ただΩというだけで。

さほり

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春の足音

15.

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「風井さんね、あたしが帰る時に階下したのカフェにいたんですよぉ。それであたし、もしかしてこの人まだ乾主任のこと狙って待ってるのかなって、なんかやだなって思ったから、話しかけたんです。そしたら、薬指に指輪してるのが見えて。あの人、新しい職場の人と結婚したらしいんです。そんでお相手が実は、βの人らしくてぇ、すっごい意外でした!うちにいたときは、他のフロアのαまでチェックしてるような人だったのに。でもなんか、幸せそうでしたよぉ」

  小さく頷きながら彼女の話を聞いていた津田は、風井の結婚相手がβだと聞いて、微妙な笑顔になった。その生活の厳しさを知っている彼が、風井夫婦の決断に複雑な気持ちになるのも無理はない。

「それでねぇ、話してる間もキョロキョロしてるから誰か待ってるんですかぁって聞いたら、別にって言って…… 『そういえば津田さん元気?』って聞かれたんです。その時あたしまだ津田さん発情いつもの休暇だと思ってたんで、月のやつで休んでますよぉって言ったら、じゃあ伝言してって」

  そこで増井は津田に向き直り、姿勢を正した。

「ひどいこと言って、ごめんなさい」

  風井がしたことの再現だろうか。増井は再びぺこりと頭を下げた。

「…… って。あれホントは、津田さんを待ってたのかもしれないなぁ」

  思案顔になった増井に、津田は何も言えずにいる。乾が何かフォローすべきかと思った時、彼の膝にいる律がもぞりと動いた。

「ごめーしゃい、ゆえて、いいこ」

  律は頭上に手を伸ばしたが、増井の頭には届かないと分かり、正座した彼女の膝をよしよしと撫でた。

「ほわぁん!」
  という増井の声と、
「あっおまえ、手ぇベタベタだっつのに…… っ」
  と津田がおしぼりをひっつかむのがほぼ同時だった。

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感想 18

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