うだつの上がらないエッセイ集(たまに自由研究)

月澄狸

文字の大きさ
26 / 70

懐かしい吹奏楽部(吹奏楽部あるあるを読んで)

しおりを挟む
 思い出というのは、何かきっかけがないと鮮明に思い出せない。今までに体験したことの記憶はすべてあるはずなのに、「その時どうだったか?」と聞かれると大抵忘れている。
 それでもきっかけに触れれば「ああ、そうだった!」と懐かしく思い出される。

 以前本屋で「吹奏楽部あるある」という本を見かけ、懐かしくなって買った。
 私は吹奏楽部だったが、もうきつかった練習のことはあまり思い出せないし、楽器も吹けないだろう。これから先、楽器と関わることもないかもしれない。それでも「吹奏楽部あるある」を読んでみるとどれも「そうそう!」と頷けて、吹奏楽部とのご縁を感じられた。自分は体験しなかったような話でも身近に感じられ、他の学校の吹奏楽部の雰囲気を覗けたようで楽しかった。今でも吹奏楽部の一員であるような気持ちだ。

 吹奏楽部には、吹奏楽部特有の空気が流れている。吹奏楽部に限らず他の「世界」でもそうかもしれないが。本を読んだことで懐かしい記憶を刺激された。仲間とあちこちのホールで練習したこと、舞台に上がったこと、3Dバンド・ブックで練習したこと、色々な吹奏楽曲に触れられたこと、練習中にみんなの音が合わさったこと、演奏会で演奏したこと、文化祭の演奏で盛り上がったこと……。

 メトロノームやチューナーなどの道具も懐かしい。
 よくロングトーンで肺活量を鍛える特訓をしたっけ。腹筋などの筋トレもやったし、学校のまわりを走ったこともあった。

 もちろん良い思い出だけじゃなく、空気の読めない私は怒られることもあったし、今思うと良くないことをしたなという失敗も多い。練習も毎日あってキツかった。

 それでもなんだかあの頃は毎日が輝いていて楽しかった。学校の雰囲気自体好きだったのかもしれない。クラスメートも面白かったし、授業も物作りをできたりして好きなのがいくつかあった。学校には中庭があり、中庭や学校のまわりを散歩したりもした。一人でいる時間も多かったけれど、あれはあれで青春だったんだろうな。


 きっかけがないと思い出せないことでも、こうして思い出してみると次から次へと出てくる。

 合奏していたときは、ホルンのメロディーが綺麗でいいなぁと思った。あと、アフリカンシンフォニーで出てきたティンパニの音がカッコよかった。勢いのある曲のラストを盛り上げるスネアドラムもカッコいい。

 薄暗いホールの雰囲気や、他の学校との合同練習も懐かしい。


 そういえば仮入部の時……。まだ部活が何かを知らなくて、敬語を使わなくてはならないということも知らなくて、新一年生はみんなタメ語で先輩と楽しそうに喋りながら楽器を吹いていた。
 私は進研ゼミの本で「部活では先輩に対して敬語を使う。上下関係が大切」という話を先に読んでいたけれど、先輩たちは仮入部では誰もそんなことを言わなかったし、新一年生も誰も敬語を使わなかったので、「あれっ? おかしいな、あの情報が間違っていたのかな……」と空気に流されていた。

 しかし入部してみると途端に上下関係は厳しくなり、練習もハードになった。しばらくはそれでも早く帰らせてもらえたけれど、その後、家に帰る頃には既に暗くなっているという事実に驚いた。
 演奏や練習、挨拶の仕方にやる気がないと先輩や先生から叱られることも多くなり、サボれない、ふざけられない空気ができあがっていた。やっぱり吹奏楽部は厳しかった。


 さて、厳しくも楽しく、懐かしい吹奏楽部だけれど……今、あの頃に戻れるとしたらどうだろう。もうダメだろうな。今では私は頑張らなくて済む方法を考えているし、上下関係も好きじゃない。厳しく言わなくても伝わるであろうことをあえて厳しく言ったり、努力を美徳とする風潮にも納得できない。

 それでも……。
 あの頃は一応努力し、頑張っていたからこそ得られていた輝きがあったのだと思う。精一杯頑張れば、居心地が悪くなることはない(自分で居心地が悪いと思わなければ)。

 私は今後、あの時以上の輝きをつかめるのだろうか……。いや、つかむしかない。過去の輝きを懐かしんで力を得つつ、これからは自分のやり方を探そうと思う。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

カクヨムでアカウント抹消されました。

たかつき
エッセイ・ノンフィクション
カクヨムでアカウント抹消された話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...