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本編
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しおりを挟む現状、アリスと誠は1日に1本の動画を投稿している。
ときどき20分程度のそれなりに見応えのある動画を作りつつ、普段は5分程度の動画を投稿する、というペースだ。
5分と言えども撮影や編集の手間はそれなりに忙しく、誠は店のオープン時間を短くして動画の制作に当たっていた。そろそろ手一杯になりそうになってきた頃に、「んじゃボクが手伝おうか?」とスプリガンが手を挙げた。
スプリガンはパソコンやタブレットをいじっているうちに、なんとなく操作方法を覚えたようだった。流石にアリスはそこまでの順応性はないようで、ぐぬぬ顔をしつつもありがたく手助けしてもらっていた。
こうして動画制作の流れができつつあった。企画はアリス、誠、スプリガンで相談し、翔子とガーゴイルが企画に必要な技術提供をする。そして大雑把な動画の切り貼りはスプリガンが担当。文字やキャプションを入れるのはアリスが誠に教わりながらなんとかこなし、最終チェック、動画サムネ制作や投稿作業は誠が担当する……という分担だ。こうして動画の毎日投稿と誠のレストランのランチ営業が両立していた。
「決算報告をしよう」
撮りためた動画がたまってきたので、今日は全員オフだ。
アリスと誠だけが『鏡』の前で寛いでいた。
そんな休みの最中の突然の誠の言葉に、アリスは曖昧に頷いた。
「は、はぁ」
「まず、収益化申請は簡単に通った。来月から広告収益が入金される」
「えっ! 本当ですか!?」
「で、来月の入金額がこちら」
誠は、A4サイズの紙をアリスに渡した。
そこには一ヶ月分の動画の再生時間や発生した報酬金額が書かれている。
「えーと……562円、ですか……」
「うん」
「うそ……私の動画広告収益、これだけ……?」
「うん」
アリスは、自分の口を抑えて目を見開いて驚いていた。
だがすぐに真剣な顔つきとなり、しずしずと正座して頭を下げた。
「マコト。本当にお世話になりました。一ヶ月分で一宿一飯の対価にもならないのでは恩を返すなど夢のまた夢。このままおめおめと生き続けることはできません。せめて一太刀、幽神に浴びせて華々しく散ってアクセス数を稼ごうかと……」
「いや待って待って! ちょうど収益化したタイミングと料金計算のタイミングが被っちゃったから、実質動画投稿して30分くらいしか反映されてないだけだ!」
「え?」
「あと決死の特攻とか動画アップしたらセンシティブ判定されて収益化取り消しされると思う。ていうか現状でもかなりギリギリのラインだと思う」
「あ、はい」
「いいかアリス。これから投稿する動画の再生時間全部がカウントされる。だから来月は10倍や20倍どころじゃないよ」
「具体的には、おいくらくらい?」
「この再生数の伸び率を考えたら……来月は20万は手堅いんじゃないかな。もちろん動画投稿をコンスタントに続ければ、の話だけど。再来月はそこから更に2倍3倍になる可能性だってある」
「……本当に?」
「本当に」
アリスはようやく正気を取り戻し、誠から渡された資料を冷静に眺めた。
そこに記載されている数字は確かに、誠の言うことを裏付けているものであった。アクセス数がどれくらいのものか。動画の再生時間の合計や平均。そして一つの動画でどれくらいの報酬が発生しているか。どのデータも右肩上がりで推移している。間違いなく収益は伸びるとアリスも納得せざるをえなかった。
「誠さん」
「どうした、アリス?」
「562円で注文できるレストランのメニューはなんですか?」
「んん? そうだな……。ソフトドリンク、グラスワイン、フライ盛り合わせとか……」
「ではフライ盛り合わせを所望します、シェフ」
誠はきょとんとした顔をしていたが、すぐにアリスの意を組んでにこやかに微笑んだ。
「少々お待ちを。お客様」
「フォークは二つお願いしますね」
「ちなみに今はハッピーアワーで、グラスワイン無料となっております」
「ではそれも!」
こうして、アリスと誠はささやかに収益化を祝った。
ちなみに現時点での報酬額562円は実のところ「暫定的な金額」でしかない。広告主が最終的に決定する金額とは微妙なズレが起きてフライ盛り合わせの単価以下の515円になってしまい、二人は入金通知を見て苦笑するのであった。
◆
アリスの動画配信ちゃんねるはますますSNSやニュースに周知されて収益化も決まり、勢いに乗って動画をどんどん投稿した。だが、何故かフォロワーの伸びは鈍化していった。
7万人から10万人にいくまで2、3日ほどしかかからなかったが、そこから1日あたり1,000人程度しか増加しなくなってしまった。
「うーん、現時点で悪い状態ではありませんけど、なんででしょうね?」
アリスは、皿に盛られたフライドポテトや海老のフリットを割り箸で食べながらタブレットを眺めていた。誠や翔子、そしてスプリガンとガーゴイルも寛ぎながら各々の端末の画面を眺めている。
皆が見ているのは、アルファビデオのアクセス解析の画面だ。動画ごとのアクセスの内訳や、アクセスの多い時間帯、そしてフォロワー数の変化などが表示されている。
「それは確かに俺も思っていた。まあ原因はなんとなくわかるけど。あ、スパイス塩かけると美味しいよ」
誠が出した小皿には、赤々とした粉末が盛られていた。これは塩と香辛料……カレーに使われるクミンやカイエンペッパーなどなどの粉末を独自の調合で混ぜ合わせたスパイス塩だ。
アリスは、海老のフリットをスパイス塩とマヨネーズをつけて食べると嬉しそうに顔をほころばせた。
「あ、これ止まらないやつですね……。って、いやいや、ダメです。このままだとお酒が入ってぐだぐだになります。こないだもそんな感じだったじゃないですか」
「そうだそうだー。だから僕にちょうだい」
「全部上げるわけないでしょう!」
スプリガンが皿ごと持っていこうとしてアリスに止められている。
ときどきスプリガンやガーゴイルが遊びに来るので、誠はその度にお菓子や料理などをあげつつ雑談に興じたり、動画撮影に誘ったりしていた。中でもスプリガンは地球のゲームや動画、アニメなどに興味を示し、乾いたスポンジのごとく地球の知識を吸い込んでいる。
「ともかく、動画視聴者に不満みたいなものは貯まってるとは思う」
「ああ、それは確かに……」
動画のコメント欄には様々な質問が投稿されていた。
それに対して誠とアリスは新たな動画で質問に対して答えを出しているが、その内容に満足していない視聴者が多いのだ。「アリスの住む世界はどんな世界で、どこにあるのか」が根本的な視聴者の疑問だが、一言で答える術がない。
「どうしましょうね……?」
「まずいのは『一切答えません』というスタンスを継続することかな。これだといつか飽きられちゃうと思う」
「ええっ、ど、どうしましょう……!?」
アリスが血相を変えて叫ぶが、誠がどうどうと宥めた。
「俺たちはなにも、秘密にしたくて秘密にしてるんじゃないってことを知ってもらう必要がある」
「しかし、私たちの能力ではそちらの世界の学者先生を納得させるほどの調査ができるかどうか……」
「確かにそれはある。だから、できる範囲でやっていこう。例えばこれとか」
「あ、なるほど」
アリスは、誠に示された動画のコメントの一つに注目した。
「……『そちらの空気や砂が欲しい』はできそうですね」
「ああ。しかもこれ、大学勤めの学者さんだ。学識の高い人の要望は具体的だし、これを企画として採用するなら他の人も納得する。他にも、俺たちでできそうな調査は色々ある」
「これなんかどうだい? 『霊廟の全体像を撮影して欲しい』とか。ついでに色んな角度から写真を取って、それをもとに3Dモデル作ってみようよ。そうすれば霊廟全体の大きさもざっくり把握できるよ」
翔子が言うと、スプリガンが食いついてきた。
「え、マジで! それ見たいなー! それじゃ僕の鎧とかも3Dで作れるの!?」
「流石に細かすぎる形状のものは写真取ってハイおしまいってわけにはいかないだろうけど、プロに素材渡してお願いすればできるんじゃないかい?」
「いいなーそれ。ボクそれ使ってVtuberやりたい」
「いや、そのまま鎧を着て配信すればいいじゃないですか」
呆れ気味にアリスがツッコミを入れるが、スプリガンはまるで聞いていなかった。
アリスは溜め息を付きつつ、ふと疑問を口にした。
「でも、霊廟の全体像とか、こちらの土とか、そんなに気になるものでしょうか? そちらの世界のドラマとやスポーツ、グルメなどより熱くなってる人が多そうで、ちょっとびっくりしますね」
アリスは首をひねった。
コメント欄の質問の怒濤の勢いに、ちょっと引いている。
「やっぱり、未知の世界があるってのは夢があるからなぁ。それにみんな、遠出とか旅とかを我慢してるからね」
「あ、そうか。疫病が流行ってるわけですしね……。そういうことならば、地球のみなさんのかわりに冒険するのもやぶさかではありません。みなさん、喜んでくれるといいですね」
「ああ。少なくとも俺は見てて痛快だし楽しいよ。視聴者のみんな、そうだと思うよ」
アリスが嬉しそうに呟き、誠も頷いた。
だがそのとき、翔子が悩ましげな言葉を漏らした。
「……しかし、勝手にそういうことやっていいのかい? ここって幽神様のお墓なんだろう? 家の写真を勝手に取ったらトラブルになることもあるし、無許可でやっていいのかね?」
翔子の疑問に、スプリガンとガーゴイルはむしろ不思議そうに言葉を返した。
「ん? 別にいいんじゃないの? てかなにか問題あるの?」
「物騒なことを考えるならともかく、戦争しかけるつもりでもないんじゃろ」
「物騒なことはしないって。ただこっち側の世界にとって、そっちは不思議なものばっかりなわけだよ。視聴者はただ映像を見たいだけじゃない。知的好奇心を満たしたいんだ」
「そっちの世界の方が刺激あって面白そうだけどねー。ゲームやるだけで百年くらい時間潰せそうだし、漫画もたくさんあるし」
スプリガンのお気楽な言葉に、アリスが少しばかり眉を顰めた。
「スプリガン。借りるならばちゃんと本棚に戻しなさい」
「わかったよママ」
「ママじゃありません! ともかく霊廟を調べることは問題なさそうですし、次は霊廟の次のステージに進む前に周辺調査ですね」
アリスが恥ずかしそうに咳払いしつつ話をまとめた。
こうしてアリスは、「魔物を倒す冒険」ではなく、「科学的な調査をするための冒険」をすることになった。
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