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本編
◆ホームセンターで売ってる鉈や斧で、人間より大きい蜘蛛型モンスターを倒せるか検証してみた
しおりを挟む「というわけで、本日はこちらの品々をご用意しました」
誠がアリスのいる『鏡』の前から二時間ほど去り、そして再び戻ってきた。
買い物してきた品々をアリスの前に並べている。
「気になるお値段は!?」
アリスは日本の動画文化に染まってきた。
なんとなく誠のノリに合わせることもできるくらいだ。
「斧が6千円。鉈が1万円だ」
斧は薪割り用のものだ。
柄は70センチほどで、刃渡りは10センチほど。
そこそこ重量もある。
鉈の方は刃渡り15センチほどで、刃が薄いためか、見た目ほどの重さはない。
恐らくは頑丈さよりも使い勝手を優先している製品だった。
「……一つ、聞いても良いですか?」
「どうした?」
「そちらの金銭感覚はまだ掴めてないのですが……これ、安くないのでは?」
「必要経費だよ。給付金はまだまだ残ってる」
「本当にすみません……何から何まで……。こうなったからには、私も全力で撮影に取り組みます!」
と、アリスは決意に燃える目で言った。
アリスは自分の出ている動画に対し、まだまだ恥ずかしさが残っている。だが目標を立て、必要な機材を揃えたあたりで、恥ずかしさでまごまごしていることに恥ずかしさを覚えてきた。「ここでやる気を出さねば聖女の名がすたる」とまで思い始めた。
「あー、まずは魔物退治する動画とかは考えなくて良いよ。そのあたりの風景を録画してきてもらうだけで良いから」
「任せてください!」
「ウェアラブルカメラも、録画オンにしてるからそのまま周囲を散策してくれれば大丈夫。まずはカメラのテストや撮影に慣れることから始めよう。編集して切り貼りして上手く使えたらそれで儲けもの……くらいの感覚で大丈夫」
「承知しました!」
「あとは……」
「心配ご無用! 聖女アリス、バズ動画を撮ってきます!」
こうしてアリスは立ち上がり、撮影へと旅立った。
◆ホームセンターで売ってる鉈や斧で、人間より大きい蜘蛛型モンスターを倒せるか検証してみた
地球のみなさーん!
聖女アリスですよー! へへいへい!
2回目の動画になります、張り切っていきましょう!
さて、今回の動画ではいよいよ外の様子を撮影しようと思います。
まずは霊廟の中の私の部屋から出てみましょうか。
なんでかわからないんですが、千年経っても不思議と壊れたり荒れ果てたりはしていないようなんです。
……で、私の部屋を出て廊下を抜けて、一番大きな通路に出ました。
通路沿いに進めばそのまま外に出られます。
で、歩いていくと……ここから外になります。
さっきまで居た霊廟を外から眺めてみましょうか。
どうです、けっこう大きな建物でしょう?
地球の超高層ビルほどではないかもしれませんが。
でも、この太い柱は日本の皆さんもあまり見ないと思うんですよ。
太さは3メートルくらい。
高さは……たぶん40メートルくらいかな?
天井が高すぎて寒いんですよね。
部屋の中も隙間風が凄く吹き込んできますし。
まあ、霊廟の方はこのくらいにして、周囲の方に目を向けましょう。
……さあ、ここが! 幽神大砂界です!
めちゃめちゃ眩しいでしょう?
砂が普通の砂じゃなくて、なんかガラスとかオリハルコン?とか言うよくわかんないものが粉々になってできあがった砂漠なんだそうです。
見てる人にとっては「うわっ、まぶし」で済むんですが。
ここ、クソみたいに暑いんですね。
暑いっていうか熱いですね。
ああ、日焼けとか火傷とかはしないです。
根性でなんとかなります。
嘘です。
根性じゃなくて、魔力ですね。
魔力が強い人間は、自然にバリア的なものが張られて熱や紫外線から守られるんです。
あとは剣で斬られたり噛みつかれたりしても軽傷で済んだり。
ただ、相手も魔力を持ってたりするとそのバリアも破られたりします。
なので筋力+魔力で、最終的な防御力や攻撃力になるっていうか……。
……おや?
みなさん向こうの方は見えますか。
いま、ちょうどよく魔物がいました。
蜘蛛です。
クリスタルスパイダーという強敵ですね。
こっちの方が風下なので、まだ気付かれていません。
ただの鹿とか虎とかウサギとかハイエナなら可愛いもので見逃しても問題ないんですけど、魔物は人間を見ると本能的に襲いかかってくるんで大変厄介なんです。
なので、まあ、先手必勝あるのみですね。
サクっとやってしまいましょうか。
◆
誠は、アリスが撮ってきた動画データを確かめていた。
最初の動画のように、妙なハイテンションとシニカルさを兼ね備えた喋りは配信者向きだと思いながらチェックする。だがそのとき、突然映像がジャンプした。
そして気付けば、カメラの前に巨大な蜘蛛がいる。
「あれ?」
誠は思わず呟き、「いや、違う」とすぐに気付いた。
一瞬でカメラが切り替わったわけではない。そんな錯覚を覚えるほどに、猛スピードでアリスが移動したのだ。
『死ね!!! ホームセンターDO IT YOUR SELFオリジナルブランド税込6,000円の斧が!!! あなたの運命です!!!』
そして次の瞬間、左側の足が3本ほど吹き飛んだ。
斧でまとめて両断されたのだ。
蜘蛛が体勢を崩す。
わしゃわしゃと体を動かそうとするが上手く行かない。
跳躍しようとしてバランスを崩し、ずっこけた。
『往生際が悪い! 逃がしませんよ!!!』
そしてアリスが蜘蛛の背後に回り込む。
大柄な蜘蛛の背中を踏み台にして、今度は鉈を振り下ろした。
蜘蛛の関節部にがっつんがっつん何度も振り下ろす。
誠は思った。
これ戦闘じゃない。
解体だ。
『はぁ、はぁ……っしゃオラァ! この通り、ホムセンで売ってる刃物でも十分に魔物は、倒せますね!』
動画の中のアリスは息が荒い。
うわずった声でナレーションをしている。
あんな速度で魔物を倒したのだ、流石に疲労はあるのだろう。
『ふう、すみません深呼吸しますね。すぅー、はぁー……』
が、一分くらい休めばすぐに呼吸は落ち着いた。
そして再び霊廟のいつものアリスの部屋へと戻る。
アリスはそこでカメラを切り、映像が途切れた。
「なるほど……これが今撮ってきた光景ってわけか」
「……はい」
誠が、難しい顔をして呟いた。
「で、ホムセンの鉈がこんなことになっちゃったわけだ」
「しくしくしく……」
動画を撮って『鏡』の前に戻ってきたアリスは、へこんでいた。
鉈が一度で使い物にならなくなったからだ。
刃こぼれが酷く、柄もガタついている。
もはや使い物にならないことは一目瞭然だった。
「いや、うん……そうなるわな。よくもった方だと思うよ」
「ごめんなさい……本当に申し訳ありません……ていうか、見直してみたらグロ動画になってますよね……見せられますかねこれ……」
「そんなことはない。この動画は価値がある」
「はぁ……大丈夫でしょうか……?」
「正直言うと、動画運営側が子供に見せられない動画って判断する可能性はあるかも……」
「ええっ」
アリスの顔が絶望に彩られる。
しかし、誠は語気を強めて話を続けた。
「けど、この霊廟の映像だけで歴史建築マニアは飛びつくし、蜘蛛の映像だけでも生き物クラスタが飛びつく。なんならアリスが美味しそうにご飯食べてるだけだって絵になる。確かにアリスの戦う姿は格好いいし迫力あるけど、それ以外にもいろんな魅力がある。色んな動画を取ってトライアンドエラーを続ければきっと成功する。自信を持つんだ」
誠が強く断言する。
アリスは気圧されて、こくりと頷いた。
「は、はい」
「けど、あんな大きな蜘蛛がいるなら護身用の武器は確かに必要だよな……相談するか」
「相談?」
「武器店や武器職人に心あたりはないけど、金属製品に強い人なら知ってる」
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