王の在位三十年の祝賀を兼ねて、王族の結婚式に準じた流れで行われます。ヴェロニカの実母ラディアータが王族の血を引くことを我国が了解していると示す為です」タリーが息を継いだ。
「でも実際には、警備上の問題が大きいそうです。女王は騎士団に、ヴェロニカと守護者各々の家族の護衛を依頼しました」タリーの声に皆の顔が真剣になった。
「明日、女王の訓示があります。ヴェロニカのご家族にはこのまま王宮に留まっていただきます」タリーがちらりとフィルを見た。
「日中は、プリムラ様は離宮にお越しください。花嫁教育という名目で、巫女姫も参加予定です」フィルは瞬きしただけで、お父様は微かに頷いた。
「デュランタ様とスパティフィラム殿には、プリムラ様の送迎をお願いします。できればお食事は、離宮でご一緒にお取り下さい」お父様が了解した。これも警備上の問題ね。
「守護者の家族も今月末には王宮に揃います。顔合わせの機会が設けられるそうです。各々で対応して下さい」コレウスが露骨に嫌な顔をするのに、笑い声が洩れた。
「害意があれば離宮には入れませんが、念の為、結界の近くには近付かないで下さい」タッカが付け加え、みんなが頷いた。
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