5 / 36
Gallina
1.
しおりを挟む
「晴れた空のような瞳ではないか……美しい。こちらに来て、よく見せなさい」
アゼルがバッコス神の寝室に呼ばれたのは、彼の神殿に連れて来られて三日目のことだった。
「この金の髪も、地上に実った麦穂のようだ。お前、名はなんという?」
「……アゼルです」
名乗ると、バッコスは豊かなあご髭を撫でながら、ふむ、と唸った。
「お前が後宮で雌鶏と呼ばれているのを知っているか? 明け方になると泣くからだそうだよ」
そんな噂が立っているのかと、アゼルは驚いた。大声で泣き叫んでいるわけでもないのに。しかも、男の自分が雌鶏とあだ名されているなんて。神の稚児として後宮に入った男をメスと呼ぶ侮蔑を、ひどく不快に感じた。
「そんな顔をするな。みな退屈しているだけだ」
バッコスが鷹揚に笑う。アゼルは彼を傲慢で好色な神だろうと思っていたが、豪華な寝室で葡萄酒のグラスを傾けるその姿は、穏やかな智慧者に見えた。
「この神殿はよいぞ。葡萄酒も果実も美味い。つらいことなどすぐに忘れよう。命は長いのだから、愉しく生きなければな」
神と天使に寿命はない。兵士に守られた安全な神殿に住まう彼は、摂取する必要のない酒や果物を常に寝室に置き、娯楽としてそれらを味わっているのだった。
「そうだ、お前のことはガジーナと呼ぶことにしよう。なかなか可愛い名前ではないか? どうだ?」
「……御意」
「閨ではよい声で鳴いて愉しませてくれ」
バッコスはアゼルの細い喉を撫でてそう言うと、髭の奥でくつくつと笑った。
アゼルがバッコス神の寝室に呼ばれたのは、彼の神殿に連れて来られて三日目のことだった。
「この金の髪も、地上に実った麦穂のようだ。お前、名はなんという?」
「……アゼルです」
名乗ると、バッコスは豊かなあご髭を撫でながら、ふむ、と唸った。
「お前が後宮で雌鶏と呼ばれているのを知っているか? 明け方になると泣くからだそうだよ」
そんな噂が立っているのかと、アゼルは驚いた。大声で泣き叫んでいるわけでもないのに。しかも、男の自分が雌鶏とあだ名されているなんて。神の稚児として後宮に入った男をメスと呼ぶ侮蔑を、ひどく不快に感じた。
「そんな顔をするな。みな退屈しているだけだ」
バッコスが鷹揚に笑う。アゼルは彼を傲慢で好色な神だろうと思っていたが、豪華な寝室で葡萄酒のグラスを傾けるその姿は、穏やかな智慧者に見えた。
「この神殿はよいぞ。葡萄酒も果実も美味い。つらいことなどすぐに忘れよう。命は長いのだから、愉しく生きなければな」
神と天使に寿命はない。兵士に守られた安全な神殿に住まう彼は、摂取する必要のない酒や果物を常に寝室に置き、娯楽としてそれらを味わっているのだった。
「そうだ、お前のことはガジーナと呼ぶことにしよう。なかなか可愛い名前ではないか? どうだ?」
「……御意」
「閨ではよい声で鳴いて愉しませてくれ」
バッコスはアゼルの細い喉を撫でてそう言うと、髭の奥でくつくつと笑った。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる