高慢エルフはルームシェアに向いてない!

なずとず

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4-2 学友たちとの飲み会

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 飲み屋街の一角。大学生時代から通っていた馴染の居酒屋は今日も盛況だ。

 東方から進出してきたスタイルの店で、軽い食事と安酒を楽しめる。金の無い大学生でも気軽に飲み食いできるとあって、客層は全体に若い。もちろん俺たちもそんな一員で、大学を卒業し各々就職を果たした後でも、ここへ集合して他愛もない話をするのだった。

 テーブル席ごとに木のついたてで区切られているから、俺たちの部屋も半個室になっている。既に味が濃いおつまみと、各々の頼んだグラスが並んでいて、俺たちはそれを取るとまずは乾杯を交わした。

「アズマちゃんの新居をお祝いして~!」

 いつも通り、女みたいな恰好をしたマナランダー、ニルジールが甲高い声でそう笑う。

「ちょ、ニルジール! そんなの別に祝わなくていいよ!」

「アズマっち、そんなこと言って、前回の飲みでは「ホームレスになったらどうしよ~!」とかってクヨクヨしてたっしょ。無事住むとこ見つかって良かったじゃん。なあ、ヴァノン」

 俺と同じ人間でも、大柄で屈強な部族のライガはそう明るく笑って、隣のヴァノンに同意を求める。

「そ、そうそう、ライガ先輩の言う通りですよ、アズマ先輩。まずはひとつ上手くいったということで。かんぱーい!」

 事情を知っているヴァノンが、その大きな犬っぽい耳を倒しつつも明るく乾杯をする。俺も苦笑して、それに乗っかった。確かに、ひとつ上手くいったは間違いないんだ。

 俺たち4人は同じ大学で、同じ福祉系の学科に所属していた。ゼミや飲み会で知り合い、気が合った相手を紹介して……の繰り返しで集まったグループの一員だ。そんな中で、この地域に残ったメンツ、ということになる。

「でもホント、アズマちゃんが急に仕事辞めちゃったから、心配してたのよぉ。ダイジョウブ? もしメンタルにきてるなら、アタシの睡眠療法で癒してあげるわぁ」

 そう色っぽく囁いてくるのが、ニルジール。コイツは俺たちの中でも結構特殊だ。

 世界に平和が訪れてから、マナランダー──昔でいうところのいわゆる魔族たちも、人類に混ざって生活し始めた。とはいえ、文化や生活スタイルが違うのでなかなかクセがある。

 ニルジールもそんなひとりで、彼はいわゆるオネェみたいな夢魔。その能力を活かして、今は睡眠療法士として働いてる。まぁ問題は、夢魔ってちょっと、淫魔みたいなところがあるから……正直真っ当な店で働いているのかは、俺にも自信がない。

「大丈夫だよ、ニルジール。仕事を辞めたのは、体力がもたないってなっただけだし。まぁ、嫌な人とかも多かったけどさ……。もうちょっと体力的にキツくない仕事がないかなって思ってる」

 俺が苦笑しながら酒をあおると、ニルジールも困り眉を寄せながら「そーお?」と首を傾げた。

「アタシ、アズマちゃんのこと結構好きだから、別にメンタルにきてなくても夢、見させてあげたいんだけどぉ」

「ニルってばそっちが本音じゃーん、もー諦めなって。アズマっちには何回も友達だって言われてるしょ~」

 笑いながらニルジールを茶化しているのは、ライガだ。俺と同じ人間だけど、ライガはとある島国を中心に活動している一族である。筋骨隆々の逞しい色黒の体に白い髪が特徴的で、力仕事にとても適性がある。わりと真面目で寡黙な人が多い印象だけど……ライガはいわゆるチャラ男という感じだった。

 ライガも俺と同じく介護士をしているけど、こっちは上手くいってるらしい。体力と腕力はあるし、それに本人がこういう性格なので、楽しんでやれているみたいだった。

 飲みの席では比較的静かにチビチビやってるのが後輩のヴァノン。カウンセリング方面に進んだヴァノンは、いつも穏やかにこうして俺たちのやり取りを見ていることが多い。そういう性質がいいんだろう、それなりにクライアントからの評判もいいし、仕事は上手くいっているようだった。

 それに比べて、俺は。そう考えると、気持ちが自然としょげてくる。

 孤児院で育ててくれた管理人のじいちゃんみたいに、優しくて人の役に立てるようになりたいと思ったのは随分前のことだ。それでこの道を志して、大学を卒業して……数多の種族が混じり合うこの街で、介護士を普通の人間がするのはあまりに過酷だって現実をつきつけられた。

 風呂を嫌う獣人族の入浴介護は本当に大変だし、ドワーフの頑固さと短気さにはメンタルがすり減る。同じ人間でも何かしら特色がある一族の人たちは前線で活躍しているのに、東方ルーツの俺は良くも悪くも無個性で──仕事を終えるとヘトヘトで寝込むような日々が続いた。

 いつかは筋肉や体力がついて、皆と同じように働けるんだ……という夢物語は叶うはずもなく。俺は次第に体を壊していき、ついに過労により入院した辺りで、この仕事への諦めがついた。というより、諦めなければいけない気がした。

 ということで仕事を辞めたはいいが、介護士しか目指してなかった俺には次の行き先がわからない。短期のアルバイトを探すにも、まだ体も本調子か自信がない。しばらくは療養も兼ねてのんびりしたいけど、家賃がかさむのは避けたい。

 そんなわけで、俺はセレのシェアハウスへと転がり込んだのだ。これまでの経緯を思い出し、俺はなんとなく苦い気持ちになった。

 


「ねえねえ、アズマちゃんっ。アタシ、アズマちゃんの新居に行ってみたい! 住んでるとこ教えてよぉ」

 飲み会も進んだある時、酔って頬を染めたニルジールが俺の手を握ってそう言った。長くて尖りギラギラした付け爪の指が、俺の手の甲を撫でている。いつものことなので、俺はあまり気にせず、けれど「あー……」と言葉を濁した。

「だ、ダメだと思いますよ、ニルジール先輩。だって、アズマ先輩はシェアハウスに住んでるし……」

 ヴァノンが慌てたように助け舟を出してくれたけど、ニルジールとライガは「シェアハウス⁉」と大きな声を出したもんだから、話は余計にややこしくなったと直感した。

「シェアハウスってアズマっち、もう学生じゃないのに~。確かに安いかもだけどさ」

「そんなことよりシェアってことはアズマちゃん、今誰かと同棲なんでしょ!? どんな人、ねぇどんな人なのっ。ああ~~、アタシのアズマちゃんが先に取られちゃった……」

 めちゃくちゃ食いついてきたふたりに、俺は苦笑いをしながら答えた。

「いや、まぁめちゃくちゃ安かったからさ。その、同居人がエルフだから……」

「「エルフ⁉」」

 またふたりの声がハモる。俺はちらっとヴァノンを見て助け舟を求めた。ちょっとこいつら黙らせてくれない? と。しかしヴァノンは「無理です」と言わんばかりに首を振っている。

 まあ、無理だよなぁ。こんなに食いついてたら。

「イヤーッ、エルフなんてチート美形揃いじゃないのっ! そんなのっ、そんなのっ、アズマちゃんに耐えられるはずないわ! やぁあん、アズマちゃんに抱かれるのはアタシのハズだったのにぃ~!」

「いやニルっちには絶対脈無いっしょ。でもアズマっち大変じゃね? エルフって結構文化違うし」

 大きな声で嘆くニルジールと、興味津々で聞いてくるライガ。俺は適当に話を終わらせようと思って、「まぁ、そうだなぁ」と頷いた。

「でも、アイツは話せばちゃんとわかってくれるし、一緒に住んでてもそんなに苦じゃないよ」

 言ってから、自分にホントか? と問いかける。これまで結構、色々あったような。

 初日から言葉遣いと文化のことで仲違いしかけたし。飯のことで色々考えて色々してきたよな。セレの夢の世界に迷い込んだときには、危険な思いもした。それってたぶん、同じ人間同士ならあんまり無かったことのような気もする。

 それに。初日から好きだって言われて、ハグされて。寝てるところを至近距離で観察され、挙句抱き上げられてキスまで——。

 そう考えると、どうにも顔が熱くなって、胸がドキドキする。脳裏にセレの整った顔と、流れる金の髪が浮かぶ。彼の優しい香りや、人肌の温もりを思い出してしまうのだ。

 そんな俺に、ニルジールは「ああっ」と声を上げた。

「アズマちゃん、アナタそのエルフに恋しちゃってるのね!」

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