背徳のアルカディア

さほり

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Lucifer

2.

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 毅然とした態度を見せてはいるが、地面に下ろした手が震えている。エメットは彼の鎖骨にかかる見事な金髪に触れたい衝動を抑え、草の上に腰を下ろした。

 明るい陽光が、黙って見つめ合うふたりを照らす。梢から小鳥の囀りが聞こえる。木漏れ日でまだら模様になった卵に手を伸ばしたエメットを、彼は厳しい顔で制した。

「兵士の生まれる卵です。触れてはいけません」
「いつの間にこの天上界は、男が卵を生む世界になった?」

 そう聞くと彼は不快そうに顔を歪め、長いまつ毛を伏せた。

「僕はこの島で、バッコス様の身辺を警護する兵士を未来永劫えいごう生み続けるという栄誉をたまわりました」

 淀みなく紡がれたそれは、まるで定型文。発した言葉とは裏腹に、彼の表情には誇らしさなど微塵も感じられなかった。

「この島に、ずっとひとりで……?」

 エメットの問いに、彼はわずかにあごを引いた。

「それは栄誉なんかじゃない。呪いだろう」
「身に余る栄誉です」
「じゃあなんで、こんな島に閉じ込められているんだ?しかも、羽をもがれて」

 彼の華奢な背中には、折られた翼の根元と数枚の白い羽根だけが寂しげに風に揺れている。純白の翼は天使の誇りであり、移動手段でもある。この島は神や天使の住む陸地から遠く離れ、周りは見渡す限り雲海だ。翼を失った彼は、一生この小さな島から自力で出ることはできないだろう。

「風の噂に聞いたことがある。豊穣神バッコスは金髪の稚児ちごを溺愛していたが、嫉妬した妻の機嫌をとるためにその羽をむしり、島に流したと」

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