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出会い編
1.出会い
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「あ゛~さむ……」
寒い空に俺の白い吐息が交わり、まさに俺の心と懐の寂しさを表しているようだ。
山田 侑真28歳独身恋人なし。ていうかさっき恋人なしになった。
「なぁにが『国家公務員の彼氏が出来たから別れる』だっ。バレンタインにそろそろ結婚しようかって話出たばっかで……」
あいつも乗り気だったのにな。そう見えただけなら女ってなんて怖い生き物なんだ。
だってそうだろ?婚約指輪だって買ったばっかだったのに。あいつがこの指輪をはめるのが夢だって言うから頑張って貯めて買ったんだけどな。プラチナリングにピンクダイヤが付いたやつ。これ、どーすっか……。返品って出来たっけ。つか婚約指輪なんだって言って買った手前返品しづれぇぇ。ここか。ここが顔文字の”orz”をリアル体現する場面か。
などと余裕があるのかないのかわからん思考に囚われ始めた。そんな時。
俺は運命に出会ったんだ。
「もう無理!堪えられない!家族と仕事どっちが大事なの!?」
パン!ていう寒空に小気味よく響くビンタらしき音と共に聞こえた声。
なんか漫画だかドラマだかで聞いたようなセリフだな。現実にこんな事言う奴実在したんだ。
空虚だった俺の心に容易く入り込んだ非現実的な現実に、俺は思わずその発生源へと目を向けた。
今俺がいるのはオフィス街。都市開発が進み過ごし易い空間が売りとなってるその一画。
時刻は夕刻。本当ならこれからあいつとデートに行く筈だった。……いや今はもうそれは置いておこう。とにかくこれから帰宅する人で些か人口密度が増している時間。
案の定その人達は遠巻きにされ目立つ対象となっていた。
先の声の主は恐らくビンタ後であろう体勢を何故か維持している女性。その横に多分当事者の一人であろうに我関せずと何かに夢中になっている男の子。多分小学生。中学年位か?手に持ってるのはスマホ……よりは大きい気がするからゲーム機だろう。
そして頬を打たれたのだろう遠目にも赤くなっているのが見て取れる男性。すっげぇ面が良いな畜生。つか薄暗い中でもわかるってどんだけ馬鹿力なんだあの女。あ、いやあれ腫れで赤いんじゃねーわ。血が出てる。良く見んとわからんが引っかかれでもしたんじゃねーのか?
誰が見ても「うわぁ」と言いたい光景なのに件の男性は冷めた無表情で女性を見下ろしていた。
「これから大事な取引先との懇談会だと以前より言っていた筈だ。お前こそ何故ここにいる」
うげっ。女も女なら男も男だな。その顔で言い方までキツイって相当冷酷に見えんだけど。
「今日は昨日のテストで尊ちゃんが満点取った記念に外食するって言ったじゃない!」
え?何言ってんのあの人。男性の方は前からの約束で、しかも伝えてたんだよね?しかも社内の事じゃなくて大事な取引先が絡む約束。それを子供とはいえテストで満点取っただけの祝いに潰せる訳無いってわかんないの?日にちずらせや。
あかん。これ不可抗力とは言えこれ以上聞いてたらあかんヤツ。
そして思い出す。俺今傷心中じゃん。よし、何も見なかった事にして帰ろう。
近付きたくはないから離れて行き過ぎる。なんで俺の進行方向は彼等の居る方なんだ……。本当についてない。
「テストで良い点を取るのは当たり前だ。そんな事の為にいちいち祝う気もない。帰れ」
「そんな事ですって!?あなたこそたかが仕事なんかの為に家族を蔑ろにして!」
だから俺が後ろ通ってる時に話進めないで欲しい。
俺は心持ち急ぎ足で、でも視線を逸らすのは何で俺がそこまで見も知らぬ相手に遠慮せにゃならんのだと思うから真っ直ぐ前を向く。
てかあんたら何で結婚したん?気なんて合わなそうじゃん。
尚も続く応酬に俺の方が辟易してくる。が、通り過ぎれば後は知らない世界の出来事だ。我関せず我関せず。と。
「もういいわ!実家に帰らせていただきます!」
「そうか。荷物はこちらから送っておこう」
「きぃぃぃぃ!行くわよ尊ちゃん!」
おっと。俺が行き過ぎる前に終わったか。
はーやれやれと思ったら。
どんっ。と腕に何かがぶつかってきた。
「ちょっと!邪魔よ!退きなさい!」
件の女性だった。
えぇ、理不尽~。
カツカツと男の子の手を引いて去って行く女性を茫然と見送ってしまった。
「連れがすまない」
そして背後からした声に振り返れば、件の男性がいた。
ん゛ん゛っ。顔っ!顔っ!謝られたのに謝られた気がしない!
つか近くで見るとマジで面が良い。俺よりは確実に歳は上だよな。でもそこまでおじさんって訳じゃなさそう。
「君?」
やべ。ついマジマジ顔見て時を止めてたわ。
「あ。いや。大丈夫です。てかおにいさんが謝ることないし」
慌てて手を振って言えば男性は
「そうか。ありがとう」
って言ってふっと笑った。
笑ったていう程の笑みじゃなくて近くで見てないとわからない程度の微かな笑み。
冷酷そうな無表情が笑みっぽいなにかを見せるのって。卑怯だと思います。
この日俺は何かを胸に飼ったんだと、のちに思う。
寒い空に俺の白い吐息が交わり、まさに俺の心と懐の寂しさを表しているようだ。
山田 侑真28歳独身恋人なし。ていうかさっき恋人なしになった。
「なぁにが『国家公務員の彼氏が出来たから別れる』だっ。バレンタインにそろそろ結婚しようかって話出たばっかで……」
あいつも乗り気だったのにな。そう見えただけなら女ってなんて怖い生き物なんだ。
だってそうだろ?婚約指輪だって買ったばっかだったのに。あいつがこの指輪をはめるのが夢だって言うから頑張って貯めて買ったんだけどな。プラチナリングにピンクダイヤが付いたやつ。これ、どーすっか……。返品って出来たっけ。つか婚約指輪なんだって言って買った手前返品しづれぇぇ。ここか。ここが顔文字の”orz”をリアル体現する場面か。
などと余裕があるのかないのかわからん思考に囚われ始めた。そんな時。
俺は運命に出会ったんだ。
「もう無理!堪えられない!家族と仕事どっちが大事なの!?」
パン!ていう寒空に小気味よく響くビンタらしき音と共に聞こえた声。
なんか漫画だかドラマだかで聞いたようなセリフだな。現実にこんな事言う奴実在したんだ。
空虚だった俺の心に容易く入り込んだ非現実的な現実に、俺は思わずその発生源へと目を向けた。
今俺がいるのはオフィス街。都市開発が進み過ごし易い空間が売りとなってるその一画。
時刻は夕刻。本当ならこれからあいつとデートに行く筈だった。……いや今はもうそれは置いておこう。とにかくこれから帰宅する人で些か人口密度が増している時間。
案の定その人達は遠巻きにされ目立つ対象となっていた。
先の声の主は恐らくビンタ後であろう体勢を何故か維持している女性。その横に多分当事者の一人であろうに我関せずと何かに夢中になっている男の子。多分小学生。中学年位か?手に持ってるのはスマホ……よりは大きい気がするからゲーム機だろう。
そして頬を打たれたのだろう遠目にも赤くなっているのが見て取れる男性。すっげぇ面が良いな畜生。つか薄暗い中でもわかるってどんだけ馬鹿力なんだあの女。あ、いやあれ腫れで赤いんじゃねーわ。血が出てる。良く見んとわからんが引っかかれでもしたんじゃねーのか?
誰が見ても「うわぁ」と言いたい光景なのに件の男性は冷めた無表情で女性を見下ろしていた。
「これから大事な取引先との懇談会だと以前より言っていた筈だ。お前こそ何故ここにいる」
うげっ。女も女なら男も男だな。その顔で言い方までキツイって相当冷酷に見えんだけど。
「今日は昨日のテストで尊ちゃんが満点取った記念に外食するって言ったじゃない!」
え?何言ってんのあの人。男性の方は前からの約束で、しかも伝えてたんだよね?しかも社内の事じゃなくて大事な取引先が絡む約束。それを子供とはいえテストで満点取っただけの祝いに潰せる訳無いってわかんないの?日にちずらせや。
あかん。これ不可抗力とは言えこれ以上聞いてたらあかんヤツ。
そして思い出す。俺今傷心中じゃん。よし、何も見なかった事にして帰ろう。
近付きたくはないから離れて行き過ぎる。なんで俺の進行方向は彼等の居る方なんだ……。本当についてない。
「テストで良い点を取るのは当たり前だ。そんな事の為にいちいち祝う気もない。帰れ」
「そんな事ですって!?あなたこそたかが仕事なんかの為に家族を蔑ろにして!」
だから俺が後ろ通ってる時に話進めないで欲しい。
俺は心持ち急ぎ足で、でも視線を逸らすのは何で俺がそこまで見も知らぬ相手に遠慮せにゃならんのだと思うから真っ直ぐ前を向く。
てかあんたら何で結婚したん?気なんて合わなそうじゃん。
尚も続く応酬に俺の方が辟易してくる。が、通り過ぎれば後は知らない世界の出来事だ。我関せず我関せず。と。
「もういいわ!実家に帰らせていただきます!」
「そうか。荷物はこちらから送っておこう」
「きぃぃぃぃ!行くわよ尊ちゃん!」
おっと。俺が行き過ぎる前に終わったか。
はーやれやれと思ったら。
どんっ。と腕に何かがぶつかってきた。
「ちょっと!邪魔よ!退きなさい!」
件の女性だった。
えぇ、理不尽~。
カツカツと男の子の手を引いて去って行く女性を茫然と見送ってしまった。
「連れがすまない」
そして背後からした声に振り返れば、件の男性がいた。
ん゛ん゛っ。顔っ!顔っ!謝られたのに謝られた気がしない!
つか近くで見るとマジで面が良い。俺よりは確実に歳は上だよな。でもそこまでおじさんって訳じゃなさそう。
「君?」
やべ。ついマジマジ顔見て時を止めてたわ。
「あ。いや。大丈夫です。てかおにいさんが謝ることないし」
慌てて手を振って言えば男性は
「そうか。ありがとう」
って言ってふっと笑った。
笑ったていう程の笑みじゃなくて近くで見てないとわからない程度の微かな笑み。
冷酷そうな無表情が笑みっぽいなにかを見せるのって。卑怯だと思います。
この日俺は何かを胸に飼ったんだと、のちに思う。
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