背徳のアルカディア

さほり

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Lucifer

1.

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「んっ、んうぅ……っ」

 エメットは木立の陰から、地面にうずくまり呻き声をあげる華奢な背中を見つめていた。粗末なシャツに半ばまで隠れた腿は細く、四つん這いで突き出した尻が揺れている。

「んぁ……っ」

 艶かしい声とともに、裸足の指先がぐっと丸まる。するとその少し開かれた脚の間から、鶏卵大の卵がぽろんと落ちた。白い卵は透明な体液で濡れ、草の上でてらてら光っている。

 産んだ主はそのまま這っていき、大きな木の幹に背中を預けてもたれた。薄く平らな胸を上下させ、大きな息を吐く。
 呼吸を整え顔を上げた彼の目が、木の陰にいるエメットを捉えて大きく見開かれた。驚愕に震えるその瞳は、澄んだ泉のようなあおだった。

 自分の姿が天使ひとに恐怖を与えることは分かっている。エメットはゆっくりと歩み寄り、木の幹に背を貼り付けるように下がった彼に話しかけた。

「そんなに怯えるな。怪しい者じゃない。ただその、通りすがりに、姿が見えたから……」

 彼はおののいた目で、じっとエメットの翼を見ている。

 純白の羽こそ、天使の誇り。逆に言えば、エメットの持つ青灰色ブルーグレーの羽は堕ちた天使の証しだ。逃げ場のない孤島に堕天使が舞い降りて、危険を感じないわけがない。

「この島には何もありません。出て行ってください」

彼は警戒をあらわにエメットを睨んだ。

「僕は豊穣神バッコス様の下僕しもべです。僕に関わろうとする者には、神罰がくだります」
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