ただΩというだけで。

さほり

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新生活

18.

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「これ、縫ったんでしょ?病院レベルだよね。相手お医者さんじゃなければ」
「医者じゃなくて薬屋」
「あ、新しい職場の人?」
「…… 上司」
「うはぁ!」

  嶋本は撃たれたように軽くのけぞり、
「佐伯さんに限ってそんなベタな展開ないと思ってたぁ!」
  あはは、と声を上げて笑った。

「佐伯さん」と呼ばれることに、津田は懐かしさと一抹の罪悪感を覚えた。
  二年前に改姓したことも、凛花の身に起きたことも、嶋本には話していない。律をここに連れてきたことはあるが、若いアシスタント達にかわいがってもらったあの子のことを、津田は「事情があって預かっている子」だと説明していた。

  一見軽薄そうな嶋本は、人が踏み込まれたくない話題を敏感に察知する。職業柄もあるかもしれないが、相手が話したがらないことを、しつこく聞いたりはしない。
  彼が施術中に根掘り葉掘り詮索するような性格であれば、津田はこのサロンに通い続けることはなかっただろう。

  顔を出さずにいると、三ヶ月ほどで嶋本は必ず津田に連絡を寄越す。
「他の人にカットさせたら恨むからね!」
  そうふざけて脅しつつ来店を促す彼が、自分と娘の生活を心配してくれているのだと知っていながら、津田は凛花がもうこの世にいないことも打ち明けられずにいるのだった。

「嶋本はさ、」
  鏡の中に話しかけると、彼は先を促すように小首を傾げた。
「うまくいってんの?つがいの人と」

  津田が覚えている限り、彼の番について質問したのは初めてだ。嶋本は一瞬だけ動きを止め、口元を大きな弓形にしならせた。

「うまくいってるよ。全然会ってないけど。うちは最初から、ビジネスパートナー契約だからね」

  嶋本の番は、他に家庭があると聞いた。番になるなら出店費用を半分出してやると持ちかけられ、「契約」したのだと。


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