美人製造機 ―生産・正餐・凄惨・清算―

白美希結

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凄惨な心

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凄惨な心
※「凄惨」(せいさん)
 -思わず目を背けたくなるような惨たらしいこと-
 (この物語は性的暴力を含む描写があります)
 
「待たせてんじゃねぇ。アレンちゃんよぉ。約束通り、今日は何にも着けてきてないよな?」
「つけてきてないよ」
「よし。お利口さんだ。こないだはお前が約束を破ったせいで、俺が殴られたんだからな。アレンちゃんだって悲しいだろ。大好きな俺が殴られたりしたら」
「わたしのなまえは、アレンじゃない」
「そんなこと知ってるよ。いい加減、この呼び名に慣れてくれよ。めんどくせぇなぁ」
 
 アレンの本名は『山田千代子』パッとしないのは名前だけじゃない。見た目もだ。
 高校一年の冬に初めて告白された。もちろん、お断りした。しかし、千代子は諦めず半年の間に二十回以上、告白してした。さすがにめんどくさくなった俺は、千代子に言った。
「俺の言うことを何でも聞いてくれるなら」
「もちろんよ!和也くんの為なら、何でもするわ」
 千代子は約束通り、何でも言うことを聞いた。最初のうちはパシリ的な感じだったが、思春期の男が考える事はろくでもない。
 千代子の呼び名が『アレンちゃん』になったのは、『レンタル穴』を略したのだ。言葉通り、誰にでも穴を貸す。その斡旋をしているのが俺である。
 相当捨てられるのが嫌らしく、何でも言うことを聞く。初めの頃は、泣きながら穴貸しをしていたが、今は何も感じないらしい。ただ、俺から褒められる為に生きているのだ。
 もちろん、報酬に金銭を受け取っている。大した金額ではないが、ほぼ不労所得に近い。千代子は絶対に金銭を受け取らない。何を考えているのか分からなくて、気持ちが悪い。いや、そんな言い方をしたら、バチがあたる。もっと大切に扱うべきだ。唯一無二の商品なのだから。

 
 「おむかえにきてね」
 「今まで一度も来なかったことないだろ。アレンちゃんは僕の一番大切なものなんだよ」
 甘い声で囁いた。
 ……おかしいな。アレンの様子が変だ。いつもなら、耳を赤くして、溶けてしまいそうな目をするのに、無表情だ。まぁそんな事はどうでもいい。
「また後でな」
「おわったらいい子だねってほめてね」
 そう言って、アレンはホテルに入って行った。

「はい。おかね」
 駅のホームで渡された。こんな人混みでやめろ。本当に気の利かない女だ。
「これだけか?」
「そうだよ」
 また、やられた。後輩だからってなめてやがる。こないだも約束の金額より少なかった。
『今回はしっかりとお願いしますよ』と念を押したのに。あのクソ野郎。
「金が足りなかったら戻ってくるなと言っだろ。何でもして約束した金額をもってこいよ」
 アレンの内太ももから血が流れている。
 人が多すぎる。会話の内容も聞かれたくない。なるべく小声で話した。
「あたし、なんでもいうこときいたよ。それなのにいい子じゃなかった?」
「今回はダメな子だったな」
 アレンの瞳に宿っていた光が消えた。そう思った次の瞬間、急行列車に飛び込みあっという間にアレンの身体も消えた。
 急ブレーキの音が耳障りに感じたが、俺はその場を静かに離れた。呆気なく大切な商品は壊れた。
「まじかよ。でもまぁ、荒稼ぎ出来たからいいか。さて、新アレンを見つけなくちゃな」

 退屈な高校生活に戻ってしまった。早く『新アレン』を用意しろと顧客からも催促がうるさい。そんなに簡単に見つかる訳がないのだ。
「おい!和也!」
 同級生の真一郎が大声でやってきた。
「うるせぇなぁ。なんだよ」
「転校生が来たぜ」
「高校にもなって転校生なんて珍しくないか?」
「その辺の事情はよく分かんねぇけど、とりあえずものすごい美人なんだよ」
「それが何だ。興味ねぇ」
「あの子をさ、『新アレン』候補にどうかなと」
「バカな事言ってんなよ。美人を操れる訳ないだろ。千代子はモテないやつだったから『アレン』になれたんだぜ。美人は男に困ってない」
「まぁ、いいからとりあえず、見に行こうぜ」
 確かに、真一郎の言う通り『新アレン』がとびきりの美人だったら報酬の値上げも可能だ。顔面偏差値が高い事に越したことはない。

 廊下に男女の人溜まりが出来ていた。輪の真ん中で困った表情をして立っているのが「水橋百合」と言う転校生らしい。
 格が違う綺麗さだ。住む世界が違う。幻でも見ているのかと錯覚しそうになった。そんな彼女が俺の目を見て微笑んだ気がする。
 学校中の男子が彼女に夢中で、毎日誰かに告白されていた。そんな奴を女子達が黙って見ているわけがない。しかし、驚く事に防衛隊が出来たのだ。変な虫がつかない様に彼女を守るというのだ。

「和也……くん?」
 赤点補習の再テスト中、後ろから透き通るような声で話しかけられた。思わず驚いてしまい、ダサい姿を見られてしまった。
「百合ちゃん?」
「驚かせてしまってごめんなさい」
「どうして、俺の名前知ってるの」
「お友達に教えてもらったの。勝手にごめんなさい。こんな女じゃ嫌わちゃうわよね」
「いや、そんな事はないけど、何か用?」
「初めて私と会った時の事、覚えてる?」
「うーん……。確か、百合ちゃんが、みんなに囲まれてた時かな……」
 鮮明に覚えているのに、曖昧なふりをした。
 「正解!覚えていてくれて、嬉しい」
 「俺もさ、聞きたい事があったんだ。もしかしてあの時、俺に微笑んでくれた?」
 「気づいてくれたのね。やっぱり、私が思っていた通りだった」
 「どういう事?」
 「和也くんが救世主だって、一目見ただけでわかったの。だからお願い……。私の彼になって欲しいの」
 意味を理解するのに、数秒を要した。
 「お、俺に言ってるの?」
 「そうよ。すごく恥ずかしい。いきなりごめんなさい」
 断る理由など存在しない。まさか、向こうから寄ってくるとは思わなかった。俺はなんてラッキーな男なんだろう。これで『新アレン』が誕生しそうだ。
 「百合ちゃんが望むなら、別にいいよ」
 「本当に?私、すごく嬉しい……。和也くん、ありがとう。これからよろしくね」

 ー『俺に微笑んでくれた?』だって。よくそんなことを平気な顔して聞けるな。この自意識過剰のゲス野郎。お前は、千代子の心を凄惨に殺したのだ。何が『百合ちゃんが望むなら』だ。かっこつけやがって。ふざけるのは顔だけにしろー

 俺と百合の関係はあっという間に広まった。ライバル達に嫌がらせをされたが、百合が俺を守ってくれた。
 「私の大切な人をいじめないで」
 その一言で十分だった。
 百合と体の関係を持ってから『新アレン』候補の考えは、完全に消滅した。むしろ、誰にも触らせたくない。俺だけの物だ。
 「ねぇ、和也くん。聞いてほしいお願いがあるの」
 「任せろ!百合をの願いを叶える為なら、何でもする」
 「そう言ってくれると思ったわ。ありがとう。ついてきてほしい所があるの」
 「わかった。一緒に行く」
 
 見覚えのあるホテルの前に着いた。
 「私ね、一度来てみたかったの。大好きな彼と」
 「それが、百合の願い?なぁんだ。こんな事だったのか」
 エレベーターに乗り、部屋に入った。今日も百合に触れられると思うだけで、体が火照る。
 「先にシャワー浴びさせて」
 そう言って、百合はドアを閉めた。

 水の音が聞こえない事を不思議に思い、浴室に向かおうとしたその時、見知らぬ男が立っていた。
 抵抗する間もなく、腹を殴られベッドに倒れ込んだ。
 ……それからの記憶はない。激痛で目を覚ました。尻が痛い。シーツには血が付いている。人の気配を感じ振り向くと、体育座りをした百合が、微笑んでいた。
 「いい子だね。アレン君」
 右頬に手を添えて甘い声で囁いた。
 その言葉にゾッとした。
 「な、何を言ってるんだ。なんでこんなことを……」
 「和也くんは、報酬にお金をもらっていたでしょ。私はね、違うの。その代わりに、次の人を紹介してもらう事が条件なの。だからね、途切れる心配がないんだぁ。頭いいでしょ?」
 吐き気がする。一体こいつは、何者なんだ。
 「明日もよろしくね」

 この地獄は続くであろう。得体の知れないこの女からは逃げられない。千代子の友達なのか?いや、あいつには友達など居なかった。なぜだ。誰なんだ。
 今、俺は見覚えのあるホームにいる。しかし、あの時とは違う景色を見ている。
 百合のスカートが風で捲られた。俺がこの目で最後に見たものは、太ももの薔薇だった……。
 

 
 
 
 
 
 
 





 
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