ドラゴン騎士団 外伝

カビ

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生きるための偽り

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「なぁ、イーサン。」
「どうした?」
「俺のことどう思う?」
「いやそれだけじゃ分からん。どうってなんだ。」
「ほら、声とか見た目とか。」
「んーー、別に?いつもと変わらんが。いや、チビだな。パッと見じゃ未だ子供にしか見えん。あ、元からか。」
「うっ。」
心にグサッと刺さった。身長が低いのはかなり気にしていた。イーサンの身長が190cm超えているのに対して、俺は150cmくらいなのだ。多分、女性の平均よりも低かったと思う。これでももう成長期は終わってしまっている。
「ほ、他には無いか?」
「ほか~?」
「女に……見えるか?見えられると、困るんだ。」
「はは~ん?今更気にしてんのか?誰もお前に手出さねぇよ。そもそも出せねぇし。ってか、男にしか見えんから欲情しねぇ。いや、普通に同性に欲情するやつ何人か黒龍部隊にいたわ。」
「そういうことじゃない。聞いてくれイーサン、真面目な話なんだ。俺はライダーで唯一女なんだ。バレたら速攻特定されて殺される。」
「言ったぞ~俺。男にしか見えんから欲情しねぇって。お前が思ってる以上に溶け込んでる。んな心配すんな。」
そうなのか?そうだといいが。
「あ、さすがに脱ぐと女にしか見えん。」
「いや、風呂以外で脱ぐことなんてほとんどないし。」
「分かんねぇぞ?お前王子のお付の騎士になったんだろ?ならレイビン王国の風呂にも入ってんじゃねぇか?」
「いつも1人用だ。王女が勝手に入ってくるが。」
「ふーん。あ、シャトラで新メニューができたらしいぜ。今から行かないか?」
「今?」
「なんだ?予定でもあんのか?」
「いや、ないが。」
「じゃあ決まりだな。」
そう言うとイーサンは俺の腕を掴んで連れ出す。いつもこうだ。だが、嫌だって思ったことは無い。イーサンは相談相手になってはくれるが、楽観的だから正直、あまり頼りにはならない。
「おいおいまじか、新メニュー売り切れかよ。」
「珍しいな。この店で売り切れが起きるとは。」
「ふーむ。これは相当人気と見た。こりゃ燃えるぞ~。」
「で、どうするんだ?帰るか?」
「いや、普通に食う。」
「少しは節約というものを覚えたらどうだ?」
「普通に働いてりゃ金は入る。」
「大多数の人の逆鱗に触れそうなセリフだな。やれやれ。」
席に案内され、メニューを選ぶ。すると、新たに5人くらいの女性貴族の方々が入ってきた。
「どうした?ぼーっと見つめて。」
「いや……なんでもない。」
   食事を済ませて部屋に戻ってくると、イーサンは寝転がった。
「ふー、食った食った。次は開店から行くぞ。」
「悪い、朝は任務だ。」
「え、は?俺知らんぞ?明日の任務は昼じゃないか?」
「明日朝の任務にイーサンはメンバーに入れてない。」
「なんで?」
「新人育成のためだ。久方ぶりに新しい黒龍ライダーが入団したんだ。」
「空きはまだ1つあるだろ?」
「イーサンばかりずるいだってよ。だから昼は別の隊員と行ってくれ。」
「はぁ?誰とだ?」
「確かジャブーラとメインコールだな。」
「よりにもよってあいつらかよ!最悪だ……地獄だ。」
「そうかあの2人って…」
「カップルだよ。勘弁してくれ……あいつらの惚気なんか見たくねぇよ。」
「そ、そうか。まぁ、頑張れ。」
「お前が入れたんじゃないのか?」
「たまに総帥が決めるからなぁ。一応総帥も黒龍部隊の1人だし。」
「あいついつも働かねぇクセに指示だけはいっちょ前だよなぁ!」
「そんなにあの二人が嫌なのか?あまり人前で惚気るような二人では無かったはずだが。」
「大多数ならな。1人なら平気でイチャつくぞあいつら。」
「ふーん。」
   任務には2種類ある。各地域の見回りや物資補給隊の保護、環境調査等の非戦闘任務。もう1つは、厭世部隊や暴走状態に陥った危険な竜種の対処による緊急任務。緊急任務は精鋭部隊の中でも特に熟練な者が呼ばれることが多く、食事中や休憩中でも呼ばれることがある。
明日朝の任務はダヴィナ平原を通る国道付近に陸竜リントヴルムのハングレイク(雄)とグレア(雌)の群れが増えているため、その調査だ。彼らは自ら争うような種では無いが、別の群れと鉢合わせてしまうと、長の雄同士で争いが始まってしまう。そんな状態で人が通ると巻き込まれかねない。
   そして次の日、何の問題もなく任務は完了した。原因はラシエアカンという猛毒の棘を尻尾に持つ陸竜が本来の生息域を離れて、ダヴィナ平原に住み着いていた。この種はかなり危険度が高く、その青と黄色の派手な体色を見ただけで逃げ出す生き物も数多くいる。
任務は、そのラシエアカンを元の生息域に誘導することで対処した。
   帰ってきた後、鏡を見た。そして、古い写真と見比べる。やはり、昔はよく溶け込めていたのに今じゃ明らかに浮いている。身長の面で見ても。
   イーサンが任務に赴いている間、昼間の強制特訓をサボって城下町を散歩し、歩いている女性を観察した。
……私、あたし、あたい、うち……ふーむ。騎士団として生きる間は男として、一般人や一般兵として生きる間は女として生きてみる?これなら、厭世部隊にバレることは無いだろうか?あとは女物の服でも着てみるか?……めんどうだな。
部屋に帰った後、発声練習を始めた。
「たら~。」
「あ、おかえり……イーサン。」
「……おめー、なんだその声と、その、言い方?」
「え、あぁ……はは、なんでもない。」
なんだかすごく、惨めな思いをした気がする。でも、もっとらしくしなければ生けていけない。あと何年かすれば長期休暇証も渡される。それまでには何とかしたい。
   それからずっと、街中を歩く貴族や一般国民、店員、カップルなど観察を続け、女性になりきる練習を続けた。グレイヴにも練習相手になってもらったが、ドン引かれた。
「女性ってムズいな……。」
「そもそも筋肉量から全然似てないしな、お前。髪とか伸ばしてみたらどうだ?」
「いや、髪は無理。鎧を着ける時邪魔になる。それに、髪が短い女性も一般国民にいたから、あんまり関係ないと思う。」
「化粧は?口紅とか。」
「口紅?なるほど、貴族の女性達の唇があんなに血色がいいのは、色をつけていたからなのか。」
さっそく試しに化粧品を購入し、記憶を頼りに化粧をしてみた。
「ど、どう?」
「……ぷっ、ははははは!!!おま、それは!!はは!ねぇだろ!」
「な、なんだよ。そんなに変か?」
「化粧濃すぎて……ギャグか?銀龍部隊にやってもらえよ。ひー!だめだ、腹よじれる!」
「あいつらに任せたら顔に花ができる。」
銀龍部隊はいい意味でも悪い意味でも個性が強すぎる。あと、悪いことを実際にしていない分、むしろ1番倫理観にかけてる。この前なんか、仲間の死に様を作品にして自分の部屋に飾ったとか聞いた。
「ありのまま生きろよ。お前はその方がいい。」
「できるなら、俺だってそうしたい。長期休暇になった時に、あまりにも限定的すぎてすぐバレるんだ。」
「そうか?探しゃ男みたいな女なんていくらでもいそうだが。」
「いるだろうな。そういう人だけなら。でも、黒い髪に蒼い目をしてる人、私以外に見たことあるか?」
「……そういえば無いな。あれってなんでなんだ?別に地域差という訳でもないだろ?」
「先祖返りだか知らないが、稀にそういう特徴を持つ子が生まれるんだ。そしてそれは、遺伝する。あまりにも違いすぎるから、お互いの不倫を疑われることが多いんだ。」
「ふーん。ま、頑張れよ。」

   練習を初めて2年が経った。だいぶらしくなり、オンオフを切り替えられるようになってきた。
「なぁ、なんで俺だけそんな女らしく振る舞うんだ?」
「イーサンだけじゃないわ。練習相手になってくれた人たちだけ。」
「俺は前の方がよかったな。目つぶってたらほんと、誰お前状態になるんだが。」
「別にいいじゃない。せっかく習得したし、それに気が抜くと切り替えできなくなっちゃうし。」
「ったく。そういえば俺、来年は長期休暇だから。」
「分かったわ。あ、私が長期休暇中の時は部隊長の代理をお願いしてもいい?」
「あぁ。って待て、部隊長が休みん時、ドラゴンレースと司令官決戦はどうするんだ?」
「部隊長が休みの時は無いわ。ルイスの時そうだったでしょ?」
「そういえばそうだったな。そういえばなんであいつ部隊長やってんだ?そんなうつわないだろ。」
「ドラゴン騎士団は実力が全てよ。」
「は~あ、まともなやつがやってくれんかね。」
「それは本当にそう。特に総帥。あんなのただ単に恐怖で支配してるだけよ。」
「俺もあいつにはムカついてる。なぁ、もう1回総帥決戦してくれないか?今度は勝てる気がする。」
「絶対に嫌!もう二度とあんな思いしたくない!あんた全身の骨が粉々にされる痛み想像したことある!?完治するまで丸3年かかったのよ!?」
「じょ、冗談だって。」
「グレイヴの片翼だって、ガドルにつけられてから二度と治らないし。次総帥決戦なんかしたら、今度は確実に殺される。」
「早くどっかでぽっくり逝っちまえばいいのに。」
「イーサン、そんなに他者の死を願うものじゃないわ。総帥は恐ろしいけど、悪いことはしてないんだから。」
「ちぇ。」

   それからさらに月日が経ち、イーサンがレイラと共に実家に帰ってしまった。2人が見えなくなるまで見送り、自室に戻った。なんともまぁ退屈な日々だった。
   長期休暇は毎年1部隊につき1人長期休暇証を渡される。渡される人は成績が関与しているらしいが、真偽は分からない。長期休暇証を渡されたら3日以内に騎士団を去らなければならない。
「そういえばイーサンはどこ出身なのかな。髪と目の色的に、ここから近そうだけど。」
イーサンは金髪金色の目をしていた。
そしてさらに時が経ち、そろそろイーサンが帰ってくるという時に長期休暇証が渡され、実家に帰るべく、空を飛び立った。故郷に近づくにつれ、お父さんを思い出して胸が苦しくなる。
「はぁ、私の家が村外れにあって良かったわ。グレイヴは隠れてて。見つかりそうになったら透明にでもなってて。」
やれやれめんどうな。
仕方ないでしょ。
私はグレイヴと別れ、少し古びた我が家へと入り、少し綺麗にしてお茶を入れてのんびりした。この家は、私一人だけだと広すぎるな。
「……ん?」
なんだ?誰かが助けを求めてる。こんな夜遅くに?というか、なんで急に心を感じたの?精神が壊れるから、何も感じないようにしてたのに。厭世部隊だとまずいな。
私は外に出て、村内部の方へと向かった。
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