ただΩというだけで。

さほり

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このまま目を覚まさなくても

1.

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[だいじょうぶ]

  スマホ画面に表示されたその返信を見て、乾は食べ始めた昼定食の盆を下げ、社食を飛び出した。

  津田は私信のやりとりも丁寧で、メッセージに誤字脱字がほとんどない。仕事で扱う書類と同じ堅実さで文字を送る。
  その彼が。
  ひらがなで、句点も打たずに送ってきた「だいじょうぶ」など、信じられるはずがない。

  もどかしい思いで電車を乗り継ぎ、自宅マンションのエントランス前に立った乾は、津田の嘘を確信した。
  覚えのある、熟れた果実のような匂い。建物から漏れ出すそれに、ため息が漏れる。

(まったくあの人は…… )

  相変わらずだな、想定内だ、と思う。
  気を遣ってくれたことは分かっている。それでも、あれだけ言ったのにと、多少の苛立ちは覚えた。
  そして、とうとうこの時が来たんだな、と、熱い興奮が湧き上がる。

  乾は深呼吸をしてエレベーターに乗った。
  できるだけ優しく、ゆっくり。彼の身体に、負担をかけないようにしたい。
  そう思いながら、ライトが移動していく階数表示を見ていたところまでは覚えている。

  ハッと気がついたのは、鼻の奥を刺激する尖った匂い。そして、口腔に溜まった生温い液体の感触だった。
  視界を埋めているのは、明るい茶髪。
  何がどうなっているのか、理解が追いつかなかった。

(うなじ…… ?)

  噛んでいる、と認識した時、喜びで胸が震えた。連動するように、甘い快感が下半身を走る。心地よい圧でうねる温かい孔。その中に放出している最中さなかだと気づいた乾は、ゴクリと喉を鳴らして。
  飲み込んだ液体の異様さに、戦慄した。

  むせかえるような鉄の匂い。
  血だ、と分かった瞬間、ゾッと全身に鳥肌が立った。

「いぎぁっ!」

  短い悲鳴をあげて、腹の下にある津田の背中がこわばった。密着した細い身体が震えている。慌てて口を離すと、食い込んだ歯がうなじの肉から抜ける、ズルリとした感触と抵抗があった。
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