ただΩというだけで。

さほり

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漏洩と波紋

6.

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  津田の雇用契約が3月末で期限切れを迎える。人事部から回ってきたそのファイルに目を通し、乾は「更新しない」旨を確認して返信した。あくまで形式的なものだ。

  4月から津田は正社員になる。斜め右前に彼の横顔が見られるのもあと1ヶ月半となった。
  津田の行き先の研究所ラボも概ね決まったらしく、人事部は粛々とプロセスを進めている。
  懸念されていた妨害や反発があったとは聞いていないが、同期の山田からは皮肉を言われることになった。

  社食でとなりに座った山田は、
「お前もなかなか策士だな」
  と乾を鼻で笑った。

「部下にΩがいるのが目障りだからって、正社員にして研究所ラボに飛ばすなんて、ぶっ飛んでるよ」

  人事部にもΩの契約社員がいる。津田が配属されたばかりの頃、Ωの部下を持つ煩雑さをともに嘆いてくれた山田は、当時の乾にとっては貴重な理解者だったのだが。
  きっと反駁しても理解されないだろう。そう思った乾は、不快感を押し隠して曖昧に微笑んだ。

「でもよく常務が了承したよな。もしかして直接話つけたのかよ?」

  山田は一応、声のトーンを少し落とした。
  津田が佐伯常務の愛人だという噂は、社内にまことしやかに流れている。本人たちの耳に届いているとは思わないが、事情を知っている乾としてはいい気はしない。

  津田の身上書に記載されている「佐伯 律」の存在を知っている人はわずかだろう。もしかして噂の出所は人事部なのか、そう考えると気がふさぐ。社内とはいえ、個人情報を漏らさないのは仕事の基本ではないのか。

「月末の内示まで、漏洩ろうえいには気をつけてくれ」

  言いたいことを飲み込み、それだけ釘をさすと、乾は席を立った。

  不快感の中に、一抹の寂しさがある。変わったのは山田ではなく自分の方だと分かっているけれど、同志とたもとわかつような喪失感を覚えた。
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