ただΩというだけで。

さほり

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松の内

2.

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  社内放送に促され、電話番だけを残して社食に向かう。津田にとって、こんなにたくさんの従業員の姿を一度に見るのは初めてだった。

  社員の2割ほどのα。そして大多数のβ。姿は見えないが、Ωの契約社員も何人かはいるはずだ。第二の性の割合で言えば、ここはほぼ世界の縮図と言ってもいい。
  津田は増井に袖を引かれ、食堂の下座にあたるドア付近で足を止めた。契約社員は慣例的に、正社員の後方に場所をとることになっているらしい。

  上座の窓際には、従業員に相対する向きで役員が並んでいる。長身の津田は、その中に佐伯の姿を見つけた。

  正月二日、津田は律を連れて佐伯邸に遊びに行った。遊びに行く、という言い方が正しいのかどうか分からない。でも、佐伯から「遊びにおいで」と誘われたのだ。

  電車を乗り継いで佐伯の家に着くと、律はぎゅっと津田のコートを掴んだ。不安そうに見つめる大きな目に、
「大丈夫。いなくなったりしないから」
  と津田は笑った。

  律はゆり子によくなついていた。甘えて抱きついたり、食事の時は彼女の隣に座りたがった。それでも、津田が台所や手洗いに立ち姿が見えなくなると、落ち着きなくそわそわして、そのうちに探しに来た。

  津田が突然いなくなり、佐伯の家に預けられた経験は、律の心に不安を植え付けてしまったらしい。
  もしもあのまま自分が帰らなかったら、この子はどうなっていただろうか。律のことは佐伯の両親に任せられる。安直にそう考え、自らの命を手放そうとしたことを、津田は後ろめたく思っていた。

  置いて行かれるつらさは、よく知っているのに。子どもだからといって、それを感じないはずなどないのに。
  いつか手放さなければいけないことが分かっているからこそ、限られた律との日々を大切に過ごそう、津田は改めてそう思った。
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