ほの明るいグレーに融ける

さほり

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プロローグ

1.

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ひきつれるような腰の痛みで目を覚ました。

綾人あやとは無意識のうちに、痛むところに手を伸ばす。指先に、皮膚とは違うつるりとした冷たい感触があった。見ると、左の腰骨の上に大きめの湿潤絆創膏が貼ってある。

いつの間に貼られたのだろう。絆創膏の上からでも、その下の火傷がまだ熱をもっているのがわかった。

そこに煙草を押しつけられたときの、脳天をつくような鋭い痛みを思い出す。自分の肌が焼ける匂いが、鼻の奥に蘇る。
そのときの、憎しみのこもったあいつの目が脳裏をかすめ、裸の背筋がぞわりと波立った。

固く目を閉じ、一つ大きく息を吐いてから、綾人はふと視線を上げた。
手の届かない距離にある窓から、光が差し込んでいる。晴天というほどではないが、昼間だとわかる明るさだ。昼間はあいつが仕事に行っているらしく家にいない。

あいつに飼われて、もうどのくらい経ったのだろう…… 

綾人は首と首輪の間に指を入れて肌をさすった。
ひどく屈辱的で、はじめは外そうともがいたこの首輪にも、もはや何の感情もわかない。
皮製の首輪には鎖がついていて、その先は部屋の壁に埋め込まれた楔につながれている。4畳半程度の小さな部屋なのに、隣接するユニットバスには行けるが窓とドアには手が届かないように、鎖の長さが計算されていた。

綾人と、鎖と、冷たい床に直に置かれたマットレスと綿毛布以外、何もない部屋だ。
いや、空調がある。一日中、首輪しか身に着けていない綾人が過ごしていても、風邪をひかない程度に室温を整えるあいつの手下だ。

まだ秋なのか、それとも外はもう寒いのか、それさえも綾人にはわからない。

あいつに偶然会ったのは、まだ蒸し暑い夏の終わり。あのとき着ていたのは、和臣かずおみが似合うと言ってくれた空色のTシャツだった。綾人には少し大きい和臣のサンダルを履いていたのに、あれもあいつに捨てられてしまったのだろうか。

はじめの頃は、夕方になると憂鬱だった。夜になればあいつが帰ってくると思うと、吐き気がこみ上げるほどに厭だった。その頃はまだ、監禁されてからの日を数えていた。夜になればあいつに抱かれ、朝になれば1を足す。

+1、+1、+1……

30を超えたあたりから数えるのをやめた。時計もカレンダーもない部屋では時間の感覚がひどく曖昧で、怠惰な生活が朝と夕の区別を難しくした。苦痛な夜に耐えて次に目覚めたとき、茜色の空が朝なのか夕方なのかわからなくなっていった。


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