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ひとつになる日々
ツンデレ嬢のツンとデレがひとつになった日 ✴︎イラスト有
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「バーミリオン王家の飛び地なら、遊びに行けない距離ではありませんわね……遠いですけど」
「遠いかしら」
「遠いですわよ!」
季節は瞬く間に流れて、私もマドリーン様も卒業まであと少しとなっていた。
「いずれにしても、なかなか会えなくなりますわね……」
マドリーン様が、はぁ、とため息をつく。
「──たくさん、お手紙を書きますわ」
「それは当然でなくて?」
しょんぼりするマドリーン様を慰めるように言えば、ツンと返されてしまった。思わず笑いが漏れる。かわいい。
バーニーとの婚約解消が無ければ、マドリーン様のかわいさに気がついていなかったんだなと思うと、何だか感慨深い。
たくさん傷付いて、世の中で一番不幸なのは自分なんじゃないかと思うくらい落ち込んだけど、振り返ればまた全部、全部必要なことだったんじゃないかと思う。
もちろんあの出来事があって「良かった」と言えるのは幸運に恵まれたからだ。あのまま部屋から出ることもできなかったら、私は今でもバーニーと結婚していた未来を思い描いては、そうならなかった現実を嘆いていたんじゃないかと思う。
自分を愛してくれる人はバーニー以外にたくさんいたのに、それに気付かなければ誰にも愛されていないと同じだから。
「寂しいわ」
マドリーン様がとても素直に言う。
「寂しいですわね」
私も、素直にそう答える。
「ちょっとニーナ様! あなたまでそんなこと言い出したら……!」
マドリーン様の目には薄らと涙が浮かんでいる。私は思わず彼女を抱きしめた。
「だって、寂しいですわ」
「もう……!」
スン、と涙をすする小さな音が聞こえて、それがとてもかわいくて、優しくて、ますますぎゅっと腕に力を込める。
「ニーナ様って、案外、意地悪なところありますわよね」
呆れたような、諦めたような、拗ねたような、複雑な音色を含んだ声で言い、マドリーン様がツンとそっぽを向く。その豊かさがとても愛しい。
「王弟殿下の影響ですの?」
「そうかもしれません」
確かに、イーサン殿下もよくない顔をして、照れた私を追い詰める時があるのだ。
「悪い影響ですわ」
「ふふ、そうですか?」
「──でも、ニーナ様を幸せにしてくれますわ。あの方ならきっと」
マドリーン様は逸らしていた顔をこちらに向けて、潤んだ目で小さく微笑んだ。
「おめでとうございます」
卒業と同時に、私はイーサン殿下の賜った領地へと向かう。お披露目のパーティーは半年後だけど、殿下と、ようやく一緒に過ごせるようになるのだ。
「マドリーンさま」
うっかり涙目になった私を見て、してやったりと笑う。マドリーン様だって、少し意地悪だ。
◆
臣籍に降ったイーサン殿下が治めるバーミリオンの領地は、ウィスタリアに比べると豊かだとは言い難い。一度は精霊の加護を失った地を、王家がひっそりと直領として復興させてきた場所だ。
『君に、あまり苦労はさせたく無いんだけど』
そう言って、眉を下げた。殿下は心苦しそうだったけれど、王族として果たすべき責務がある。始めからそれは決まっていたことで、そして支えていくと決めたのは、私自身だ。
『お役に立てるように、頑張りますね』
そう言うと、殿下は目を細めて微笑んだ。
『知識の精霊が味方だと思うと心強いな』
ウィスタリアの精霊は知識と魔法だ。
幼い頃から、なにか気になることがあると調べずにはいられなかった。周囲はそんな私を「真面目」だと言っていたけど、実のところ、デューク兄さまと変わらないのではと思うことがある。自ら好んでやってきたことだ。
だけど、そうやって溜めてきた知識でイーサン殿下の役に立てるのなら、素直にその加護がありがたいなと思う。
「お嬢様、もうすぐ着きます」
侍女に声を掛けられてハッと意識を浮上させる。ガタガタと鳴る馬車の音が耳に飛び込んできた。バーミリオンの領地に移動する馬車の中。車窓からの景色を見て物思いに耽ってしまっていた。
レンガに舗装された道へと入り、石造りの、堅牢だが簡素な城へと馬車は招き入れられ停止する。
「ニーナ」
名を呼ばれて、顔を上げる。
扉を開ければそこに、少し陽に焼けて精悍さを増した殿下がいた。
✴︎読んでくださりありがとうございます!
感謝を込めて、リクエスト頂いていたマドリーンちゃんのイラストです。
セラドーンは青磁色。
次回もよろしくお願いします!
「遠いかしら」
「遠いですわよ!」
季節は瞬く間に流れて、私もマドリーン様も卒業まであと少しとなっていた。
「いずれにしても、なかなか会えなくなりますわね……」
マドリーン様が、はぁ、とため息をつく。
「──たくさん、お手紙を書きますわ」
「それは当然でなくて?」
しょんぼりするマドリーン様を慰めるように言えば、ツンと返されてしまった。思わず笑いが漏れる。かわいい。
バーニーとの婚約解消が無ければ、マドリーン様のかわいさに気がついていなかったんだなと思うと、何だか感慨深い。
たくさん傷付いて、世の中で一番不幸なのは自分なんじゃないかと思うくらい落ち込んだけど、振り返ればまた全部、全部必要なことだったんじゃないかと思う。
もちろんあの出来事があって「良かった」と言えるのは幸運に恵まれたからだ。あのまま部屋から出ることもできなかったら、私は今でもバーニーと結婚していた未来を思い描いては、そうならなかった現実を嘆いていたんじゃないかと思う。
自分を愛してくれる人はバーニー以外にたくさんいたのに、それに気付かなければ誰にも愛されていないと同じだから。
「寂しいわ」
マドリーン様がとても素直に言う。
「寂しいですわね」
私も、素直にそう答える。
「ちょっとニーナ様! あなたまでそんなこと言い出したら……!」
マドリーン様の目には薄らと涙が浮かんでいる。私は思わず彼女を抱きしめた。
「だって、寂しいですわ」
「もう……!」
スン、と涙をすする小さな音が聞こえて、それがとてもかわいくて、優しくて、ますますぎゅっと腕に力を込める。
「ニーナ様って、案外、意地悪なところありますわよね」
呆れたような、諦めたような、拗ねたような、複雑な音色を含んだ声で言い、マドリーン様がツンとそっぽを向く。その豊かさがとても愛しい。
「王弟殿下の影響ですの?」
「そうかもしれません」
確かに、イーサン殿下もよくない顔をして、照れた私を追い詰める時があるのだ。
「悪い影響ですわ」
「ふふ、そうですか?」
「──でも、ニーナ様を幸せにしてくれますわ。あの方ならきっと」
マドリーン様は逸らしていた顔をこちらに向けて、潤んだ目で小さく微笑んだ。
「おめでとうございます」
卒業と同時に、私はイーサン殿下の賜った領地へと向かう。お披露目のパーティーは半年後だけど、殿下と、ようやく一緒に過ごせるようになるのだ。
「マドリーンさま」
うっかり涙目になった私を見て、してやったりと笑う。マドリーン様だって、少し意地悪だ。
◆
臣籍に降ったイーサン殿下が治めるバーミリオンの領地は、ウィスタリアに比べると豊かだとは言い難い。一度は精霊の加護を失った地を、王家がひっそりと直領として復興させてきた場所だ。
『君に、あまり苦労はさせたく無いんだけど』
そう言って、眉を下げた。殿下は心苦しそうだったけれど、王族として果たすべき責務がある。始めからそれは決まっていたことで、そして支えていくと決めたのは、私自身だ。
『お役に立てるように、頑張りますね』
そう言うと、殿下は目を細めて微笑んだ。
『知識の精霊が味方だと思うと心強いな』
ウィスタリアの精霊は知識と魔法だ。
幼い頃から、なにか気になることがあると調べずにはいられなかった。周囲はそんな私を「真面目」だと言っていたけど、実のところ、デューク兄さまと変わらないのではと思うことがある。自ら好んでやってきたことだ。
だけど、そうやって溜めてきた知識でイーサン殿下の役に立てるのなら、素直にその加護がありがたいなと思う。
「お嬢様、もうすぐ着きます」
侍女に声を掛けられてハッと意識を浮上させる。ガタガタと鳴る馬車の音が耳に飛び込んできた。バーミリオンの領地に移動する馬車の中。車窓からの景色を見て物思いに耽ってしまっていた。
レンガに舗装された道へと入り、石造りの、堅牢だが簡素な城へと馬車は招き入れられ停止する。
「ニーナ」
名を呼ばれて、顔を上げる。
扉を開ければそこに、少し陽に焼けて精悍さを増した殿下がいた。
✴︎読んでくださりありがとうございます!
感謝を込めて、リクエスト頂いていたマドリーンちゃんのイラストです。
セラドーンは青磁色。
次回もよろしくお願いします!
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