ただΩというだけで。

さほり

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新生活

8.

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「もしかしたら、いつか…… 必要になる時があるかもしれないので」

  どことなく気まずそうに乾がそれを常備薬の箱に入れたのは、津田が退院したその日。
  つがいを得たΩにとって抑制剤ピルは、その呼称のとおり経口避妊薬となる。行為前に飲めばαの精を受け入れても妊娠する心配はなく、それを怠らなければアフターピルを使う必要はない。とはいえ、これからの発情期にどの程度ヒートを抑えられるものか分からないので、もう要らないと判断するのは早計だ。

  できるだけ使いたくないと思っているのは、乾も同じだろう。どう返事をしていいか分からず彼の動きを見つめていたら、
「まだ、痛みますか…… ?」
 眉根を寄せた乾にそう問われた。彼の視線は、津田が無意識に手を当てていた下腹に向けられていた。

「いや、違う。そうじゃねぇよ…… ごめん」
「謝らないでください。それより、痛かったら言ってくださいね、首も…… お腹も」

  自分の方が痛いような顔で乾はそう言い、津田をそっと抱きしめた。


「首より腹が痛いんだよ。何だろうな」

  病室でまだ横向きに寝かせられていた時、よく考えもせずにそう言ってしまったことを、今になって津田は少し後悔していた。
  ひどく心配し、
「一応看護師に聞いてきます」
と出て行った乾は、一時間近くも戻らず。ようやく帰って来た彼の顔を一目見て、何か激しく動揺することがあったのだろうと、津田は悟った。
  乾の目は赤く充血し、まぶたが腫れていたからだ。

掻爬そうは…… したんだそうです」

  ベッド脇のスツールに座った乾はそう言って、津田の反応を見るようにちらりと目をあげた。

「分かりますか……?」

  掻爬。その処置を受けたことはない。でも、知識としては知っていた。

「掻き出したってことだよな?」

  そう聞くと、乾はうつむいたまま少し顎を引いた。



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