【本編完結】契約結婚の後は冒険譚を綴ります

しろやなぎ

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 コルネリウスはノーラを見ると、いつも何とも言えない顔になる。

 ここひと月、生真面目に働く姿を毎朝見ていたが、そうではない本来の彼女を知っているし、その方が好ましく思えた。つい笑い出しそうになり、我慢し過ぎて険しい顔を向けてしまうこともあって、申し訳なく思う日もある。

「彼の侍女だな。ミラー男爵家のノーラ嬢。風魔法を憎らしいほど使いこなす冒険者姉弟の姉、だな」

「え?彼女、そんな設定でやってたの?」

 クリストフは目を見開いて、コルネリウスの言葉に驚く。

「お前の仕業じゃないのか?ラファエルの髪と瞳の色、絶対にお前だろ?あと、どうやって、ラファエルの呪いが発動もせずに、自由にこの邸宅の外に出せたんだ?」

「冒険者姉弟の設定は僕じゃないよ」

 冒険者かぁと言ってクリストフはふふっと笑う。コルネリウスは腕を組んで呆れたように溜息をついた。

「そうだね、本当にノーラは良い魔法使いだよ。あ、まず髪と瞳の色だけど、色彩変更の魔法を付与した魔石を持たせた。ノーラのを参考にしたんだ。小さい魔石だから、髪と瞳にしか効果が無いんだけど。もっと魔石が大きければ肌の色や声も変えられたんだけどね。呪いの方も僕の魔力を込めた魔石を持たせた。契約結婚の書類は僕が作成したからね。僕の魔力と光魔法の付与で呪いに関しては相殺できる」

 クリストフは自分の好きな分野に関することには饒舌になり、つらつらと言葉を連ねて説明していく。

「やりたい放題だな。だが、どうやって彼にそんな魔道具を渡せた?ラファエルには誰からも手紙や荷物が送られてきたことは無かった。クリストフもここへ来たのは初めてだろう?」

「初めてだよ。んー、渡し方は秘密ということで。それで、コルネリウス、聞かなきゃいけない事はこれで全部かい?」

「いや、もう一つ。彼は魔法が使えないんだろ?だが、非常識なほどの攻撃魔法も防御魔法も使っていた。それに聖獣と誓いも立てている。知っていたか?」

「さすがラフィだ」

 クリストフは眉と目元を下げてラファエルを見る。

「僕が家庭教師をしていた頃から、彼はとても綺麗な魔力を持っていたよ。僕に似た魔力を感じていたけどそれ以上だったね。でも彼は属性を得られなかった。そしてそれは残念なことじゃなかった。綺麗で純粋な魔力を持った者しか扱えない魔法の分野があったんだよ」

 分かるかい?っといったクリストフは、いつも穏やかで優雅だと評される彼には珍しく、挑発的な顔をしている。

「もしかして、精霊魔法か?」

 クリストフはこくりと大きく頷いた。

「彼の実母のカルミア様は、この国の真裏にある大陸のサン・サーンス王国のご出身だ。僕も書物でしか知らないが、彼の国は豊かな自然と、その自然を守りながら過ごす人々、そして古の魔法使いが静かに暮らす国だそうだ…」

 周辺の国々はサン・サーンスには手が出せない。何故ならその国には大陸一高い山があり、そこに聖獣白龍が住んでいるからだ。

 もしサン・サーンスを脅かせば、白龍はその国に罰を与える。雨が降らずに日照りが続き、全ての生き物が死に絶える。白龍が好むのは唯一サン・サーンス。サン・サーンスの豊かな自然には、夥しいほどの精霊が宿り、それらは白龍の糧となる。

 古の魔法とは精霊魔法。精霊魔法を使う魔法使いは綺麗で純粋な魔力を持ち、聖獣に感謝の祈りを捧げ、それがまた聖獣白龍の好む糧となる。

 …そう書かれていた、とクリストフは文献の内容をかいつまんで語って聞かせた。

「彼と誓いを立てたのは聖獣白龍じゃないのかい?」

「その通りだ…聖獣黄亀との会話でその名前が出てきた。だが、サン・サーンス王国と聖獣の関係は聞いたことが無かった」

「王宮の禁書庫で見つけた古い外国の本だったし、古の言葉で書かれていたからね」

「禁書って…お前…」

「大丈夫。ちゃんと陛下から許可を得てる」

 魔石塔を作るための資料を探す目的で許可を貰い、王宮図書館の禁書庫を閲覧中に見つけた文献だった。

「だが古代語だろう?お前しか読めないだろうな」

「ラファエルも勉強中だよ。それで、君が話さないといけないという事はなに?あ、まずそれ、どういうこと?」

 にこやかだったクリストフの顔がすっと無表情になる。そしてコルネリウスのクラバットに付けられたブローチを視線で示した。

「ああ、これかぁ。…これは衣装と一緒にエマが用意していていたんだ」

 自分で誂えたわけでも、ラファエルから贈られたものでもないのだが、用意されたイエローダイアモンドの透明度が非常に高く綺麗で気に入ったのだと、言い訳がましく説明した。

「今までの君だったら、衣装に使わないような色が多くて驚いたけれど…今日は仕方ないか。ラフィが君に護られていることをアピールするのも悪くない」

 そう言ってクリストフは軽く眉をひきあげた。

 そしてこれから友の言うことが何なのか分かっているとでも言うように、冷ややかな視線をコルネリウスに向けた。

「それで?」

「ああ。…俺は後悔している。自分の目で見ず、確かめることもせず、噂と進言だけを真実と信じ、彼を、ラファエルを誤解して冷遇していた。お前から彼の様子を聞かれても、含んだような返事をして誠意が無かった。勝手な王家の都合で彼を振り回してしまった事も、本当に申し訳なかったと思う。必ずラファエルには謝罪をするし、これからは誠意をもって対応する」

 組んでいた腕を解き、騎士のする礼をして頭を下げる王弟の姿に、クリストフの冷ややかな視線も穏やかに戻っていく。

「そうだね。情に厚く正義感があって行動力もあることは、君の欠点であり美点でもある。実際に、君のおかげでラファエルは隠されていたから守られていた。ここで自由に穏やかに過ごせたわけだし、精霊魔法使いとしての修練も行えた。魔法陣魔法も使えるようになれたしね。彼の師として君の行いを許すよ」

「ありがとう。…魔法陣魔法!そうだ彼は魔法陣魔法の腕もなかなかだぞ!」



 それからふたりは、ラファエルの事をまるで自分の事を自慢するように話していた。つい自分たちだけの会話に夢中になってラファエルの事を視界から外してしまう。

 丁度その時、ノーラも他の参加貴族から声を掛けられた。

 3人の視線がラファエルから外れた、そのほんの一瞬の出来事だった。

 近くの欅の枝から小さな影がばっと飛び立つ。

 ココの羽音に反応したノーラが瞬時に振り返り、苦渋の表情で唇をかみしめる。

 同じく、クリストフとコルネリウスも羽音とともに視線を動かした。そしてノーラと全く同じ表情をして唸る。

 3人が視線を外したことを後悔したその場から、ラファエルの姿が消えていた。









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