ただΩというだけで。

さほり

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番(つがい)

2.

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  掃除機を見つけた津田は、リビングに続き、まだ物がないその部屋にも軽くかけてから、隣の寝室に足を踏み入れた。
  シーツを剥がしたダブルベッドがまず目に飛び込んできて、思わず右手で顔を押さえる。

  密度の濃い夜だった。
  今朝乾とともに目覚めたベッドから目を逸らして、津田は昨夜のことをそう思った。

  津田が乾のマンションに来たのは、昨日月曜日の夜。定時に託児所から引き取った律を佐伯邸のゆり子に託してから、津田は再び都心に向かう電車に乗った。教えられていた最寄駅で降りると、帰宅を急ぐ人達に流されるようにたどり着いた改札で、乾が待っていた。  
  少し前に退社のあいさつを交わしたばかりの彼と、社外で待ち合わせるのはもう珍しいことではない。それでも、嬉しそうに微笑んで迎えてくれる彼の姿に、津田はホッと肩の力が抜けた。

  高級住宅街を抜ける道を、二人は手を繋いで歩いた。指を絡めてきたのは乾からで、照れを滲ませつつ嬉しそうに目を細める長身の彼を、津田は恥ずかしながらもかわいいと思った。そのままほとんど話さずに、乾のリードに任せて歩くこと数分。彼の住居は、瀟洒なマンションの高層階にあった。

「津田さんが喫うの、初めて見ました」

  乾家のダイニングで一緒にとった軽い食事の後、勧められるまま煙草を吸う津田を、乾は紫煙ごと愛しそうにしげしげと眺めた。
  なんだか気恥ずかしくて目を逸らすと、乾は白い箱から取り出して咥えたパーラメントを、津田のメビウスの先端にそっとつけた。煙草2本分の先に、目を伏せて細く息を吸い込む乾の顔がある。

「…… 1回やってみたかったんですよ。これ、ホントにちゃんと点くんですね」

  顔を横向けて煙を吐き出した乾が横目でいたずらっぽく笑ったのが、とても新鮮だった。ふわふわした気持ちをどうしたらいいか分からず、津田がただ黙って紫煙をくゆらせていると、乾は苦笑してうつむいた。
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