為田康介ごくらくへゆく

もっちり羊

文字の大きさ
3 / 5

エル・カンターレ復活祭

しおりを挟む
「オーカワ様……いえ、エル・カンターレ様なのですか?」
 為田父は四国の焼け野原を駆けたオーカワの面影をその男に見る。
 一騎当千の修羅。
 徳島のナポレオン。
 英雄オーカワの面影を。
「いかにも、私がエル・カンターレである」と男は言う。「しかしそなたこそ、そのかぼす色の覇気、見覚えがあるな」
 為田父は即座に腰を落とし、頭を下げる。
「はッ! 自分は先の大戦で徳島第十一師団の団長を勤めさせていただきました為田中将であります! 憶えてはおられないでしょうが、戦場では一度エル・カンターレ様に危機を救っていただきました。あなた様には一度こうして感謝の意を示したいとずっと考えておりました。理由はわかりませんが、参上していただきありがとうございます」
「おお! 思い出したぞ為田中将。大分出身であるにも関わらず、本来劣等オーラであるかぼす色の覇気をすだちのそれのように操り、徳島のため存分に力を振るった戦士がおったわ。香川うど~ん軍の進軍を満身創痍の状態の一個師団で食い止めたのが確かそなたのところではなかったか? 大義であったな」
「そんな勿体ないお言葉……あのような戦場を知らない突貫工事の引きこもり部隊、むしろ手間取ってしまった方でございます」
「ほっほっほ。謙遜はよい」
「なんでオーカワがここにおるんじょ?」とバカの方の為田が口を開く。
「そうです。何故エル・カンターレ様がここにおられるのでしょうか。大鳴門橋の戦いで深手を負い、意識不明の状態のはずでは……」
「いかにも。しかしそなたは私がどこの医療施設で療養しているかは知らない。違うか?」
「ええ。極秘事項ですから」
「徳島病院ぞ」
「めっちゃ近所だじょ!」とアホの為田。
「そんなにも近くにおられたなんて……」
「ほっほっほ。幸福とはいつでも近くにあるものよな」
 為田父、ここで大変なことに気がつく。
 徳島病院は既に彼の攻撃により崩壊しているのである。
「……まさか、私が?」
「気に病むでない。これもまた運命じゃ。世界中の不幸が再び私を呼んだだけのことだ。そなたの行為はきっかけでしかない。むしろあれで目が覚めたのだ。そなたは救世主と言ってもよいかもしれんの」
 天なる父、エル・カンターレは高らかに笑う。
「さあ皆の者! 我の復活を祝い、踊るのじゃ!」
 エル・カンターレのご指導の通り、焼け野原のなか皆で阿波踊りを踊る。
 
 えらいこっちゃえらいこっちゃよいよいよいよい
 えらいこっちゃえらいこっちゃよいよいよいよい
 えらいこっちゃえらいこっちゃよいよいよいよい

「塩鮭音頭だじょ」

 為田康介のマヌケなひと言により、聖なる踊りである阿波踊りは中断され、それは死の踊りである塩鮭音頭へと変換される。
『ジョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……!』
 塩鮭音頭によりすだち王が召喚された。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

処理中です...