高慢エルフはルームシェアに向いてない!

なずとず

文字の大きさ
11 / 34

4-3 恋のおまじない

しおりを挟む
「は?」

 俺は思わず素っ頓狂な声を上げた。ところがニルジールときたら感動したと言わんばかり、涙さえ浮かべて俺の手をぎゅっと握っている。

「わかるわ、わかるのよっ。アタシは夢魔だもの、アナタがどんな思いをその子に抱いてるからぐらいわかるわ! そんなにドキドキするなんて、きっと恋よ、そのエルフのことが好きなのよ!」

「いやニルっち。ドキドキしてるだけで決めつけはよくなくない?」

「そ、そうですよニルジール先輩。アズマ先輩はただ同居人と仲良くしているだけで……ねえ、アズマ先輩?」

 ライガもヴァノンもそうニルジールをたしなめてくれたけど、俺はというと、答えに窮していた。

 恋? 好き? いやそんなわけない、だってまだ一緒に暮らし始めて少ししか経っていないし、セレのことはなにも知らないし。確かにドキドキはするけど、それはセレが距離感おかしいだけだし……。

 でも。同じことを他の人にされたらどうだろう。例えばニルジールとかライガにされたら。絶対ドキドキするどころじゃない、怒って突き飛ばして終わりだ。それなのに、セレだとどうしていいかわからなくなって、やんわりと逃げることしかできない。

 なら、他の人とは違う特別な何かを感じているのだ、と言われてしまえばそうかもしれない。それが、好きとか恋とかいうことなのかはわからないけど──。

「あ、アズマ先輩?」

「アズマっち~?」

「アアーッ、そうやって返事に困るってことがもう証拠よぉ! はぁん、アズマちゃんに好きな人……アタシ悲しい、でも嬉しいッ」

「ち、違う、違うそうじゃなくて、いや勝手に盛り上がらないでニルジール」

 慌てて首を振ったけど、「顔赤いべ、アズマっち」と言われてしまう。いやいやまさか、そんなわけ。混乱している俺に、ニルジールは涙さえ浮かべながら囁いた。

「でもアタシ、アズマちゃんの幸せを応援するわ。アナタがこの先うまくいくようにおまじないしてあげる」

「エッ」

 そういうや否や、ニルジールは俺の手の甲にキスをした。

「ウワーッ!」

 叫んで手を引いたけど、俺の手の甲にはめちゃめちゃくっきりとニルジールの口紅がついていた。これじゃあ色んな誤解も生まれそうなもんじゃないか。紙ナプキンで拭いてみたけど、完全には跡が取れない。

「ニルジール! そういうのいいってば! この話は終わり、終わり!」

「えー」

「えーじゃないっ。ほらヴァノン、新しい話題ッ」

「ええっ、えっ、えっと、あっ! 皆さん知ってます? 今度郊外に新しく、ドラゴンカフェができたんですよ! ドラゴンと一緒にご飯が食べられて、目の前で火のブレスでお肉焼いてくれたりするそうですよ!」

「ヴァノンめっちゃ露骨に話逸らすじゃんウケる。でも超気になるじゃんそのお店。どこどこ?」

「ドラゴンって、本物のドラゴンってコト? アタシも見に行きたいわぁ、ドラゴンってとってもキュートなお腹してるじゃない? 撫でてもいいのかしら?」

「えー、ドラゴンってめちゃカッコよくない? あの鱗がゴツゴツしてて、ジャジャーンってしてるところ」

「なに言ってるのよ、お目目がつぶらでかわいいでしょ、キュートなの!」

 ヴァノンのアシストで、どうにか話題はドラゴンカフェへと流れていった。ほっと安堵の溜息を吐いてヴァノンを見る。彼は俺を見るとニコッと笑ったから、俺も小さく頭を下げた。今度また、なにかお礼に美味しいもんでもおごってやらなきゃな。その前に再就職してなきゃだけど。

 俺は気を取り直して、ドラゴンカフェの話題へと加わった。胸がまだドキドキするのも、頬が熱いのもきっとアルコールのせいだ。そう言い聞かせながら。




 飲み会がお開きになった頃には、外はすっかり真っ暗になっていた。俺たちは店の前で分かれた。また泣き出したニルジールが大きく手を振っているのに笑って手を振り返して、俺はひとり帰路につく。

 暗い夜道には人の姿もまばらだ。それでも駅前までいけば、多種多様な人類が集まることだろう。それまでは、少し静かな道を進む。

 ひさしぶりに楽しく飲んで、アルコールも入っていてフワフワいい気分だ。冬の冷たい空気が、ひんやりと頬に気持ちいい。さあ家に帰ろう。きっとセレが首を長くして待ってるぞ。か弱い人間は夜更かしをしてはいけない、早く寝ろとか言うかもしれない——。

 そんなことを考えながら、駅への道を歩いていた俺は。

「このエルフ野郎、なんか言ってみろ!」

「俺たちのことを馬鹿にしてるんだろ!」

 なにか怒鳴っている声が聞こえて、反射的にそちらを見る。ふたりの小柄なドワーフに囲まれて、誰かが詰め寄られているのがわかる。俺はじっと目をこらして、そして一瞬で酔いが覚めるのを感じた。

 なにしろ、ドワーフたちにたかられていたのは、セレなのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

脳筋剣士と鈍感薬師 ~騎士様、こいつです~

季エス
BL
「ルカーシュは、駄目よ」  その時胸に到来した思いは安堵であり、寂しさでもあった。  ルカーシュは薬師だ。幼馴染と共に、魔王を倒すために村を出た。彼は剣士だった。薬師のルカーシュは足手纏いだった。途中で仲間が増えたが、それでも足手纏いである事に変わりはなかった。そうしてついに、追い出される日が来たのだ。  ルカーシュはそっと、瞼を伏せた。  明日、明日になったら、笑おう。そして、礼と別れを言うのだ。  だから、今だけは、泣いてもいいかな。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない

波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。 異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。 強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。 彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。 しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。 「俺に触れられるのは、お前だけだ」 呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。 となります。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

処理中です...