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第124話 約束を果たすために
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2月の朝は、吸い込んだ空気まで冷えてる気がする。
その冷たさで、ようやく体が目を覚ます。
TRY-LOGのクラファン達成。
三橋の加入。
アプリ版開発の本格スタート。
そして――学年末テスト。
どれも全部、逃げられない“現実”で。
でも、ひとつひとつが俺を前に押し出してくれている気がした。
(……追いつくためには、今のままじゃ足りない。スキルも総動員する。一ノ瀬との勝負に、本気で挑む)
学校の廊下を歩きながら、ウインドウを開く。
淡い光が視界に浮かぶ。
―
――【ステータス:佐久間陽斗】
・構想力(知力):43.2
・SP:51
―
(構想力(知力)……ここを上げなきゃ、一ノ瀬に勝てない)
スキルショップを開く。
淡い光がひときわ強く瞬く。
―
【取得可能スキル】
・SP13 → 暗記力+50%(既存の+30%を上書き)
・SP15 → 集中力強化Lv3(既存のLv2を上書き/構想力(知力)+2補正)
・SP14 → 深層読解(長文読解力・問題文の核心抽出/構想力(知力)+2補正)
―
(……全部、一ノ瀬との勝負に必要だろ)
迷いなんてなかった。
SPを迷わず投入する。
―
――【暗記力+30%:更新】
――【集中力強化Lv3:更新】
――【深層読解:取得】
SP:51 → 9
構想力(知力):43.2 → 47.2
―
頭の奥がじわっと熱くなり、視界がクリアになる感覚――
(これなら……一ノ瀬と真正面から勝負できる)
拳を握ると、指先からゆっくりと熱がにじんだ。
「おい佐久間、遅刻すんぞ!」
教室前から佐藤の声が飛んでくる。
篠宮はいつも通り冷静に立っていて、その横で三橋がスマホをいじったまま顔だけ上げた。
「おはよー。テストまであと少しだぞ? 遅刻とかマジだせぇからな」
「誰に言われてんだ俺は」
篠宮がメガネを押し上げる。
「勉強を怠るなよ、佐久間。……僕に勝つんだろ?」
「もちろん。運動だけじゃなくて、頭でも勝つって言っただろ?」
佐藤は肩を落としてため息をつく。
「俺なんて赤点とのデッドヒートだからな……ひとりだけジャンル違いすぎんだよ」
三橋がスマホをポケットに突っ込みながら言う。
「ま、とりあえず今日も放課後、相川先輩ん家だろ?テストも大事だけどアプリも大詰めだし」
「ああ。両方落とすって選択肢はない」
TRY-LOGアプリ版開発が本格化してからというもの、俺たちの放課後はほぼ毎日、相川の家に集合するのが当たり前になっていた。
佐藤はSNSと広報サポート。
三橋は動画・画像・外向けのメッセージ作り。
篠宮は予算と数字の調整。
相川は開発の要。
そして俺は設計と演出、バグチェック。
高校生の放課後とは思えないほどの忙しさ――
でも、不思議と嫌じゃない。
しんどいけど、ワクワクのほうが勝ってる。
―
――そして放課後。
相川の部屋に足を踏み入れた瞬間、ストーブの温かさとコーヒーの香りがふわっと広がる。
ノートPC三台、タブレット、ケーブルの山。
高校生の部屋とは思えない開発現場にも、もう慣れてきた。
「相川先輩、この画面の文章なんすけど――
“努力はあなたの力になる”ってどうです?」
三橋が、少し期待した顔でノートPCを向ける。
相川は数秒だけ画面を見て、淡々と言った。
「……却下。怪しい。それは宗教だ」
「うわ、直球……。もう少し柔らかく言ってくれてもよくないっすか」
肩を落とす三橋に、佐藤が吹き出した。
「でも三橋、昨日のお前の動画めっちゃ回ってたぞ。保存も多かったし」
「え、マジ? それは……ちょっと嬉しいな」
篠宮がタブレットを滑らかに操作しながら言う。
「実際、広報効果は予想以上だ。広告費も削れる。助かる」
「おぉー。そう言われると、やった甲斐あるな」
少し照れながらも、笑う三橋。
その表情につられて、場が柔らかくなる。
その奥で、俺は黙々と画面をいじっていた。
ボタンの押しやすさ。
メニューの並び。
ほんの少しの遅延がないか。
――そんな細かい部分の積み重ねで、アプリの使いやすさは決まる。
(絶対に手は抜けない……)
「佐久間、さっき送ったログイン画面の動き、チェックできるか?」
相川が椅子から身を乗り出す。
「今見ます。……お、入室のところ、前より自然になってる。スッて流れる感じがいいですね」
「その“スッて感じ”を、納得いくまで直すぞ。4月リリースに妥協はない」
カタカタ、とキーボードの音が重なる。
誰も文句は言わない。
“やらされてる”じゃなくて――
“やりたいからやってる”。
この部屋の空気は、それでできていた。
三橋が手を挙げる。
「相川先輩、説明文もう一つ考えてきたんだけど」
「言ってみろ」
「“努力の積み重ねは――君の未来をつくる”」
相川は一拍置いてから眉を寄せた。
「惜しい。……なんというか、保健室前のポスター感がある」
「え、マジかよ……」
三橋が肩を落とす。
その落ち込み方が妙に素直で、佐藤が吹き出した。
「いや、でも方向性は悪くないぞ」
俺が言うと、三橋が少しだけ顔を上げる。
「そう思うか?」
「うん。伝えたいことは伝わるし、TRY-LOGらしい」
三橋は照れたように笑って、後頭部をぼりぼりかいた。
「そっか。じゃあもうちょい洗ってみるわ」
相川は腕を組み直し、淡々と言う。
「次は怪しさゼロで頼む」
「了解。できる限り……努力します」
軽く笑い返す三橋。
その空気がふっと柔らかくなる。
そして――
画面の光の中で、俺はマウスを握り直した。
(4月リリース……できる。いや、絶対にやる)
夜の8時。
コーヒーの香りが薄く残る部屋で、佐藤が言った。
「佐久間、勉強は? しなくていいのか?」
「帰ってからやるよ」
篠宮がタブレットを見ながら言う。
「もちろんテストは大事だが、倒れるなよ。“二兎追う者は一兎をも得ず”……じゃないな、お前の場合は四兎ぐらい追ってる」
「褒めてんのかそれ」
「事実だ」
結局、笑いながら全員で帰ることになった。
―
――帰宅後。
教科書を開いた瞬間、すぐに違いが分かった。
(……頭に入るスピードが違う)
暗記のページは前よりも整理されて見えるし、
文章を読めば、意味が自然に脳の奥で結びついていく。
取得したスキルの効果だ。
けれどそれに甘えるつもりはなかった。
(勝ちたい……じゃなくて、負けたくない)
一ノ瀬の言葉が胸の奥でずっと燃えている。
――『この勝負は、私にとって特別だから』
その言葉を思い返しながら、俺は机に向かった。
―
そこからは、毎日が本当に地獄だった。
学校が終われば相川の家で開発。
画面を作り、仕様を詰め、動画を確認し、バグを潰す。
夜遅くに帰宅して、そこから勉強。
教科書をめくる手が止まらない。
睡眠時間はどんどん削れていった。
(開発もテストも、どっちも落とせない)
TRY-LOGと学年末テスト。
二つの重圧を同時に背負いながら、俺は机に向かい続けた。
コーヒーの缶が増え、目は乾き、ペンを握る指先は痛い。
それでも――
(負けられない)
そう思うだけで、また一問解けた。
そんな日々が十日以上続いた。
―
【クエスト達成】
タイトル:「宿敵との約束を果たせ」
内容:学年末テストに向けて全科目の準備を完了せよ
報酬:構想力(知力)+2/SP+5
―
――そして、2月下旬。
ついに学年末テスト本番の日が来た。
校門をくぐると、いつもより静かな朝だった。
友達同士で話す声も小さく、みんな教科書を片手に、足早に教室へ向かっていく。
「おはよ、佐久間くん」
振り返ると、一ノ瀬が立っていた。
マフラーに包まれた頬が赤くて、吐く息が白い。
「緊張する?」
「……まぁな」
「私も」
そう言って軽く笑うその顔を見た瞬間、胸の奥がほんの少しだけ熱くなった。
(……いよいよだ。全力でやる)
チャイムが鳴る。
いよいよ、テスト開始の時間が迫っていた。
―
教室。
問題用紙が配られる音が、やけに胸に刺さった。
一年の集大成――学年末テスト、その初日。
――スタート。
ペン先が走る。
頭の中がすっと静かになり、スキルで研ぎ澄まされた思考が迷いなく問題を捉えていく。
(……いける。今日は悪くない)
ページをめくると、スッと解き筋が浮かぶ。
緊張はしてる。でも、手は止まらなかった。
初日が終わり、二日目、三日目。
英語の並び替えで迷っても、次の瞬間には、これだって答えがつながる。
世界史の暗記も、不思議なくらい頭に残る。
(……ちゃんと戦えてる)
そんな実感が、少しずつ積もっていった。
――そして最終日。
最後の問題にペンを置いた瞬間、肩からすっと力が抜けた。
(やれるだけはやった……あとは結果だ)
―
放課後。
昇降口で、一ノ瀬が待っていた。
「どうだった?」
「全力は出した。そっちは?」
「ふふ。私も」
その笑顔は、どこか晴れやかで。
怖さよりも、清々しさのほうが勝っていた。
一ノ瀬は階段の方をちらっと見ながら、少し声を落とした。
「ねぇ……結果、貼り出されたらさ」
言葉を選ぶみたいに、少し間を空ける。
「一緒に、見に行ってくれる?」
「もちろん」
言ってから気づいた。
ただ一言返しただけなのに、その約束が……妙に重く響いた。
まるで、掲示板までの道のりが、“二人だけの決着の場所”みたいに思えて。
―
――結果発表の日。
掲示板前は人だかりでざわついていた。
「貼り出されたらしい!」
ざわざわと教室のほうから人が流れてくる。
隣から、小さな声。
「……行こっか、佐久間くん」
一ノ瀬が、少し緊張した表情でこっちを見上げていた。
「うん。行こう」
二人で並んで、ゆっくり歩き出す。
――これが、最後の勝負になるかもしれない。
だからこそ、逃げずに正面から見る。
掲示板へ近づくほど、
胸の高鳴りが、抑えられなくなっていった。
(……一ノ瀬。俺は――)
次の一歩で、すべてが決まる。
―
【Project Re:Try:“TRY-LOGリリース”/第五段階レポート】
※【 】内は今回上昇分
◆日時:3月1日
◆最終目標:TRY-LOGアプリ版、正式リリース
◆進行状況:Phase.05 開始
◆目的
「“努力の記録”を、“社会が使う力”へ昇華させる」
――“広がる努力”から、“役に立つ努力”へ。
◆メンバー構成
・佐久間 陽斗(CEO/代表・企画)
行動指数(筋力):48.5
継続性(耐久力):42.0
構想力(知力) :49.2【+6】
共感力(魅力) :53.2
SP:14【-37】/スキル保持数:33【+1】
・佐藤 大輝(COO/営業統括)/信頼度:93
・相川 蓮(CTO/開発・解析)/信頼度:77
・篠宮 智也(CFO/財務)/信頼度:65
・三橋 隼人(CMO/広報)/信頼度:65
◆資産状況
資金:765,000円
協賛金:500,000円
クラファン支援:2,020,000円
総資産:3,285,000円
(※開発・機材・広告の初期投資に充当予定)
◆進行状況
・TRY-LOGアプリ版 制作中
◆次段階予定(Phase.05:正式リリースへ)
・TRY-LOGアプリ版 完成
・リリース告知動画制作
――これは報告書でもあり、“未来へ進むためのログ”でもある。
(記録者:佐久間 陽斗)
その冷たさで、ようやく体が目を覚ます。
TRY-LOGのクラファン達成。
三橋の加入。
アプリ版開発の本格スタート。
そして――学年末テスト。
どれも全部、逃げられない“現実”で。
でも、ひとつひとつが俺を前に押し出してくれている気がした。
(……追いつくためには、今のままじゃ足りない。スキルも総動員する。一ノ瀬との勝負に、本気で挑む)
学校の廊下を歩きながら、ウインドウを開く。
淡い光が視界に浮かぶ。
―
――【ステータス:佐久間陽斗】
・構想力(知力):43.2
・SP:51
―
(構想力(知力)……ここを上げなきゃ、一ノ瀬に勝てない)
スキルショップを開く。
淡い光がひときわ強く瞬く。
―
【取得可能スキル】
・SP13 → 暗記力+50%(既存の+30%を上書き)
・SP15 → 集中力強化Lv3(既存のLv2を上書き/構想力(知力)+2補正)
・SP14 → 深層読解(長文読解力・問題文の核心抽出/構想力(知力)+2補正)
―
(……全部、一ノ瀬との勝負に必要だろ)
迷いなんてなかった。
SPを迷わず投入する。
―
――【暗記力+30%:更新】
――【集中力強化Lv3:更新】
――【深層読解:取得】
SP:51 → 9
構想力(知力):43.2 → 47.2
―
頭の奥がじわっと熱くなり、視界がクリアになる感覚――
(これなら……一ノ瀬と真正面から勝負できる)
拳を握ると、指先からゆっくりと熱がにじんだ。
「おい佐久間、遅刻すんぞ!」
教室前から佐藤の声が飛んでくる。
篠宮はいつも通り冷静に立っていて、その横で三橋がスマホをいじったまま顔だけ上げた。
「おはよー。テストまであと少しだぞ? 遅刻とかマジだせぇからな」
「誰に言われてんだ俺は」
篠宮がメガネを押し上げる。
「勉強を怠るなよ、佐久間。……僕に勝つんだろ?」
「もちろん。運動だけじゃなくて、頭でも勝つって言っただろ?」
佐藤は肩を落としてため息をつく。
「俺なんて赤点とのデッドヒートだからな……ひとりだけジャンル違いすぎんだよ」
三橋がスマホをポケットに突っ込みながら言う。
「ま、とりあえず今日も放課後、相川先輩ん家だろ?テストも大事だけどアプリも大詰めだし」
「ああ。両方落とすって選択肢はない」
TRY-LOGアプリ版開発が本格化してからというもの、俺たちの放課後はほぼ毎日、相川の家に集合するのが当たり前になっていた。
佐藤はSNSと広報サポート。
三橋は動画・画像・外向けのメッセージ作り。
篠宮は予算と数字の調整。
相川は開発の要。
そして俺は設計と演出、バグチェック。
高校生の放課後とは思えないほどの忙しさ――
でも、不思議と嫌じゃない。
しんどいけど、ワクワクのほうが勝ってる。
―
――そして放課後。
相川の部屋に足を踏み入れた瞬間、ストーブの温かさとコーヒーの香りがふわっと広がる。
ノートPC三台、タブレット、ケーブルの山。
高校生の部屋とは思えない開発現場にも、もう慣れてきた。
「相川先輩、この画面の文章なんすけど――
“努力はあなたの力になる”ってどうです?」
三橋が、少し期待した顔でノートPCを向ける。
相川は数秒だけ画面を見て、淡々と言った。
「……却下。怪しい。それは宗教だ」
「うわ、直球……。もう少し柔らかく言ってくれてもよくないっすか」
肩を落とす三橋に、佐藤が吹き出した。
「でも三橋、昨日のお前の動画めっちゃ回ってたぞ。保存も多かったし」
「え、マジ? それは……ちょっと嬉しいな」
篠宮がタブレットを滑らかに操作しながら言う。
「実際、広報効果は予想以上だ。広告費も削れる。助かる」
「おぉー。そう言われると、やった甲斐あるな」
少し照れながらも、笑う三橋。
その表情につられて、場が柔らかくなる。
その奥で、俺は黙々と画面をいじっていた。
ボタンの押しやすさ。
メニューの並び。
ほんの少しの遅延がないか。
――そんな細かい部分の積み重ねで、アプリの使いやすさは決まる。
(絶対に手は抜けない……)
「佐久間、さっき送ったログイン画面の動き、チェックできるか?」
相川が椅子から身を乗り出す。
「今見ます。……お、入室のところ、前より自然になってる。スッて流れる感じがいいですね」
「その“スッて感じ”を、納得いくまで直すぞ。4月リリースに妥協はない」
カタカタ、とキーボードの音が重なる。
誰も文句は言わない。
“やらされてる”じゃなくて――
“やりたいからやってる”。
この部屋の空気は、それでできていた。
三橋が手を挙げる。
「相川先輩、説明文もう一つ考えてきたんだけど」
「言ってみろ」
「“努力の積み重ねは――君の未来をつくる”」
相川は一拍置いてから眉を寄せた。
「惜しい。……なんというか、保健室前のポスター感がある」
「え、マジかよ……」
三橋が肩を落とす。
その落ち込み方が妙に素直で、佐藤が吹き出した。
「いや、でも方向性は悪くないぞ」
俺が言うと、三橋が少しだけ顔を上げる。
「そう思うか?」
「うん。伝えたいことは伝わるし、TRY-LOGらしい」
三橋は照れたように笑って、後頭部をぼりぼりかいた。
「そっか。じゃあもうちょい洗ってみるわ」
相川は腕を組み直し、淡々と言う。
「次は怪しさゼロで頼む」
「了解。できる限り……努力します」
軽く笑い返す三橋。
その空気がふっと柔らかくなる。
そして――
画面の光の中で、俺はマウスを握り直した。
(4月リリース……できる。いや、絶対にやる)
夜の8時。
コーヒーの香りが薄く残る部屋で、佐藤が言った。
「佐久間、勉強は? しなくていいのか?」
「帰ってからやるよ」
篠宮がタブレットを見ながら言う。
「もちろんテストは大事だが、倒れるなよ。“二兎追う者は一兎をも得ず”……じゃないな、お前の場合は四兎ぐらい追ってる」
「褒めてんのかそれ」
「事実だ」
結局、笑いながら全員で帰ることになった。
―
――帰宅後。
教科書を開いた瞬間、すぐに違いが分かった。
(……頭に入るスピードが違う)
暗記のページは前よりも整理されて見えるし、
文章を読めば、意味が自然に脳の奥で結びついていく。
取得したスキルの効果だ。
けれどそれに甘えるつもりはなかった。
(勝ちたい……じゃなくて、負けたくない)
一ノ瀬の言葉が胸の奥でずっと燃えている。
――『この勝負は、私にとって特別だから』
その言葉を思い返しながら、俺は机に向かった。
―
そこからは、毎日が本当に地獄だった。
学校が終われば相川の家で開発。
画面を作り、仕様を詰め、動画を確認し、バグを潰す。
夜遅くに帰宅して、そこから勉強。
教科書をめくる手が止まらない。
睡眠時間はどんどん削れていった。
(開発もテストも、どっちも落とせない)
TRY-LOGと学年末テスト。
二つの重圧を同時に背負いながら、俺は机に向かい続けた。
コーヒーの缶が増え、目は乾き、ペンを握る指先は痛い。
それでも――
(負けられない)
そう思うだけで、また一問解けた。
そんな日々が十日以上続いた。
―
【クエスト達成】
タイトル:「宿敵との約束を果たせ」
内容:学年末テストに向けて全科目の準備を完了せよ
報酬:構想力(知力)+2/SP+5
―
――そして、2月下旬。
ついに学年末テスト本番の日が来た。
校門をくぐると、いつもより静かな朝だった。
友達同士で話す声も小さく、みんな教科書を片手に、足早に教室へ向かっていく。
「おはよ、佐久間くん」
振り返ると、一ノ瀬が立っていた。
マフラーに包まれた頬が赤くて、吐く息が白い。
「緊張する?」
「……まぁな」
「私も」
そう言って軽く笑うその顔を見た瞬間、胸の奥がほんの少しだけ熱くなった。
(……いよいよだ。全力でやる)
チャイムが鳴る。
いよいよ、テスト開始の時間が迫っていた。
―
教室。
問題用紙が配られる音が、やけに胸に刺さった。
一年の集大成――学年末テスト、その初日。
――スタート。
ペン先が走る。
頭の中がすっと静かになり、スキルで研ぎ澄まされた思考が迷いなく問題を捉えていく。
(……いける。今日は悪くない)
ページをめくると、スッと解き筋が浮かぶ。
緊張はしてる。でも、手は止まらなかった。
初日が終わり、二日目、三日目。
英語の並び替えで迷っても、次の瞬間には、これだって答えがつながる。
世界史の暗記も、不思議なくらい頭に残る。
(……ちゃんと戦えてる)
そんな実感が、少しずつ積もっていった。
――そして最終日。
最後の問題にペンを置いた瞬間、肩からすっと力が抜けた。
(やれるだけはやった……あとは結果だ)
―
放課後。
昇降口で、一ノ瀬が待っていた。
「どうだった?」
「全力は出した。そっちは?」
「ふふ。私も」
その笑顔は、どこか晴れやかで。
怖さよりも、清々しさのほうが勝っていた。
一ノ瀬は階段の方をちらっと見ながら、少し声を落とした。
「ねぇ……結果、貼り出されたらさ」
言葉を選ぶみたいに、少し間を空ける。
「一緒に、見に行ってくれる?」
「もちろん」
言ってから気づいた。
ただ一言返しただけなのに、その約束が……妙に重く響いた。
まるで、掲示板までの道のりが、“二人だけの決着の場所”みたいに思えて。
―
――結果発表の日。
掲示板前は人だかりでざわついていた。
「貼り出されたらしい!」
ざわざわと教室のほうから人が流れてくる。
隣から、小さな声。
「……行こっか、佐久間くん」
一ノ瀬が、少し緊張した表情でこっちを見上げていた。
「うん。行こう」
二人で並んで、ゆっくり歩き出す。
――これが、最後の勝負になるかもしれない。
だからこそ、逃げずに正面から見る。
掲示板へ近づくほど、
胸の高鳴りが、抑えられなくなっていった。
(……一ノ瀬。俺は――)
次の一歩で、すべてが決まる。
―
【Project Re:Try:“TRY-LOGリリース”/第五段階レポート】
※【 】内は今回上昇分
◆日時:3月1日
◆最終目標:TRY-LOGアプリ版、正式リリース
◆進行状況:Phase.05 開始
◆目的
「“努力の記録”を、“社会が使う力”へ昇華させる」
――“広がる努力”から、“役に立つ努力”へ。
◆メンバー構成
・佐久間 陽斗(CEO/代表・企画)
行動指数(筋力):48.5
継続性(耐久力):42.0
構想力(知力) :49.2【+6】
共感力(魅力) :53.2
SP:14【-37】/スキル保持数:33【+1】
・佐藤 大輝(COO/営業統括)/信頼度:93
・相川 蓮(CTO/開発・解析)/信頼度:77
・篠宮 智也(CFO/財務)/信頼度:65
・三橋 隼人(CMO/広報)/信頼度:65
◆資産状況
資金:765,000円
協賛金:500,000円
クラファン支援:2,020,000円
総資産:3,285,000円
(※開発・機材・広告の初期投資に充当予定)
◆進行状況
・TRY-LOGアプリ版 制作中
◆次段階予定(Phase.05:正式リリースへ)
・TRY-LOGアプリ版 完成
・リリース告知動画制作
――これは報告書でもあり、“未来へ進むためのログ”でもある。
(記録者:佐久間 陽斗)
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金色のクレヨン@釣りするWeb作家
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夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
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これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
『山』から降りてきた男に、現代ダンジョンは温すぎる
暁刀魚
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社会勉強のため、幼い頃から暮らしていた山を降りて現代で生活を始めた男、草埜コウジ。
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