ただΩというだけで。

さほり

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Ωが生まれない世界

7.

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「実は医学部の兄の研究室で、これをもっと早い段階で正確に判定する方法を研究しているんだ。
  私は籍こそ薬学部に置いているが、薬学と医学は密接な関係にあるからね。兄の研究室のいくつかでは、実際に学生を指導しているのは私なんだよ。転籍したいくらいだが、いろいろしがらみがあってね、そこはうまくいかないのだが…… 」

  束の間表情を曇らせた河野は、ソファから身を乗り出した。

「胎児がαかβか、あるいはΩかが、妊娠初期の段階で正確に分かったとしたら、どうなると思う?」

  なぞなぞを出題する子どものような顔をしていた。

「世界中の化学者が必死になって研究しているヒート抑制剤なんて、そもそも必要なくなるんだよ。なぜか?Ωの子どもなんて、欲しがる親はいないからだ。自分の胎にいる子がΩだと分かれば、誰だって堕胎するだろう。
  少なくとも日本においては、22週未満の中絶は合法だ。法で禁じられている国でだって、実際中絶は日常的に行われている。
  分かるかい?
  第ニ性の早期判別の方法が確立すれば、ヒート抑制剤など無用の長物だ。この世界に、Ωそのものがいなくなるわけだからね」

  乾は話の途中から、相槌を打つことができなかった。

「いやこれこそ、まさにAnother Side of Viewだと思わないかい?」

  興奮した顔で唾を飛ばした河野の言葉に、背筋がぞっとした。

(そんなことが…… )

  そんなことが許されるのだろうか。

  里谷も言葉をなくしたのだろう。河野の熱弁が終わると、応接室には沈黙が流れた。

  何か言わなくてはと思った。しらじらしくてもいい。

  素晴らしいですね。画期的です。さすが、着眼点が違います。
―― とても言えなかった。


    
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