【完結】浮気した婚約者を認識できなくなったら、快適な毎日になりました

丸インコ

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変わっていく日々

魔術が祝福に変わった日

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「ほーお、そんな面白いことが!」

 バーニーとアンバー嬢による誘導であらぬ噂を立てられていたこと。私がバーニーを認識できないことで対処が難しかったこと。殿下の機転でメッセージバードのマスターを書き換え、バーニーと直接対話をしたこと。今日までに起こったことを説明すると、デューク兄さまは悪びれもせず感嘆の声を上げた。

「ほぉー、じゃないですよ! 何で言ってくれなかったんですか! スプルース様が認識できなくなってるって」

「だって言っちゃったら実験……いや、おまえの自然な心の動きを邪魔しちゃうだろ?」

 実験て言った! 誤魔化したけど、今絶対、実験て言いましたわよね!?お兄さま。

 くわ、と眉を上げた私に気付いたのか、イーサン殿下がなだめるように背中をポンポンと叩いてくれる。王弟殿下の前だと思い出し、冷静さを取り戻した。兄妹喧嘩をしてる場合ではない。空気を読まない兄も気付いたのか、殿下に向かって頭を下げる。

「殿下、どうもお騒がせしました。ニーナを助けてくれてありがとうございます」

 へらりと笑う魔法師をイーサン殿下は面白そうに眺め、兄の肩にとまっているメッセージバードを指して言った。

「この子が呼びに来てくれたから。一番のお手柄は小鳥ちゃんかな」

「あー、つまり俺の魔法のお陰ですね! まいったなー、聞いた?妹」

「殿下、兄を甘やかさないでください」

 私たち兄妹の言い合いを、イーサン殿下は目を細めて眺めている。寛容な方だ。しかし。

「フジーロ侯爵はご存じなのかな? ニーナさんに魔法を掛けてたことや、別荘の水草のこと」

 殿下の一言に、ヘラヘラしていた兄がわかりやすくギクリと身を固くした。

「あー、言って、ない……かな?」

「デューク兄さま!」

「あ! 殿下! 時間も遅くなってきましたからもう帰らないと。王宮まで送りますよ? 転移で!」

「勝手に転移したらクビって言ってたじゃないですか!」

「場合によるだろー」

 父の叱責から逃げようと、兄が足掻き出す。イーサン殿下がにっこりと笑って退路を絶った。

「規則は大事だよ、デューク魔法師。私は良いから馬車でニーナさんを送って行くといい」

「ハイ……」

 こうして、長かった一日の終わり、私は兄を連れてウィスタリア邸に帰ることになった。





「ねえ、ニーナ」

 兄は予想通り生徒たちの視線を集めまくったが、放課後も遅い時間だったのが幸いして騒ぎにはならなかった。

 馬車停めでウィスタリアの家紋を探して歩きながら、唐突に兄が言う。

「アイツを認識できなかったこと、勝手にして悪かった」

 デューク兄さまらしからぬ殊勝な言葉と雰囲気に驚いて振り向いた。少し後ろを歩いていた兄は強い西陽の逆光となっていて、どんな表情なのかわからない。

「怒ってる?」

 兄の声は、珍しく、少しばかり頼りなく響く。

 バーニーに捨てられてからのことを、私は考えた。散々泣いて、さらに傷付くことを覚悟して学園に来てみれば、当人である(もと)婚約者が見当たらなかったこと。
 それによって、マドリーン様と心穏やかに過ごすことができたし、イーサン殿下と新しい関係を始めることができたこと。

 先程は衝撃の事実を次々と暴露されて動揺していたが、思い返しても出てくる答えはひとつ。

「……いいえ」

 私は顔を上げて長身のデューク兄さまを見上げた。自然に笑みが溢れる。

「実は、とても快適な毎日でしたの!」

 兄はきっと照れて口にはしないが、実験と言いつつ私のことを考えて動いてくれていたことを知っている。
 カレン・アンバーとバーニーが良からぬことを画策しないかと、忠告とともにメッセージバードをつけてくれたことや、今日も王宮から駆け付けてくれたことに、感謝しているのだ。

 ほんわりとあたたかな空気が流れる。

「そ。なら幸い」

 兄はいつも通りのぶっきらぼうな口調に戻って、長い脚で私を追い越した。私と同じ髪色が西陽で黄金色にきらきらと光る。

 そしてふと立ち止まると、振り返ってニヤリと笑う。今度はその表情がよく見えた。

「ところでおまえね、怒られるのが俺だけだと思ってるなら、違うからな?」

「えっ……」

 不穏なデューク兄さまの言葉とともに、私たち兄妹は侯爵家の馬車に乗り込んだ。
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