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生産美人
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生産美人
※「生産」(せいさん)
-元からある物に加工して、必要なものを作り出すこと-
『いのちはたすけてあげるから』
少女が私の顔に近づき小声で言う。口が動いているのに、最後まで言葉が聞こえない。一体あの子は誰なんだ……。
遅番を終えて帰宅し、ソファーに座っていたが、いつの間にか眠っていた。うたた寝をすると必ず、少女の夢を見る。今もまさにそうだった。最近は、この夢も気にならなくなった。そんな事より、肌にまとわりつくこの汗を、早く流したい。
お風呂場に行き、最初にシャンプーをした。
「痛い!」
太もも辺りで何かが動いた感じがした。肌の上ではなく、皮膚の中だ。思わず目を開けてしまった。流しきれていない泡が入り、目も痛い。急いで顔を洗い、痛みを感じた部分を凝視した。
「ミミズ腫れ?怪我した記憶ないけどな」
三センチほど、傷のような跡がある。
(ピクリ)
「痛い!やっぱり、動いた!何?キモチ悪い!」
急いで脱衣所へ行き、体にタオルを巻いた。タオルの上からでも肉が目立つ。自分についているこの贅肉を、心の奥底から憎んでいる。若い頃はスタイルが良く、モデルみたいだと羨ましがられていた。しかし、年齢を重ねるのと同時に、肉も重ねていった。
ソファーに座り、タオルをそっとめくり、太ももを見る。やっぱり、ミミズ腫れはある。
「動いたのは気のせいだったのかな。昨日ホラー映画見たせいで、変な想像しちゃったのかも。疲れたし、寝よ」
美月。三十七歳。ママは病気で他界し、パパは何年も入院している為、一人暮らし。工場勤務。メイク、ファッション、興味なし。趣味はお取り寄せグルメを食べること。
ここ最近、どんどんズボラになっていく。体型もその一つだ。太り始めた頃は、カロリーの低いものを選んだり、ストレッチをしていたが、いつの間にか欲望のまま生きてしまっている。
やっと、遅番三連勤が終わり今日は休みだ。満足行くまで寝てらると思ったが、玄関の前で配達員が大きな声で呼んでいる。
インターホンが壊れてるのを忘れてた。玄関に『置き配でお願いします』と貼るのも忘れた。
「すみません。お荷物です」
「はい。今、開けます」
寝起きの声は酷く枯れていて、おっさんに間違えられそうだ。
ゆっくりとドアを開け、目が合った。その途端、配達員の手が震え出した。そんなに怖い顔をしているのだろうか。
「ごめんなさい。インターホンが壊れてまして」
「い、いえ。とんでもないです。ありがとうございました」
荷物を押し付けて渡し、逃げるように走って行った。
「こんなに暑い中、忙しくて大変そう。震えてたけど、熱中症じゃないよね。大丈夫なのかな」
もしかすると配達員の震えは、私に怯えていたからかもしれない。他人の心配をする前に、自分の体型を心配した方がいいと、お取り寄せグルメを開けながら自虐的に笑った。
リビングに戻る途中、廊下を歩きながら、洗面所の鏡に目をやると、知らない人が写った。
「……誰かいる?」
気のせいだと確認するために、ゆっくりと後ろに下がって、鏡を見た……。
「キャッ!」
私と同じ服を着ている人が写っている……。
「うそ。わたし……?」
変わり果てた私がいた。透明感溢れる肌。手から少し、はみ出す大きさの胸。柔らかいお尻。美しすぎる顔。そして、完璧な歯並び。振り向かない男などいないだろう。
「本当に私なの?美しすぎる……。これで、メイクなんてしたらもっと綺麗になっちゃうわよ」
残念ながら、メイク用品は一つも持っていない。自分に酔いしれていると、また(ピクリ)と痛みを感じた。
「なんなのよ」
寝る前よりも傷の長さが、倍くらい伸びている。
『いのちはたすけてあげたでしょ』
夢に出てくる少女の声が聞こえた。
『たすけてあげる』から『たすけてあげた』に変わった。
「幻聴?うたた寝なんてしてない。起きているのに、なぜ声が聞こえるの……」
『美人にもしてあげた』
「誰なの?どこにいるの?」
『たすけてほしいの』
(ピクリ)
今までの中で、一番の痛みを感じた。恐怖と激痛で、頭がおかしくなりそうだ。ミミズ腫れが、太くなっている。
『あなたの体内にいるの。声が聞こえるでしょ』
「何を言っているの?やめて!」
『落ち着いて。あなたには何もしないわ。私を、たすけてくれるなら。私のことを思い出させてあげる』
突然、頭の中に映像が流れた。
大きな水溜まりの真ん中に、制服姿で立っている私がいた。底から無数の手が私の体にまとわりつき、引きづり込もうとしている。抵抗することもなく、沈んでいく。顔が水の中に入る寸前、ものすごい力で外に飛ばされた。私は、その場に倒れて目を開けた。
『いのちはたすけてあげるから』
あの時の少女だ。その子が私の体内にいる……?
思い出した。頭の奥底に追いやった嫌な記憶を……。
高校生の冬、部活が遅くなり、帰る頃には暗くなっていた。なんとなく誰かに付けられている気がしたが、早く帰りたい気持ちが勝り、確認などしなかった。まさか自分が、不審者に追われているなど思わずに……。
一ヶ所だけ、街灯がなく人通りの少ない場所がある。気づいた時には、遅かった。ぼんやりと目を開き、激しい頭痛に襲われた。そして焼けるような腹痛。意識が薄れていく時、やけに下半身の風通りが良かったことを覚えている。
目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。そうだ、その日から少女の夢を見るようになった。
『思い出してくれた?あの時、いのちを助けたのは私なの。だから今度は、あなたが私を助けて』
「別に、助けてなんてお願いしてないわ。嫌な記憶まで思い出させて何なのよ!早くあたしの体から出ていって!」
『そう……。残念だわ。それならあなたには、死んでもらわないと』
「え?どうしてよ」
『あなたの代わりは他にもいるのよ。みんなで作ったの』
「な、何を作ったのよ……」
『美人』
「何よ、それ」
『あなたのように、生身の人間の体内に入り込んで、美人を大量生産したの』
「何をする気なの」
『男どもに復讐よ』
私に選択肢はなかった。まだ、死にたくない。無言で頷いたその後、また太ももに痛みが走る。
「痛い」
(ジジジジ……)
ミミズ腫れを隠す様に、薔薇のタトゥーが刻まれていた。
※「生産」(せいさん)
-元からある物に加工して、必要なものを作り出すこと-
『いのちはたすけてあげるから』
少女が私の顔に近づき小声で言う。口が動いているのに、最後まで言葉が聞こえない。一体あの子は誰なんだ……。
遅番を終えて帰宅し、ソファーに座っていたが、いつの間にか眠っていた。うたた寝をすると必ず、少女の夢を見る。今もまさにそうだった。最近は、この夢も気にならなくなった。そんな事より、肌にまとわりつくこの汗を、早く流したい。
お風呂場に行き、最初にシャンプーをした。
「痛い!」
太もも辺りで何かが動いた感じがした。肌の上ではなく、皮膚の中だ。思わず目を開けてしまった。流しきれていない泡が入り、目も痛い。急いで顔を洗い、痛みを感じた部分を凝視した。
「ミミズ腫れ?怪我した記憶ないけどな」
三センチほど、傷のような跡がある。
(ピクリ)
「痛い!やっぱり、動いた!何?キモチ悪い!」
急いで脱衣所へ行き、体にタオルを巻いた。タオルの上からでも肉が目立つ。自分についているこの贅肉を、心の奥底から憎んでいる。若い頃はスタイルが良く、モデルみたいだと羨ましがられていた。しかし、年齢を重ねるのと同時に、肉も重ねていった。
ソファーに座り、タオルをそっとめくり、太ももを見る。やっぱり、ミミズ腫れはある。
「動いたのは気のせいだったのかな。昨日ホラー映画見たせいで、変な想像しちゃったのかも。疲れたし、寝よ」
美月。三十七歳。ママは病気で他界し、パパは何年も入院している為、一人暮らし。工場勤務。メイク、ファッション、興味なし。趣味はお取り寄せグルメを食べること。
ここ最近、どんどんズボラになっていく。体型もその一つだ。太り始めた頃は、カロリーの低いものを選んだり、ストレッチをしていたが、いつの間にか欲望のまま生きてしまっている。
やっと、遅番三連勤が終わり今日は休みだ。満足行くまで寝てらると思ったが、玄関の前で配達員が大きな声で呼んでいる。
インターホンが壊れてるのを忘れてた。玄関に『置き配でお願いします』と貼るのも忘れた。
「すみません。お荷物です」
「はい。今、開けます」
寝起きの声は酷く枯れていて、おっさんに間違えられそうだ。
ゆっくりとドアを開け、目が合った。その途端、配達員の手が震え出した。そんなに怖い顔をしているのだろうか。
「ごめんなさい。インターホンが壊れてまして」
「い、いえ。とんでもないです。ありがとうございました」
荷物を押し付けて渡し、逃げるように走って行った。
「こんなに暑い中、忙しくて大変そう。震えてたけど、熱中症じゃないよね。大丈夫なのかな」
もしかすると配達員の震えは、私に怯えていたからかもしれない。他人の心配をする前に、自分の体型を心配した方がいいと、お取り寄せグルメを開けながら自虐的に笑った。
リビングに戻る途中、廊下を歩きながら、洗面所の鏡に目をやると、知らない人が写った。
「……誰かいる?」
気のせいだと確認するために、ゆっくりと後ろに下がって、鏡を見た……。
「キャッ!」
私と同じ服を着ている人が写っている……。
「うそ。わたし……?」
変わり果てた私がいた。透明感溢れる肌。手から少し、はみ出す大きさの胸。柔らかいお尻。美しすぎる顔。そして、完璧な歯並び。振り向かない男などいないだろう。
「本当に私なの?美しすぎる……。これで、メイクなんてしたらもっと綺麗になっちゃうわよ」
残念ながら、メイク用品は一つも持っていない。自分に酔いしれていると、また(ピクリ)と痛みを感じた。
「なんなのよ」
寝る前よりも傷の長さが、倍くらい伸びている。
『いのちはたすけてあげたでしょ』
夢に出てくる少女の声が聞こえた。
『たすけてあげる』から『たすけてあげた』に変わった。
「幻聴?うたた寝なんてしてない。起きているのに、なぜ声が聞こえるの……」
『美人にもしてあげた』
「誰なの?どこにいるの?」
『たすけてほしいの』
(ピクリ)
今までの中で、一番の痛みを感じた。恐怖と激痛で、頭がおかしくなりそうだ。ミミズ腫れが、太くなっている。
『あなたの体内にいるの。声が聞こえるでしょ』
「何を言っているの?やめて!」
『落ち着いて。あなたには何もしないわ。私を、たすけてくれるなら。私のことを思い出させてあげる』
突然、頭の中に映像が流れた。
大きな水溜まりの真ん中に、制服姿で立っている私がいた。底から無数の手が私の体にまとわりつき、引きづり込もうとしている。抵抗することもなく、沈んでいく。顔が水の中に入る寸前、ものすごい力で外に飛ばされた。私は、その場に倒れて目を開けた。
『いのちはたすけてあげるから』
あの時の少女だ。その子が私の体内にいる……?
思い出した。頭の奥底に追いやった嫌な記憶を……。
高校生の冬、部活が遅くなり、帰る頃には暗くなっていた。なんとなく誰かに付けられている気がしたが、早く帰りたい気持ちが勝り、確認などしなかった。まさか自分が、不審者に追われているなど思わずに……。
一ヶ所だけ、街灯がなく人通りの少ない場所がある。気づいた時には、遅かった。ぼんやりと目を開き、激しい頭痛に襲われた。そして焼けるような腹痛。意識が薄れていく時、やけに下半身の風通りが良かったことを覚えている。
目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。そうだ、その日から少女の夢を見るようになった。
『思い出してくれた?あの時、いのちを助けたのは私なの。だから今度は、あなたが私を助けて』
「別に、助けてなんてお願いしてないわ。嫌な記憶まで思い出させて何なのよ!早くあたしの体から出ていって!」
『そう……。残念だわ。それならあなたには、死んでもらわないと』
「え?どうしてよ」
『あなたの代わりは他にもいるのよ。みんなで作ったの』
「な、何を作ったのよ……」
『美人』
「何よ、それ」
『あなたのように、生身の人間の体内に入り込んで、美人を大量生産したの』
「何をする気なの」
『男どもに復讐よ』
私に選択肢はなかった。まだ、死にたくない。無言で頷いたその後、また太ももに痛みが走る。
「痛い」
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