109 / 130
第109話 高校生スタートアップ、初陣
しおりを挟む
商工会のイベント会場。
空気が冷たくて、吐く息が白い。
冬の太陽がゆっくり昇る中、俺たちは機材を運び込んでいた。
「おはよう、佐久間くん」
会場の入り口で声をかけてくれたのは、商工会の黒田さんだった。
今回のイベントも黒田さんが段取りしてくれた。――ほんとに頼りになる人だ。
「黒田さん、おはようございます! 今日もよろしくお願いします!」
「こちらこそ。高校生ブース、楽しみにしてるよ。
しっかり頑張ってくれ!」
黒田さんは笑いながら、足元の段ボールを指さした。
「人手がいるだろうと思って、うちの若手を何人かつけておいたよ」
「ありがとうございます!」
佐藤が満面の笑みで手を振る。
相川は早速、机の位置を確認し始めた。
――設営開始。
四人と商工会スタッフでテントを立て、ポスターを貼り、端末を並べる。
TRY-LOGのロゴが冬の光に反射して、キラリと光った。
―
設営が終わり、いよいよ開場時間が迫ってきた。
会場入口の看板には、こう書かれている。
【Re:Try株式会社】
“努力を、見えるカタチに。”
TRY-LOG無料体験ブース
ブースは四つに分かれている。
白い布の仕切りの向こうから、準備の音が響いてきた。
「よし、ブースチェックいくぞ」
俺が声を上げると、篠宮がタブレットを構える。
「動作確認、任せろ」
相川が腕を組んでモニターをのぞき込む。
「問題なし」
佐藤が拳を握って叫ぶ。
「さぁ! やってやろうぜ!」
―
【クエスト発生】
タイトル:「社会への挑戦。その第一歩」
内容:目標来場人数を達成し、イベントを成功させろ。
報酬:行動指数(筋力)+2/継続性(耐久力)+2/SP+5/信頼度(佐藤大輝)+3/信頼度(相川蓮)+3/信頼度(篠宮智也)+5
―
――筋力ブース
「はい次の方、どうぞー!」
佐藤が笑顔で呼び込む。
机の上には、カウント用のセンサー。
「腕立て10回で筋力ゲージが光るよ! トライがどんどんたくましくなるから!」
少年が挑戦し、端末の画面にトライの姿が映る。
初期状態では細身のキャラが――
腕立てのたびに、筋肉がついていく。
胸板、二の腕、腹筋。
最後に「ドンッ」とポーズを決めて、吹き出しが出た。
【筋力+0.2】
『ナイス!その調子!』
「すげー! ほんとに変わった!」
子どもの声に、周囲が笑いで包まれた。
篠宮が小声でつぶやく。
「腕立て10回で、たくましくなりすぎじゃないですか?」
相川も小声で返す。
「実際のアプリ版では調整する。今日はイベント仕様だ。すぐ目に見える方がウケる」
「なるほど」
篠宮がうなずき、再び来場者の列を見やった。
―
――耐久ブース
相川が担当しているのは、スクワットとバランスチャレンジ。
「30秒耐えたらレベルアップだ。……よし、がんばれ!」
トライのアバターが汗を流しながら耐えている。
画面上の背景には風の演出。最後には息を整えて笑った。
【耐久+0.2】
『地道な努力が、未来を変える!』
年配の来場者が感心したように頷く。
「これは健康づくりにも使えそうだねぇ」
「これって、アプリあるんですか?」
来場者が尋ねる。
「今は開発途中ですが、来年の4月にリリース予定です」
俺は笑顔で答え、QRコードを手渡した。
「ここから事前登録できます。登録した方には限定アバターを配布してます。ぜひダウンロードしてみてください」
「絶対します! うわー、楽しみだな!」
思わず、頬がゆるんだ。
―
――知力ブース
篠宮が管理しているのはクイズ端末。
小学生でも解ける問題から、大人向けの雑学まで幅広い。
正解するたびに、トライの頭の上に電球マークが灯り、メガネをかけた知的な姿に進化していく。
【知力+0.2】
『知ることが、挑戦の第一歩だ……』
「へぇ~、かわいい!」
「これ、子どもに勉強させるアプリとしても良くない?」
篠宮は淡々と答える。
「……その通りです。教育現場への導入も、今後の検討項目です」
思わずクスッと笑ってしまう。
(急に企業っぽいな、篠宮)
―
――魅力ブース
最後は俺の担当。
モニターの前に立つと、笑顔診断AIが起動する。
「笑顔スコアを測定して、トライの“魅力”をアップさせます!」
カメラが顔を認識し、モニターのトライが同じ表情を真似する。
子どもがニコッと笑うと、トライもニコッと笑った。
画面が花のように弾ける。
【魅力+0.2】
『笑うたび、君の魅力は進化する!』
周りから「かわいい!」「写真撮ろ!」と歓声が上がる。
気づけば、スマホを構える人の列ができていた。
―
最初はまばらだった来場者も、
口コミや地元新聞の記事効果で、どんどん増えていった。
「来場者、100人突破したぞ!」
佐藤が嬉しそうに叫ぶ。
相川が満足そうに頷いた。
「……いい波、きてるな」
篠宮が微笑む。
「焦らず、地道に。これが正しい成長曲線だ」
―
昼を過ぎたころ、声が聞こえた。
「陽斗くん!」
振り向くと、遥が家族を連れて来ていた。
白いコートの下からのぞく笑顔が、冬の光に映える。
後ろには、遥の両親と悠真の姿。
「お兄ちゃん、これやっていい!?」
悠真が筋力ブースに駆けていく。
トライが全力で腕立てをする姿に、笑い声が上がった。
遥の父が画面を見ながら感心したように言う。
「この前、家に来たときは普通の高校生かと思ってたけど……まさかこんなものを作るとはな。
TRY-LOG、面白い。子を持つ親としても、社員を持つ経営者としても惹かれるものがある。
“努力の見える化”、これは本質だよ」
その言葉に、胸の奥が温かくなった。
数字じゃない“評価”が、こんなに嬉しいなんて。
「おぉ、盛り上がってるじゃないか!」
黒田さんも覗きに来てくれた。
「はい。おかげさまで」
黒田さんは悠真の顔を見た瞬間、
その目がわずかに見開かれた。
……だが、すぐにいつもの柔らかい笑顔に戻る。
「子どもも楽しめるってのが一番だ! この調子で頑張ってくれ!」
そして遥の家族のほうを見て、明るい声で言った。
「弟さん、とても元気で可愛いですね。ぜひTRY-LOGを楽しんでいってください!」
遥はにこっと笑って会釈した。
悠真は得意げに胸を張り、遥の両親も穏やかに頷いていた。
(そうだ。子どもが努力を楽しめる――それが、一番大事だ)
―
午後には、一ノ瀬も来てくれた。
シンプルな黒のコート姿。
周囲の喧騒から少し離れた場所で、静かにブースを見つめている。
「……すごい、人多いね」
「新聞の効果かな。たくさん来てくれて嬉しいよ」
トライのアバターが、画面の中で柔らかく微笑んだ。
一ノ瀬も、ほんの少しだけ笑う。
「いいね。私も、自分のアバター作りたくなってきた」
「ははっ、一ノ瀬のアバターか。興味あるな」
その後も一ノ瀬はブースを見学して、事前登録のQRコードを手に帰っていった。
―
夕方、会場がさらに賑わい始めた。
帽子にマスク姿の女性が近づいてくる。
スタイルの良さですぐにわかった――瑠奈だ。
「先輩、やっほー」
「仕事は?」
「これからまた撮影。せっかくだから、合間に覗きに来た」
彼女はスマホを取り出して写真を撮る。
トライが笑顔を見せるブース。
子どもたちの列。
それらを撮って、さらっとストーリーを投稿した。
《#TRYLOG #努力が見える世界へ》
その後、魅力ブースで笑顔を見せて、その写真も投稿。
最後は「また連絡するね」と手を振り、足早に会場を後にした。
数分後、相川が驚いた声を上げる。
「おい、SNSでバズってるぞ!
“#TRYLOGチャレンジ”がトレンド入りだ!」
佐藤が笑ってガッツポーズを決めた。
「すげぇ! さすがはカリスマモデルだな!」
―
午後4時。
会場には人、人、人。
佐藤がコーチをしている地元の陸上クラブの教え子たちもやってきて、腕立て大会が始まった。
「コーチ、これ最高っす!」
「お前ら、フォーム崩れてんぞ! もっとまっすぐ!」
ブースは笑いと熱気でいっぱいになった。
相川の父も現れて、笑いながら言う。
「TRY-LOGか……蓮が小さい頃に、これがあったらよかったかもな」
さらに、そのあと相川の姉たちが登場。
三人そろって美人で、スタッフが一瞬静まり返る。
「蓮、頑張ってんじゃん!」「映える! 写真撮ろ!」
「やめろって……!」
そして、篠宮の母が会場の隅に立っていた。
優しく目を細めながら、息子の笑顔を見つめている。
その視線に気づいた篠宮は、少しだけ照れくさそうに視線をそらした。
――でも、ちゃんと笑っていた。
―
夜。
片付けを終えた会場。
ライトが一つ、また一つと消えていく。
黒田さんが俺たちに拍手を送った。
「いやー、本当にすごかった! 高校生のブースで、ここまで人が集まるとはな!」
俺は頭を下げる。
「……ありがとうございました」
篠宮が集計を終える。
「目標来場者数300人に対して、来場者数418人。
そのうち、事前登録のQRコードは350人に渡した」
相川が頷く。
「上出来だな」
佐藤が満足そうに笑う。
「いや、大成功だろ! めっちゃ盛り上がったな!」
―
【クエスト達成】
タイトル:「社会への挑戦。その第一歩」
内容:目標来場人数を達成し、イベントを成功させろ。
報酬:行動指数(筋力)+2/継続性(耐久力)+2/SP+5/信頼度(佐藤大輝)+3/信頼度(相川蓮)+3/信頼度(篠宮智也)+5
―
会場の外に出ると、夜空に雪が舞っていた。
四人並んで、息を吐く。
「……俺たち、なんか本当に“会社”っぽくなってきたな」
佐藤が笑う。
「確かに。高校生のくせに、名刺とか数字の話してるもんな」相川が肩をすくめる。
篠宮も笑った。
「でも、こうやって動いてるの、悪くない」
俺も頷く。
「だろ? まだ始まったばっかだけどな」
TRY-LOGのロゴが、街の明かりの中で光った。
――努力は、もう“見える”だけじゃない。
“届く”ようになったんだ。
雪が静かに降る。
Re:Tryの挑戦は、まだ始まったばかりだった。
―
【Project Re:Try:“資金集め”/第四段階レポート】
※【 】内は今回上昇分
◆日時:12月24日
◆目標:300万円の資金調達
◆進行状況:Phase.04 進行中
◆目的
「“努力の記録”を、“社会に届く形”へ昇華させる」
――“伝わる努力”から、“広がる努力”へ。
◆メンバー構成
・佐久間 陽斗(CEO/代表・企画)
行動指数(筋力):40.5 【+2】
継続性(耐久力):36.0 【+2】
構想力(知力) :43.2
共感力(魅力) :49.2
SP:19 【+5】/スキル保持数:32
・佐藤 大輝(COO/営業統括)/信頼度:88 【+3】
・相川 蓮(CTO/開発・解析)/信頼度:69 【+3】
・篠宮 智也(CFO/財務)/信頼度:55 【+5】
◆資産状況
総資産:670,000円
◆進行状況
・商工会イベント当日 → 目標達成
・資金計画の試算完了(目標金額:300万円)
・クラウドファンディング構想、検討段階
◆次段階予定(Phase.04:資金調達・組織拡張)
・TRY-LOGアプリ版制作準備
・資金調達(必要額: 約230万)
――これは報告書でもあり、“未来へ進むためのログ”でもある。
(記録者:佐久間 陽斗)
空気が冷たくて、吐く息が白い。
冬の太陽がゆっくり昇る中、俺たちは機材を運び込んでいた。
「おはよう、佐久間くん」
会場の入り口で声をかけてくれたのは、商工会の黒田さんだった。
今回のイベントも黒田さんが段取りしてくれた。――ほんとに頼りになる人だ。
「黒田さん、おはようございます! 今日もよろしくお願いします!」
「こちらこそ。高校生ブース、楽しみにしてるよ。
しっかり頑張ってくれ!」
黒田さんは笑いながら、足元の段ボールを指さした。
「人手がいるだろうと思って、うちの若手を何人かつけておいたよ」
「ありがとうございます!」
佐藤が満面の笑みで手を振る。
相川は早速、机の位置を確認し始めた。
――設営開始。
四人と商工会スタッフでテントを立て、ポスターを貼り、端末を並べる。
TRY-LOGのロゴが冬の光に反射して、キラリと光った。
―
設営が終わり、いよいよ開場時間が迫ってきた。
会場入口の看板には、こう書かれている。
【Re:Try株式会社】
“努力を、見えるカタチに。”
TRY-LOG無料体験ブース
ブースは四つに分かれている。
白い布の仕切りの向こうから、準備の音が響いてきた。
「よし、ブースチェックいくぞ」
俺が声を上げると、篠宮がタブレットを構える。
「動作確認、任せろ」
相川が腕を組んでモニターをのぞき込む。
「問題なし」
佐藤が拳を握って叫ぶ。
「さぁ! やってやろうぜ!」
―
【クエスト発生】
タイトル:「社会への挑戦。その第一歩」
内容:目標来場人数を達成し、イベントを成功させろ。
報酬:行動指数(筋力)+2/継続性(耐久力)+2/SP+5/信頼度(佐藤大輝)+3/信頼度(相川蓮)+3/信頼度(篠宮智也)+5
―
――筋力ブース
「はい次の方、どうぞー!」
佐藤が笑顔で呼び込む。
机の上には、カウント用のセンサー。
「腕立て10回で筋力ゲージが光るよ! トライがどんどんたくましくなるから!」
少年が挑戦し、端末の画面にトライの姿が映る。
初期状態では細身のキャラが――
腕立てのたびに、筋肉がついていく。
胸板、二の腕、腹筋。
最後に「ドンッ」とポーズを決めて、吹き出しが出た。
【筋力+0.2】
『ナイス!その調子!』
「すげー! ほんとに変わった!」
子どもの声に、周囲が笑いで包まれた。
篠宮が小声でつぶやく。
「腕立て10回で、たくましくなりすぎじゃないですか?」
相川も小声で返す。
「実際のアプリ版では調整する。今日はイベント仕様だ。すぐ目に見える方がウケる」
「なるほど」
篠宮がうなずき、再び来場者の列を見やった。
―
――耐久ブース
相川が担当しているのは、スクワットとバランスチャレンジ。
「30秒耐えたらレベルアップだ。……よし、がんばれ!」
トライのアバターが汗を流しながら耐えている。
画面上の背景には風の演出。最後には息を整えて笑った。
【耐久+0.2】
『地道な努力が、未来を変える!』
年配の来場者が感心したように頷く。
「これは健康づくりにも使えそうだねぇ」
「これって、アプリあるんですか?」
来場者が尋ねる。
「今は開発途中ですが、来年の4月にリリース予定です」
俺は笑顔で答え、QRコードを手渡した。
「ここから事前登録できます。登録した方には限定アバターを配布してます。ぜひダウンロードしてみてください」
「絶対します! うわー、楽しみだな!」
思わず、頬がゆるんだ。
―
――知力ブース
篠宮が管理しているのはクイズ端末。
小学生でも解ける問題から、大人向けの雑学まで幅広い。
正解するたびに、トライの頭の上に電球マークが灯り、メガネをかけた知的な姿に進化していく。
【知力+0.2】
『知ることが、挑戦の第一歩だ……』
「へぇ~、かわいい!」
「これ、子どもに勉強させるアプリとしても良くない?」
篠宮は淡々と答える。
「……その通りです。教育現場への導入も、今後の検討項目です」
思わずクスッと笑ってしまう。
(急に企業っぽいな、篠宮)
―
――魅力ブース
最後は俺の担当。
モニターの前に立つと、笑顔診断AIが起動する。
「笑顔スコアを測定して、トライの“魅力”をアップさせます!」
カメラが顔を認識し、モニターのトライが同じ表情を真似する。
子どもがニコッと笑うと、トライもニコッと笑った。
画面が花のように弾ける。
【魅力+0.2】
『笑うたび、君の魅力は進化する!』
周りから「かわいい!」「写真撮ろ!」と歓声が上がる。
気づけば、スマホを構える人の列ができていた。
―
最初はまばらだった来場者も、
口コミや地元新聞の記事効果で、どんどん増えていった。
「来場者、100人突破したぞ!」
佐藤が嬉しそうに叫ぶ。
相川が満足そうに頷いた。
「……いい波、きてるな」
篠宮が微笑む。
「焦らず、地道に。これが正しい成長曲線だ」
―
昼を過ぎたころ、声が聞こえた。
「陽斗くん!」
振り向くと、遥が家族を連れて来ていた。
白いコートの下からのぞく笑顔が、冬の光に映える。
後ろには、遥の両親と悠真の姿。
「お兄ちゃん、これやっていい!?」
悠真が筋力ブースに駆けていく。
トライが全力で腕立てをする姿に、笑い声が上がった。
遥の父が画面を見ながら感心したように言う。
「この前、家に来たときは普通の高校生かと思ってたけど……まさかこんなものを作るとはな。
TRY-LOG、面白い。子を持つ親としても、社員を持つ経営者としても惹かれるものがある。
“努力の見える化”、これは本質だよ」
その言葉に、胸の奥が温かくなった。
数字じゃない“評価”が、こんなに嬉しいなんて。
「おぉ、盛り上がってるじゃないか!」
黒田さんも覗きに来てくれた。
「はい。おかげさまで」
黒田さんは悠真の顔を見た瞬間、
その目がわずかに見開かれた。
……だが、すぐにいつもの柔らかい笑顔に戻る。
「子どもも楽しめるってのが一番だ! この調子で頑張ってくれ!」
そして遥の家族のほうを見て、明るい声で言った。
「弟さん、とても元気で可愛いですね。ぜひTRY-LOGを楽しんでいってください!」
遥はにこっと笑って会釈した。
悠真は得意げに胸を張り、遥の両親も穏やかに頷いていた。
(そうだ。子どもが努力を楽しめる――それが、一番大事だ)
―
午後には、一ノ瀬も来てくれた。
シンプルな黒のコート姿。
周囲の喧騒から少し離れた場所で、静かにブースを見つめている。
「……すごい、人多いね」
「新聞の効果かな。たくさん来てくれて嬉しいよ」
トライのアバターが、画面の中で柔らかく微笑んだ。
一ノ瀬も、ほんの少しだけ笑う。
「いいね。私も、自分のアバター作りたくなってきた」
「ははっ、一ノ瀬のアバターか。興味あるな」
その後も一ノ瀬はブースを見学して、事前登録のQRコードを手に帰っていった。
―
夕方、会場がさらに賑わい始めた。
帽子にマスク姿の女性が近づいてくる。
スタイルの良さですぐにわかった――瑠奈だ。
「先輩、やっほー」
「仕事は?」
「これからまた撮影。せっかくだから、合間に覗きに来た」
彼女はスマホを取り出して写真を撮る。
トライが笑顔を見せるブース。
子どもたちの列。
それらを撮って、さらっとストーリーを投稿した。
《#TRYLOG #努力が見える世界へ》
その後、魅力ブースで笑顔を見せて、その写真も投稿。
最後は「また連絡するね」と手を振り、足早に会場を後にした。
数分後、相川が驚いた声を上げる。
「おい、SNSでバズってるぞ!
“#TRYLOGチャレンジ”がトレンド入りだ!」
佐藤が笑ってガッツポーズを決めた。
「すげぇ! さすがはカリスマモデルだな!」
―
午後4時。
会場には人、人、人。
佐藤がコーチをしている地元の陸上クラブの教え子たちもやってきて、腕立て大会が始まった。
「コーチ、これ最高っす!」
「お前ら、フォーム崩れてんぞ! もっとまっすぐ!」
ブースは笑いと熱気でいっぱいになった。
相川の父も現れて、笑いながら言う。
「TRY-LOGか……蓮が小さい頃に、これがあったらよかったかもな」
さらに、そのあと相川の姉たちが登場。
三人そろって美人で、スタッフが一瞬静まり返る。
「蓮、頑張ってんじゃん!」「映える! 写真撮ろ!」
「やめろって……!」
そして、篠宮の母が会場の隅に立っていた。
優しく目を細めながら、息子の笑顔を見つめている。
その視線に気づいた篠宮は、少しだけ照れくさそうに視線をそらした。
――でも、ちゃんと笑っていた。
―
夜。
片付けを終えた会場。
ライトが一つ、また一つと消えていく。
黒田さんが俺たちに拍手を送った。
「いやー、本当にすごかった! 高校生のブースで、ここまで人が集まるとはな!」
俺は頭を下げる。
「……ありがとうございました」
篠宮が集計を終える。
「目標来場者数300人に対して、来場者数418人。
そのうち、事前登録のQRコードは350人に渡した」
相川が頷く。
「上出来だな」
佐藤が満足そうに笑う。
「いや、大成功だろ! めっちゃ盛り上がったな!」
―
【クエスト達成】
タイトル:「社会への挑戦。その第一歩」
内容:目標来場人数を達成し、イベントを成功させろ。
報酬:行動指数(筋力)+2/継続性(耐久力)+2/SP+5/信頼度(佐藤大輝)+3/信頼度(相川蓮)+3/信頼度(篠宮智也)+5
―
会場の外に出ると、夜空に雪が舞っていた。
四人並んで、息を吐く。
「……俺たち、なんか本当に“会社”っぽくなってきたな」
佐藤が笑う。
「確かに。高校生のくせに、名刺とか数字の話してるもんな」相川が肩をすくめる。
篠宮も笑った。
「でも、こうやって動いてるの、悪くない」
俺も頷く。
「だろ? まだ始まったばっかだけどな」
TRY-LOGのロゴが、街の明かりの中で光った。
――努力は、もう“見える”だけじゃない。
“届く”ようになったんだ。
雪が静かに降る。
Re:Tryの挑戦は、まだ始まったばかりだった。
―
【Project Re:Try:“資金集め”/第四段階レポート】
※【 】内は今回上昇分
◆日時:12月24日
◆目標:300万円の資金調達
◆進行状況:Phase.04 進行中
◆目的
「“努力の記録”を、“社会に届く形”へ昇華させる」
――“伝わる努力”から、“広がる努力”へ。
◆メンバー構成
・佐久間 陽斗(CEO/代表・企画)
行動指数(筋力):40.5 【+2】
継続性(耐久力):36.0 【+2】
構想力(知力) :43.2
共感力(魅力) :49.2
SP:19 【+5】/スキル保持数:32
・佐藤 大輝(COO/営業統括)/信頼度:88 【+3】
・相川 蓮(CTO/開発・解析)/信頼度:69 【+3】
・篠宮 智也(CFO/財務)/信頼度:55 【+5】
◆資産状況
総資産:670,000円
◆進行状況
・商工会イベント当日 → 目標達成
・資金計画の試算完了(目標金額:300万円)
・クラウドファンディング構想、検討段階
◆次段階予定(Phase.04:資金調達・組織拡張)
・TRY-LOGアプリ版制作準備
・資金調達(必要額: 約230万)
――これは報告書でもあり、“未来へ進むためのログ”でもある。
(記録者:佐久間 陽斗)
34
あなたにおすすめの小説
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
【状態異常無効】の俺、呪われた秘境に捨てられたけど、毒沼はただの温泉だし、呪いの果実は極上の美味でした
夏見ナイ
ファンタジー
支援術師ルインは【状態異常無効】という地味なスキルしか持たないことから、パーティを追放され、生きては帰れない『魔瘴の森』に捨てられてしまう。
しかし、彼にとってそこは楽園だった!致死性の毒沼は極上の温泉に、呪いの果実は栄養満点の美味に。唯一無二のスキルで死の土地を快適な拠点に変え、自由気ままなスローライフを満喫する。
やがて呪いで石化したエルフの少女を救い、もふもふの神獣を仲間に加え、彼の楽園はさらに賑やかになっていく。
一方、ルインを捨てた元パーティは崩壊寸前で……。
これは、追放された青年が、意図せず世界を救う拠点を作り上げてしまう、勘違い無自覚スローライフ・ファンタジー!
異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】
異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。
『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。
しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。
そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。
【収納】スキルでダンジョン無双 ~地味スキルと馬鹿にされた窓際サラリーマン、実はアイテム無限収納&即時出し入れ可能で最強探索者になる~
夏見ナイ
ファンタジー
佐藤健太、32歳。会社ではリストラ寸前の窓際サラリーマン。彼は人生逆転を賭け『探索者』になるも、与えられたのは戦闘に役立たない地味スキル【無限収納】だった。
「倉庫番がお似合いだ」と馬鹿にされ、初ダンジョンでは荷物持ちとして追放される始末。
だが彼は気づいてしまう。このスキルが、思考一つでアイテムや武器を無限に取り出し、敵の魔法すら『収納』できる規格外のチート能力であることに!
サラリーマン時代の知恵と誰も思いつかない応用力で、地味スキルは最強スキルへと変貌する。訳ありの美少女剣士や仲間と共に、不遇だった男の痛快な成り上がり無双が今、始まる!
職業ガチャで外れ職引いたけど、ダンジョン主に拾われて成り上がります
チャビューヘ
ファンタジー
いいね、ブックマークで応援いつもありがとうございます!
ある日突然、クラス全員が異世界に召喚された。
この世界では「職業ガチャ」で与えられた職業がすべてを決める。勇者、魔法使い、騎士――次々と強職を引き当てるクラスメイトたち。だが俺、蒼井拓海が引いたのは「情報分析官」。幼馴染の白石美咲は「清掃員」。
戦闘力ゼロ。
「お前らは足手まといだ」「誰もお荷物を抱えたくない」
親友にすら見捨てられ、パーティ編成から弾かれた俺たちは、たった二人で最低難易度ダンジョンに挑むしかなかった。案の定、モンスターに追われ、逃げ惑い――挙句、偶然遭遇したクラスメイトには囮として利用された。
「感謝するぜ、囮として」
嘲笑と共に去っていく彼ら。絶望の中、俺たちは偶然ダンジョンの最深部へ転落する。
そこで出会ったのは、銀髪の美少女ダンジョン主・リリア。
「あなたたち……私のダンジョンで働かない?」
情報分析でダンジョン構造を最適化し、清掃で魔力循環を改善する。気づけば生産効率は30%向上し、俺たちは魔王軍の特別顧問にまで成り上がっていた。
かつて俺たちを見下したクラスメイトたちは、ダンジョン攻略で消耗し、苦しんでいる。
見ろ、これが「外れ職」の本当の力だ――逆転と成り上がり、そして痛快なざまぁ劇が、今始まる。
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
『山』から降りてきた男に、現代ダンジョンは温すぎる
暁刀魚
ファンタジー
社会勉強のため、幼い頃から暮らしていた山を降りて現代で生活を始めた男、草埜コウジ。
なんと現代ではダンジョンと呼ばれる場所が当たり前に存在し、多くの人々がそのダンジョンに潜っていた。
食い扶持を稼ぐため、山で鍛えた体を鈍らせないため、ダンジョンに潜ることを決意するコウジ。
そんな彼に、受付のお姉さんは言う。「この加護薬を飲めばダンジョンの中で死にかけても、脱出できるんですよ」
コウジは返す。「命の危険がない戦場は温すぎるから、その薬は飲まない」。
かくして、本来なら飲むはずだった加護薬を飲まずに探索者となったコウジ。
もとよりそんなもの必要ない実力でダンジョンを蹂躙する中、その高すぎる実力でバズりつつ、ダンジョンで起きていた問題に直面していく。
なお、加護薬を飲まずに直接モンスターを倒すと、加護薬を呑んでモンスターを倒すよりパワーアップできることが途中で判明した。
カクヨム様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる