バズれアリス ~応援や祈りが力になるので動画配信やってみます!~

富士伸太

文字の大きさ
28 / 34
本編

◆二人で釣りをしてみた

しおりを挟む



 幽神霊廟、地下6層。

 地下にありながらなぜか太陽が燦々ときらめき、草原が広がる大地が広がっている。
 川も存在しており、川魚やサワガニ、水棲の昆虫なども生息している。スプリガン曰く、「魚は多分地球で言うところのヤマメとかマスの仲間っぽいやつ」らしく、人間が食べても特に問題はないらしい。

「よっしゃ! 来ました! フィッシュ!」
「あ、ちょっとアリス! ずるいですわよ!」
「ふふん、セリーヌはもう少し釣り竿の感覚を養わないといけませんね」
「くぅ……相変わらず脳筋なんですから……!」
「脳筋で結構でーす」

 アリスとセリーヌは、やいのやいのと騒ぎながら川釣りを楽しんでいた。
 別にヒマだから遊んでいるわけではない。
 これも立派な調査の一貫であり、同時に投稿動画の撮影でもあった。

 動画のコメント欄に企画を募集したところ「霊廟の中の草原ってどんな生き物がいるの?」という質問が投稿されたのだ。そこでスプリガンが「自分の管理する階層には魔物だけじゃなくて鳥や魚もいる」と話して、とんとん拍子に「それじゃ、釣り企画しよっか」と決まった。釣り竿セットは視聴者が勝手に送りつけてきた。

 またこのとき「フォロワーがアリスよりもセリーヌの方を応援してしまっている問題」が湧き上がっていたが、誠はすぐに解決方法を示した。コラボ動画を撮っていけば自然と解決するよ、と。

「誠が言うには、私とセリーヌが一緒に動画を撮影して視聴者にセットで覚えてもらえれば私にも応援の方にも来るはず……とのことでしたが、上手くいくのでしょうか」
「まあ、動画配信の機微は誠さんの方がよく知っておられる、ということでしょう。なにか不安が?」
「なんと言いますか……普通に二人仲良く遊んでいれば勝手に視聴者が盛り上がるというのがよくわかりません。見てて嬉しいものですかね……?」
「人が素直に喜んで遊んでいるのは良いものでしてよ。他の配信者も似たようなことはしているでしょう?」
「でも都合よく私を応援してくれるようになるのでしょうか?」

 岸から釣り竿を垂らしながら、アリスがなんとも言えない表情を浮かべた。
 それを見たセリーヌが、くすくすと笑う。

「民衆というのは浮気者です。私とあなたが一緒に映像に出て、ここがあなたの方がチャンネルの主であると認めたとき、私が獲得したフォロワーも自然とあなたを応援することでしょう」
「……そういう人の悪い発言、配信中には言わないでくださいね」
「当たり前です。人前での言葉と身内での言葉は昔からちゃんと気をつけています」
「でしょうね。あなたには議論で勝てた試しがありません」

 はぁ、とアリスが溜息をつく。
 それをセリーヌが優しげに見つめる。

「……あなたのよいところは、演技や腹芸ができないところです」
「セリーヌ、それはバカにしているのですか。これでもあなたより配信者としては先輩なんですよ」
「そうではありませんよ、褒めているのです」
「褒めている?」

 アリスが、きょとんとした顔をした。

「魔王と戦うために大軍を率いているときであろうが、カメラが回っているときであろうが、あなたは嘘をつきません。いつだって本音を話してくれる。だからみんながあなたを応援するんです。私のように演技と嘘に彩られた人には得られない本物の絆を、あなたは持っている」

 セリーヌは、優しくたおやかな口調だった。
 だがその言葉の裏にちらちらと垣間見える炎があった。
 それは羨望のようでもあり、焦りのようでもある。

「……セリーヌは、ここでも演技をしているのですか」

 アリスは自分で尋ねておきながら、すぐに答えを見つけた。
 しているに決まっている。
 なぜなら、今、配信者としてのセリーヌは本来の姿ではないからだ。
 今のセリーヌはエヴァーン王国に反旗を翻す、革命家である。

「ええ」
「今すぐにでも、帰りたいのですか」
「できるならば」

 セリーヌの竿が揺れた。
 魚が食いついたわけではない。
 ただ単に、手元がふらついただけのことだった。

「味方の反乱軍には、私が用意した隠れ家に潜んでもらっています。しかし王の軍勢や天の聖女の目をどれだけごまかせるかはわかりません。5年、あるいは10年、持ちこたえるかもしれませんし、あるいはすでに滅んでいる可能性もあります」

 通常、籠城は長くは持たないものだが、セリーヌが地の聖女としての権能を存分に仕えば話は別だ。誰にも気付かれることなくトンネルを堀り山城を築き上げることも、食料を増産することも、セリーヌにとってはお手の物だからだ。

 しかし敵にも聖女がいることを思えば、決して油断はできない。今にも味方が死んでいるかもしれないという焦燥とセリーヌは戦っている。そのことにアリスはようやく思い至った。

「でも、そうした焦りを表に出したら良い動画は撮れません。だから、普段は忘れています。美味しい料理も食べられますし、頂いた報酬を使って素敵なお洋服もアクセサリーも買うことができます」
「クローゼットはもうちょっと整理してください。侍女もいないのですから」
「あら、ごめんあそばせ」

 セリーヌは着道楽で、通販好きであった。

 誠から通販の仕方を教わり、大学や企業、投げ銭で得た報酬を使って様々な服を買っていた。他にも書籍や玩具、ガジェットなども好んで買っている。セリーヌは今、霊廟一階の空き部屋を私室として占領しているが、そこには通販で買った様々なものが足の踏み場もないほどに転がっている。中にはダンボールに入ったままのものもあり、そろそろアリスは注意しようかと思っていた。

 だが、アリスは気付いた。セリーヌは、意図的に道楽に耽っているのだ。そうしなければ心が保てず、良い動画を作れないから。焦れば焦るほど、アリスのフォロワーを増やし目標に届かせることから遠ざかってしまうから。

「無理をさせていたんですね」
「そんなことはありませんよ、楽しんでいます。……ただ、寝る前にほんの少し、仲間のことを思い出して侘びています」
「セリーヌ……」

 アリスは、目の前の少女を悲しいと思った。

 きっと、セリーヌに夢中になっている視聴者は、きっと彼女の懊悩に気付くことはないだろう。自分自身の焦りさえも騙すほどの完璧な演技は、決してアリスにはできないものだった。

「それに……魔王と戦っていた頃は、あなたとなんの気兼ねもなく遊びたいと常々思っていました。宮殿の晩餐会に連れてってあげようと思っていました。歌や踊りに興じたり、あるいは盤上遊戯をしたり……ああ、絵師に肖像画を描いてもらおうとも思っていました」
「ふふふ、似たようなことは全部やりましたね」
「ええ。夢が叶いました。それを与える人が私ではなく異世界の人であったことは少し残念ですけれど」
「……誠のことは、嫌いですか?」
「まさか。嫌いではありませんよ。お人柄は好ましいですし。……ですがあなたに言い寄る人に対しては誰であっても複雑ですね。私だけではありません。あなたの親衛隊のみんな、抜け駆けしてアリスを口説くのを紳士協定で禁止していたはずです」
「えっ!? それ初めて聞くんですけどぉ!?」

 アリスが驚いてセリーヌの顔を見る。
 セリーヌはそれが面白く、くすくすと笑った。

「もしバレたら全員が『一発殴らせろ』くらいのことは言ってくるでしょうから、誠さんには頑張ってもらいましょう」
「やめてください。その前に私が皆を殴り倒しますよ」
「じゃあ私が代表して何か悪戯でもしてさしあげましょう。それでよいですか?」
「まったくもう……そもそもあちらの世界には行けないではないですか」
「ですが、触れることはできると思いますよ。『鏡』はあくまで先へ進もうとする人の力を弾くだけ。私の予想が正しければ境界面においてのみ接触は可能です。そのうち試してごらんなさい」
「ッ!」

 アリスは羞恥で顔を赤らめた。
 もしかして誠とアリスが『鏡』越しに口づけを交わしたことがバレたのか、と危惧したが、セリーヌはそういうわけではないようだ。それ以上のことを話す気配も、からかう気配もない。

 アリスが内心で安堵したとき、セリーヌの釣り竿の先端が上下に揺れた。

「あ、来ました……あれ、重っ……?」
「セリーヌ、竿を離さないで。そのままリールを回して」
「はい……!」

 ばしゃばしゃと水面が揺れる。
 二人の視界にも魚が見えた。
 リールを回し、ぐいぐいと引き寄せる。
 転びそうになるセリーヌをとっさにアリスが支えた。

「ほら、セリーヌは釣り上げることに集中してください」
「はっ、はい! 行きますわ!」

 水面から引き上げられた魚は、太陽の光を照り返し眩しく輝く。
 籠に入れてもなお勢いよく跳ねて動き回り、セリーヌは物珍しそうに見つめている。
 アリスが、それを微笑ましく見つめた。

「セリーヌ。確かに、私は誠から様々なものを与えられました。ですが……一緒に釣りをしたことはありません。それで許してあげてください」
「アリス……」
「釣りは楽しかったですか?」

 アリスの言葉に、セリーヌはじんわりと微笑んだ。
 目に滲んだ涙は、演技でも嘘でもなかった。







 色々と聞かれたくない会話も録音されてしまったので、動画編集は誠の手を借りずにアリスとセリーヌが四苦八苦しながら成し遂げた。できあがった動画は20分ほどの内容で、前半10分は和気あいあいと、時には口喧嘩しながらも釣りを楽しむという流れだ。

 後半10分では、釣った魚を焚き火で焼いて食べ、故郷の民謡を歌うという内容だ。背格好も肌の色も違うはずなのに、視聴者にとって二人は仲睦まじい姉妹のようにしか見えなかった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら俺は、魔王を倒した英雄の両親より強いらしい。~オリハルコンを斬ってくっつけたら試験無しで王立学園に入学、いろいろやらかすハメに

試運転中
ファンタジー
山を割るほどに剣を極めたおとん「ケン」と、ケガなど何でも治してしまうおかん「セイ」。 そんな二人に山で育てられた息子「ケイ」は、15歳の大人の仲間入りを機に、王都の学園へと入学する。 両親の素性すらも知らず、その血を受け継いだ自分が、どれほど常軌を逸しているかもわからず。 気心の知れた仲間と、困ったり楽しんだりする学園生活のはずが…… 主人公最強だけど、何かがおかしい!? ちょっぴり異色な異世界学園ファンタジー。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

婚約破棄された「無能」聖女、拾った子犬が伝説の神獣だったので、辺境で極上もふもふライフを満喫します。~捨てた国が滅びそう?知りません~

ソラ
ファンタジー
「エリアナ、貴様との婚約を破棄し、この国から追放する!」 聖女としての魔力を使い果たし、無能と蔑まれた公爵令嬢エリアナ。 妹に婚約者を奪われ、身一つで北の最果て、凍てつく「死の森」へと捨てられる。 寒さに震え死を覚悟した彼女が出会ったのは、雪に埋もれていた一匹の小さなしっぽ。 「……ひとりぼっちなの? 大丈夫、私が温めてあげるわ」 最後の手向けに、残されたわずかな浄化の力を注いだエリアナ。 だが、その子犬の正体は――数千年の眠りから目覚めた、世界を滅ぼす伝説の神獣『フェンリル』だった! ヒロインの淹れるお茶に癒やされ、ヒロインのブラッシングにうっとり。 最強の神獣は、彼女を守るためだけに辺境を「極上の聖域」へと作り替えていく。 一方、本物の聖女(結界維持役)を失った王国では、災厄が次々と降り注ぎ、崩壊の危機を迎えていた。 今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくる王子たち。 けれど、エリアナの膝の上には、甘えん坊の神獣様(執着心MAX)が陣取っていて――。 「聖女の仕事? いえ、今は神獣様とのお昼寝の方が忙しいので」 無自覚チートな聖女と、彼女にだけはデレデレな神獣様による、逆転溺愛スローライフが幕を開ける!

スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ
ファンタジー
「役立たず」の烙印を押され、パーティを追放されたアルフォンス。彼のスキルは戦闘に不向きな【土いじり】。失意の彼は都会を離れ、辺境の地で静かに農業を営むことを決意する。 しかし、彼が畑を耕すと、そこから不思議なダンジョンが生えてきた! ダンジョン内では、高級ポーションになる薬草や伝説の金属『オリハルコン』が野菜のように収穫できる。地味だと思われた【土いじり】は、実はこの『農園ダンジョン』を育てる唯一無二のチートスキルだったのだ。 噂を聞きつけ集まる仲間たち。エルフの美少女、ドワーフの天才鍛冶師……。気づけば彼の農園は豊かな村へ、そして難攻不落の要塞国家へと発展していく。 一方、彼を追放したパーティは没落の一途を辿り……。 これは、追放された男が最強の生産職として仲間と共に理想郷を築き上げる、農業スローライフ&建国ファンタジー!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

追放された”お荷物”の俺がいないと、聖女も賢者も剣聖も役立たずらしい

夏見ナイ
ファンタジー
「お荷物」――それが、Sランク勇者パーティーで雑用係をするリアムへの評価だった。戦闘能力ゼロの彼は、ある日ついに追放を宣告される。 しかし、パーティーの誰も知らなかった。彼らの持つ強力なスキルには、使用者を蝕む”代償”が存在したことを。そして、リアムの持つ唯一のスキル【代償転嫁】が、その全てを人知れず引き受けていたことを。 リアムを失い、スキルの副作用に蝕まれ崩壊していく元仲間たち。 一方、辺境で「呪われた聖女」を救ったリアムは自らの力の真価を知る。魔剣に苦しむエルフ、竜の血に怯える少女――彼は行く先々で訳ありの美少女たちを救い、彼女たちと安住の地を築いていく。 これは、心優しき”お荷物”が最強の仲間と居場所を見つけ、やがて伝説となる物語。

処理中です...