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第十二話 最初の不具合
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濃い2日間の研修も終わり――、
俺は新社会人生活初の8月を迎えていた。以前のように正門を通り、自社で使っているフロアでタイムカードを切り、株式会社Dの現場に辿り着いた。すると、小林さんが酷い剣幕で迫ってきた。
「おい。お前……この前の仕事、あれはどういう事だ?」
「?(この前の仕事)」
俺は研修の内容が内容だったために、その前日におこなった業務について、殆どの記憶が無かった。どうなんだ? と問う小林さんに、分かりませんとしか言えなかった。するとガン! と小林さんは近くの机を蹴り上げ、言う、
「分かりませんじゃねぇんだよ!!」
「! ……」
こんなに人に怒られたのは、高校野球をやっていた時、先輩にしごかれた時以来だろうか。この日から、小林さんの態度が急変する。どうやら7月末におこなった業務で使用したECUに不具合があったらしく、その不具合の原因が分からないとの事だった。
「エビデンス残してないのか!?」
エビデンス……ああ、証拠とかのコトね。研修が翌日からある為、早めに帰宅させてもらいました。その為、業務の引継ぎのエビデンスを残せずにいました、すいませんと、答えると小林さんは更に声を張って言う。
「研修なんてどうでもいいんだよ!! 客先業務でこんなミスしてたら意味が無いだろうが!! もういいです。今まで甘くしてましたが、これからは厳しくします」
!? え……? 何が何だか分からない。あの日、加苅さんに言われて早く業務を切り上げて帰った、それしか記憶にない。……! そうだ、やけに取り辛い素子を半田ごてで取り外した時、手こずった。基盤を熱し過ぎたかも知れない。記憶を整理していたが、畳み掛ける様に小林さんは言葉をぶつけてくる。
「もうあなたの様な部下には仕事あげません」
はいと、だけ答えた。
何をしようか? そうだ、自社業務でやっておく課題みたいなモノがあったな。何もしていないよりはいいだろう。俺は怒られた後、自分用のノートパソコンで、自社業務を始めた。暫くするとパソコンがある机の方に、小林さんがやって来た。
「客先業務ができないから自社業務を始めると? どういうつもりだ? おいコラ!」
今度は近くにあった移動式のロッカーを、小林さんはガンと一蹴りした。ミスリード! どうすれば良かったんだろう? 反省文でも書けばよかったのだろうか? もしかして堪えてないのが腹立たしかったとか?
「それと、その自社業務をおこなっている時間、誰が給料出すんですか?」
「!」
盲点だった。客先業務は客先から利益をもらえるから、会社のもうけになる。しかし、自社業務は自社から給料を出すので、会社のもうけにならない。むしろマイナスになる。俺は無意識的に自社が不利になるコトをおこなっていたのだ。咄嗟に謝った。
「すいません、この時間給料無しでいいです」
すると、小林さんは更に声を荒げた。
「そういうコト言ってるんじゃないんだよ!!」
流石に委縮した。と同時にどういうコト言ってんだと、疑問にも思った。
――。
小一時間、何もできなかった。放心状態になっていると、小林さんがやって来て、言った。
「ECUの素子、壊れてました。不具合ですね」
ニヤリと、小林さんが笑うのが目についた。
「不具合シート、書きましょうか?」
何??? 不具合シート? 小林さんから説明があった。不具合を起こすと、それを繰り返さないため、他の社員も同じ不具合を起こさないため、シートを作成し共有する、といったものだった。それ自体は不具合を無くす事ができそうな良いモノなんだけど……。
「まず、いつ不具合を起こしましたか?」
小林さんのニヤニヤが止まらない。このドSが。
「この前の研修でパワーアップするのかと思いましたが、パワーダウンしてますね」
この業務は研修前だからカンケーねぇだろうが。小林さんの言葉が、この日からやけに鼻につく様になった。
俺は新社会人生活初の8月を迎えていた。以前のように正門を通り、自社で使っているフロアでタイムカードを切り、株式会社Dの現場に辿り着いた。すると、小林さんが酷い剣幕で迫ってきた。
「おい。お前……この前の仕事、あれはどういう事だ?」
「?(この前の仕事)」
俺は研修の内容が内容だったために、その前日におこなった業務について、殆どの記憶が無かった。どうなんだ? と問う小林さんに、分かりませんとしか言えなかった。するとガン! と小林さんは近くの机を蹴り上げ、言う、
「分かりませんじゃねぇんだよ!!」
「! ……」
こんなに人に怒られたのは、高校野球をやっていた時、先輩にしごかれた時以来だろうか。この日から、小林さんの態度が急変する。どうやら7月末におこなった業務で使用したECUに不具合があったらしく、その不具合の原因が分からないとの事だった。
「エビデンス残してないのか!?」
エビデンス……ああ、証拠とかのコトね。研修が翌日からある為、早めに帰宅させてもらいました。その為、業務の引継ぎのエビデンスを残せずにいました、すいませんと、答えると小林さんは更に声を張って言う。
「研修なんてどうでもいいんだよ!! 客先業務でこんなミスしてたら意味が無いだろうが!! もういいです。今まで甘くしてましたが、これからは厳しくします」
!? え……? 何が何だか分からない。あの日、加苅さんに言われて早く業務を切り上げて帰った、それしか記憶にない。……! そうだ、やけに取り辛い素子を半田ごてで取り外した時、手こずった。基盤を熱し過ぎたかも知れない。記憶を整理していたが、畳み掛ける様に小林さんは言葉をぶつけてくる。
「もうあなたの様な部下には仕事あげません」
はいと、だけ答えた。
何をしようか? そうだ、自社業務でやっておく課題みたいなモノがあったな。何もしていないよりはいいだろう。俺は怒られた後、自分用のノートパソコンで、自社業務を始めた。暫くするとパソコンがある机の方に、小林さんがやって来た。
「客先業務ができないから自社業務を始めると? どういうつもりだ? おいコラ!」
今度は近くにあった移動式のロッカーを、小林さんはガンと一蹴りした。ミスリード! どうすれば良かったんだろう? 反省文でも書けばよかったのだろうか? もしかして堪えてないのが腹立たしかったとか?
「それと、その自社業務をおこなっている時間、誰が給料出すんですか?」
「!」
盲点だった。客先業務は客先から利益をもらえるから、会社のもうけになる。しかし、自社業務は自社から給料を出すので、会社のもうけにならない。むしろマイナスになる。俺は無意識的に自社が不利になるコトをおこなっていたのだ。咄嗟に謝った。
「すいません、この時間給料無しでいいです」
すると、小林さんは更に声を荒げた。
「そういうコト言ってるんじゃないんだよ!!」
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――。
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