351 / 417
新生活
14.
しおりを挟む
Noと言われることしか想定していないらしい彼が、そのピンク色の頭で津田にかける言葉を必死で考えている気配が感じられる。
「俺、番ができたんだ」
自ら望んだことだと分かるように、津田は意識して笑顔を見せた。言葉にしたらなんだか照れが出てきて、少しうつむくと糸を抜いたばかりのうなじがチリリと痛んだ。
「よ、かったぁーー…… 」
店長は長い息とともに安心したという声を吐き、
「ちょっと、ゆっくり話きかせてよ!」
磨き上げられたタイルの床の上で踊るように、津田を鏡の前の椅子に誘った。
津田がこのサロンに通うようになって、四年になる。
店長の嶋本とは、佐伯を亡くした津田が初めて働きに出た職場で知り合った。重い荷物をトラックに積んでいく単純な肉体労働で、同じタイミングで新規雇用された八人のうち、津田と嶋本だけがΩだった。
佐伯を亡くしたばかりの津田は決していい話し相手ではなかったはずなのに、同じΩだという気安さからか、三つ年下の嶋本は津田によく懐いた。そして彼は津田のプライベートを聞き出そうとしない代わりに、頻繁に自分の夢を語った。
美容師免許を持つという嶋本の夢は、番のαと共同出資してサロンを持ちたいというもので、腕が鈍らないように練習させてほしいと頼まれて以来、津田の頭は彼の練習台になった。それは津田が転職してからも続き、四年前に嶋本が念願の店をオープンしてからも、津田は一度も代金を払ったことがない。彼は若手の美容師の練習台や新しいカラー剤の試用という名目で、一切の代金を津田に支払わせないのだ。
七年のつきあいで、津田の懐事情を概ね知っている彼が、同じΩのよしみで気を遣ってくれていることは分かっている。いつかちゃんとお祝いと支払いを、と思いながら、津田はずっと彼の厚意に甘えてきたのだった。
「俺、番ができたんだ」
自ら望んだことだと分かるように、津田は意識して笑顔を見せた。言葉にしたらなんだか照れが出てきて、少しうつむくと糸を抜いたばかりのうなじがチリリと痛んだ。
「よ、かったぁーー…… 」
店長は長い息とともに安心したという声を吐き、
「ちょっと、ゆっくり話きかせてよ!」
磨き上げられたタイルの床の上で踊るように、津田を鏡の前の椅子に誘った。
津田がこのサロンに通うようになって、四年になる。
店長の嶋本とは、佐伯を亡くした津田が初めて働きに出た職場で知り合った。重い荷物をトラックに積んでいく単純な肉体労働で、同じタイミングで新規雇用された八人のうち、津田と嶋本だけがΩだった。
佐伯を亡くしたばかりの津田は決していい話し相手ではなかったはずなのに、同じΩだという気安さからか、三つ年下の嶋本は津田によく懐いた。そして彼は津田のプライベートを聞き出そうとしない代わりに、頻繁に自分の夢を語った。
美容師免許を持つという嶋本の夢は、番のαと共同出資してサロンを持ちたいというもので、腕が鈍らないように練習させてほしいと頼まれて以来、津田の頭は彼の練習台になった。それは津田が転職してからも続き、四年前に嶋本が念願の店をオープンしてからも、津田は一度も代金を払ったことがない。彼は若手の美容師の練習台や新しいカラー剤の試用という名目で、一切の代金を津田に支払わせないのだ。
七年のつきあいで、津田の懐事情を概ね知っている彼が、同じΩのよしみで気を遣ってくれていることは分かっている。いつかちゃんとお祝いと支払いを、と思いながら、津田はずっと彼の厚意に甘えてきたのだった。
2
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
さよならの向こう側
よんど
BL
【お知らせ】
今作に番外編を加えて大幅に加筆修正したものをJ庭58で販売しました。此方の本編を直す予定は御座いません。
BOOTH
https://yonsanbooth-444.booth.pm/items/7436395
''Ωのまま死ぬくらいなら自由に生きようと思った''
僕の人生が変わったのは高校生の時。
たまたまαと密室で二人きりになり、自分の予期せぬ発情に当てられた相手がうなじを噛んだのが事の始まりだった。相手はクラスメイトで特に話した事もない顔の整った寡黙な青年だった。
時は流れて大学生になったが、僕達は相も変わらず一緒にいた。番になった際に特に解消する理由がなかった為放置していたが、ある日自身が病に掛かってしまい事は一変する。
死のカウントダウンを知らされ、どうせ死ぬならΩである事に縛られず自由に生きたいと思うようになり、ようやくこのタイミングで番の解消を提案するが...
運命で結ばれた訳じゃない二人が、不器用ながらに関係を重ねて少しずつ寄り添っていく溺愛ラブストーリー。
(※) 過激表現のある章に付けています。
*** 攻め視点
※当作品がフィクションである事を理解して頂いた上で何でもOKな方のみ拝読お願いします。
扉絵
YOHJI@yohji_fanart様
(無断転載×)
僕を惑わせるのは素直な君
秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。
なんの不自由もない。
5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が
全てやって居た。
そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。
「俺、再婚しようと思うんだけど……」
この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。
だが、好きになってしまったになら仕方がない。
反対する事なく母親になる人と会う事に……。
そこには兄になる青年がついていて…。
いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。
だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。
自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて
いってしまうが……。
それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。
何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。
【完結】言えない言葉
未希かずは(Miki)
BL
双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。
同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。
ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。
兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。
すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。
第1回青春BLカップ参加作品です。
1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。
2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる