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このまま目を覚まさなくても
5.
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手術を待つ間に書かされたいくつもの書類の内容が、モニターに表示されているのだろう。医師はそれを目で追いながら、抑揚のない声で乾に聞いた。
あれを、合意と言っていいのだろうか。
乾は返事ができなかった。
ヒートから覚め、冷静になるうちに、その最中のことを断片的に思い出した。そして乾の耳の奥には、嫌だと叫んだ津田の声がこびりついている。
逃れようともがく彼を押さえつけた。あの時の自分には確かに、絶対に逃がすものかという暴力的な独占欲があった。津田が嫌だと意思表示したにもかかわらず、うなじを噛んだ。
それは、合意と呼べるだろうか。
沈黙した乾に、医師はため息をついた。命に関わる手術で蓄積した疲労を吐き出すような、重く長いため息だった。
「ヒート中の事故は原則として起訴されません。民事になるようなら、あのΩが抑制剤の服用を怠っていたという診断書も出せますから、心配いりませんよ」
乾は驚いて目を上げた。何の話をしているのか、すぐには理解できない。心配いらないという言葉は嬉しいが、医師が告げたそれは、津田の状態についてではない。
彼の話が、患者の身体ではなく加害者の保身についてだと気づいたとき、乾は強い虚しさと悲しみを感じた。
(あの人は、こんな社会で生きてきたのか…… )
出会った頃、津田はいつも冷めたような、すべてを諦めたような目をしていた。それは彼が大切な人を二度も奪われ、それを正当化する社会に倦んでしまったからだ。
αを優遇する世界。分かっていたつもりでも、この状況で目の当たりにした現実に、胸が痛む。
「そんな話より、あの人の傷は…… 身体は大丈夫なんですか?」
あれを、合意と言っていいのだろうか。
乾は返事ができなかった。
ヒートから覚め、冷静になるうちに、その最中のことを断片的に思い出した。そして乾の耳の奥には、嫌だと叫んだ津田の声がこびりついている。
逃れようともがく彼を押さえつけた。あの時の自分には確かに、絶対に逃がすものかという暴力的な独占欲があった。津田が嫌だと意思表示したにもかかわらず、うなじを噛んだ。
それは、合意と呼べるだろうか。
沈黙した乾に、医師はため息をついた。命に関わる手術で蓄積した疲労を吐き出すような、重く長いため息だった。
「ヒート中の事故は原則として起訴されません。民事になるようなら、あのΩが抑制剤の服用を怠っていたという診断書も出せますから、心配いりませんよ」
乾は驚いて目を上げた。何の話をしているのか、すぐには理解できない。心配いらないという言葉は嬉しいが、医師が告げたそれは、津田の状態についてではない。
彼の話が、患者の身体ではなく加害者の保身についてだと気づいたとき、乾は強い虚しさと悲しみを感じた。
(あの人は、こんな社会で生きてきたのか…… )
出会った頃、津田はいつも冷めたような、すべてを諦めたような目をしていた。それは彼が大切な人を二度も奪われ、それを正当化する社会に倦んでしまったからだ。
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