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番(つがい)
5.
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アフターピルを用意してくれたのは、乾の気遣いだ。津田のことを一番に考えてくれている誠実さと優しさが、とても嬉しかった。
それなのになぜか、津田は腹の底から湧き上がるような寂しさに襲われたのだ。
乾の手が、テーブルの上で灰皿を滑らせるのが見えた。それが手元に差し出されたことで、津田は煙草の灰が落ちそうになるほど自分が黙っていたことに気がついた。
「あ…… なんか…… 初めて見た、から…… 」
「自社の商品ではあるんですけどね。さすがに、他所で買いました。それでやっぱり…… 副作用があるんです」
社割が効くとはいえ、社内の購買部で買い求めるのは気が引けたのだろう。苦笑した乾は眼鏡のブリッジを押し上げてから、真顔で津田の顔を見つめた。
「説明書とネットで見てみたら、一番多いのは下腹部の鈍痛と吐き気みたいです。もちろん個人差はあるでしょうけど、酷そうなら俺も仕事休んで一緒にいるので…… 」
何と返していいか分からない。初めての薬でどの程度影響が出るか予想できないが、仕事を休んで付き添ってもらうほど酷い副作用が出るものだろうか。
津田が黙っていると、乾は深いため息をついた。
「妊娠するにしてもしないにしても、津田さんにばかり負担をかけてしまうんです。どうしてαとΩって、こんなふうに作られてるんでしょうね…… 」
乾はやるせないというように目を伏せて首を振った。
「それは…… お前が気にしてもしょうがないとこだろ」
不公平だと感じるのは、普通ならそのせいで損をする側だ。優遇される側にいる乾がそれを真剣に慮ってくれることに、津田は乱れた心が温められ、落ち着いていくのを感じた。
それなのになぜか、津田は腹の底から湧き上がるような寂しさに襲われたのだ。
乾の手が、テーブルの上で灰皿を滑らせるのが見えた。それが手元に差し出されたことで、津田は煙草の灰が落ちそうになるほど自分が黙っていたことに気がついた。
「あ…… なんか…… 初めて見た、から…… 」
「自社の商品ではあるんですけどね。さすがに、他所で買いました。それでやっぱり…… 副作用があるんです」
社割が効くとはいえ、社内の購買部で買い求めるのは気が引けたのだろう。苦笑した乾は眼鏡のブリッジを押し上げてから、真顔で津田の顔を見つめた。
「説明書とネットで見てみたら、一番多いのは下腹部の鈍痛と吐き気みたいです。もちろん個人差はあるでしょうけど、酷そうなら俺も仕事休んで一緒にいるので…… 」
何と返していいか分からない。初めての薬でどの程度影響が出るか予想できないが、仕事を休んで付き添ってもらうほど酷い副作用が出るものだろうか。
津田が黙っていると、乾は深いため息をついた。
「妊娠するにしてもしないにしても、津田さんにばかり負担をかけてしまうんです。どうしてαとΩって、こんなふうに作られてるんでしょうね…… 」
乾はやるせないというように目を伏せて首を振った。
「それは…… お前が気にしてもしょうがないとこだろ」
不公平だと感じるのは、普通ならそのせいで損をする側だ。優遇される側にいる乾がそれを真剣に慮ってくれることに、津田は乱れた心が温められ、落ち着いていくのを感じた。
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