4 / 36
Lucifer
3.
しおりを挟む
彼は眉ひとつ動かさず、流言を語るエメットを見ていた。薄い唇はその噂を否定も肯定もせず、固く引き結ばれている。心中に渦巻いているであろう感情を押し隠そうとする彼に、エメットは小さく息を吐いた。
「力任せに折られたな、痛かったろう」
そう言うと、彼は一瞬泣き出しそうに顔を歪め、目を閉じて小さく首を横に振った。
翼にも痛覚がある。痛くなかったはずはない。それとも、翼をもがれた物理的な痛みよりも強い苦痛が、彼の心にはあるのだろうか。
純白の翼を失った嘆きか。
愛した神に捨てられた哀しみか。
「お前、名前は?」
エメットが聞くと、彼は少し迷うように瞳を揺らし、金色のまつ毛を伏せた。
「ガジーナ」
その答えに、思わず眉をひそめる。ガジーナとは雌鶏のことだ。
「それはお前を見捨てた神に付けられた愛称だろう? 親にもらった名前は?」
そう質しても、彼は答えなかった。羽をもがれ孤島に捨てられてまで神に与えられた愛称を名乗る彼に、苛立ちを覚える。
「健気だな。まさか、いつか神が迎えに来てくれるとでも思っているのか?」
昏い気持ちで嫌味を言ったエメットから目をそらし、彼は立ち上がった。
「おい……っ」
引き止める声に振り向きもせず、彼は裸足で木立を抜けて行く。その決然とした背中が、もう話すことはないと言っていた。
草の上には、生み落とされた卵。エメットがそっと拾って手のひらに乗せると、それはほのかに温かかった。
「力任せに折られたな、痛かったろう」
そう言うと、彼は一瞬泣き出しそうに顔を歪め、目を閉じて小さく首を横に振った。
翼にも痛覚がある。痛くなかったはずはない。それとも、翼をもがれた物理的な痛みよりも強い苦痛が、彼の心にはあるのだろうか。
純白の翼を失った嘆きか。
愛した神に捨てられた哀しみか。
「お前、名前は?」
エメットが聞くと、彼は少し迷うように瞳を揺らし、金色のまつ毛を伏せた。
「ガジーナ」
その答えに、思わず眉をひそめる。ガジーナとは雌鶏のことだ。
「それはお前を見捨てた神に付けられた愛称だろう? 親にもらった名前は?」
そう質しても、彼は答えなかった。羽をもがれ孤島に捨てられてまで神に与えられた愛称を名乗る彼に、苛立ちを覚える。
「健気だな。まさか、いつか神が迎えに来てくれるとでも思っているのか?」
昏い気持ちで嫌味を言ったエメットから目をそらし、彼は立ち上がった。
「おい……っ」
引き止める声に振り向きもせず、彼は裸足で木立を抜けて行く。その決然とした背中が、もう話すことはないと言っていた。
草の上には、生み落とされた卵。エメットがそっと拾って手のひらに乗せると、それはほのかに温かかった。
1
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる