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出会い編
4.育む
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「なんでじゃ」
思わず口から出てしまう光景ってあるよな。
今のは正にそれ。冷蔵庫から取り出した袋に入った液体。の中にチラ見えする豚肉と思しき塊。
「えっと、これ何入れました?」
袋がタプンタプンになる程に赤く揺れる液体に、それを持ったまま死んだ魚の目をして問い掛けた。
榎本さんは問い掛けの意味を図りあぐねているのか、片眉を僅かに上げた。
「日本酒を切らしていてね。ワインを代わりに入れてみた。おおさじが分からないが計量をさす言葉なのは理解出来たから、このメモリが付いたコップに2杯」
200cc計量カップ!を2杯で400cc!!
料理出来ない人って独自の発想で置き換えるから失敗が多いって聞いたことあるけど、榎本さんを見ているとそういう人もいるのだなと思えて来た。
聞けば他の調味料も同じ要領で測って入れていたとか。摩訶不思議な珍獣を見る目で思わず見てしまい、それに気付いて誤魔化すように咳払いをした。
「んんっ。あー。まあ、ワインも勿体ないし、これはこれで使います。が、生姜焼きは一から作り直すので先ずは買い出し。しましょう」
がしッと自分のより高い位置にある肩を鷲掴む。最大限の営業スマイルに、しかし榎本さんは怯むことなく頷いた。
「そうか。やはりワインは駄目なのか」
「いや、ワインで作った事ないからわかりませんが折角なのでワイン煮を作ってしまおうかと。それなら明日の夕食にして貰えますし」
今日を乗り越えたとして明日は無い。
この心配な料理音痴を放り出すのは忍びないから作り置きを用意したくなったのだ。
「ほう?明日食べても腹は壊さないのか」
「……物によります。あと朝は火に掛けて沸騰したら止めて下さい」
流石にお湯位沸かせるだろうし、沸騰はわかるだろう。
取り敢えず今日の分の食材を揃えるべく、折角脱いだ上着をもう一度羽織り近くのスーパーへ来た。因みにご飯は炊いていなかったから準備してから出た。生姜焼きだけで食べる積もりだったのだろうか。
「うん?豚にするのかね」
「するもなにも豚の生姜焼きを作るんですから買うのは豚ですよ」
2人並んで歩く。カゴは俺が持とうと思ったが榎本さんが「作って貰う身だから」と持ってくれた。お会計も授業料として榎本さんが出してくれるらしい。一食浮いた。今現在懐寂しい俺には大変有難い。
「おや。これは……」
慣れないスーパーはどこに何があるのかわからない。目当ての物を探して歩いていると、ふと榎本さんがお菓子コーナーで足を止めた。
見下ろす視線の先にあるのはとあるゲームソフトとコラボしたらしい玩具付きの菓子。それを俺も見てもう一度榎本さんに視線を戻せば、彼は何とも言えない複雑な、でも何処か寂しそうな目をしていた。
「榎本さん?」
「ああ、いや失礼。息子が、好んでいたゲームの絵が描かれていてね」
どんなに冷酷そうに見えても榎本さんもちゃんと息子さんの事愛していたんだな。でなければこれがそのゲームと同じなんて見たってわからないだろう。
苦笑を滲ませる姿に俺の方が眉根を下げてしまう。
「すまない。そんな顔をさせるつもりでは無かったのだが」
「いえ……。俺の方こそすみません。辛いのは、榎本さんなのに」
「辛い……のかな。私は……」
困った様に無理矢理作られた笑みに胸がギュッとなる。
「オムライス作りましょう」
「は?」
「生姜焼きには合わないかもだけど、気分を上げるならオムライスは中々お薦めです」
これ以上その顔を見ていたくなくて強引に榎本さんの手を引っ張った。玉子コーナーならさっき行き過ぎた。どうせなら生クリーム使ってふわとろに仕上げよう。今までの昼食を見るに目立った好き嫌いはなさそう。ならピーマンも買って、生姜焼きで肉は食べるからウインナーじゃなくてシーチキンを使おうか。
いっきに買い物リストが増えた事でカゴの中は直ぐにいっぱいになった。
「重いですよね、俺持ちます」
「いいや、これ位軽いよ。なんならもっと入れても良い」
そう言う榎本さんの顔はいつもの余裕のある表情に戻っていた。いやむしろ少しワクワクしてる感じに見えるのは俺の欲求の現れだろうか。
「そんなに買っても榎本さん一人じゃ使いきれないでしょう」
クスクス笑って言えば、榎本さんも「それもそうだな」と顎に手をやり真剣にカゴの中と相談していた。
「いっそのこと毎日山田君が作りに来てくれれば有難いのだがね」
今思いついたと言わんばかりに俺を見て言った言葉。なんの変哲もないただの軽口の一つだろうに、
俺の心臓は高鳴った。
思わず口から出てしまう光景ってあるよな。
今のは正にそれ。冷蔵庫から取り出した袋に入った液体。の中にチラ見えする豚肉と思しき塊。
「えっと、これ何入れました?」
袋がタプンタプンになる程に赤く揺れる液体に、それを持ったまま死んだ魚の目をして問い掛けた。
榎本さんは問い掛けの意味を図りあぐねているのか、片眉を僅かに上げた。
「日本酒を切らしていてね。ワインを代わりに入れてみた。おおさじが分からないが計量をさす言葉なのは理解出来たから、このメモリが付いたコップに2杯」
200cc計量カップ!を2杯で400cc!!
料理出来ない人って独自の発想で置き換えるから失敗が多いって聞いたことあるけど、榎本さんを見ているとそういう人もいるのだなと思えて来た。
聞けば他の調味料も同じ要領で測って入れていたとか。摩訶不思議な珍獣を見る目で思わず見てしまい、それに気付いて誤魔化すように咳払いをした。
「んんっ。あー。まあ、ワインも勿体ないし、これはこれで使います。が、生姜焼きは一から作り直すので先ずは買い出し。しましょう」
がしッと自分のより高い位置にある肩を鷲掴む。最大限の営業スマイルに、しかし榎本さんは怯むことなく頷いた。
「そうか。やはりワインは駄目なのか」
「いや、ワインで作った事ないからわかりませんが折角なのでワイン煮を作ってしまおうかと。それなら明日の夕食にして貰えますし」
今日を乗り越えたとして明日は無い。
この心配な料理音痴を放り出すのは忍びないから作り置きを用意したくなったのだ。
「ほう?明日食べても腹は壊さないのか」
「……物によります。あと朝は火に掛けて沸騰したら止めて下さい」
流石にお湯位沸かせるだろうし、沸騰はわかるだろう。
取り敢えず今日の分の食材を揃えるべく、折角脱いだ上着をもう一度羽織り近くのスーパーへ来た。因みにご飯は炊いていなかったから準備してから出た。生姜焼きだけで食べる積もりだったのだろうか。
「うん?豚にするのかね」
「するもなにも豚の生姜焼きを作るんですから買うのは豚ですよ」
2人並んで歩く。カゴは俺が持とうと思ったが榎本さんが「作って貰う身だから」と持ってくれた。お会計も授業料として榎本さんが出してくれるらしい。一食浮いた。今現在懐寂しい俺には大変有難い。
「おや。これは……」
慣れないスーパーはどこに何があるのかわからない。目当ての物を探して歩いていると、ふと榎本さんがお菓子コーナーで足を止めた。
見下ろす視線の先にあるのはとあるゲームソフトとコラボしたらしい玩具付きの菓子。それを俺も見てもう一度榎本さんに視線を戻せば、彼は何とも言えない複雑な、でも何処か寂しそうな目をしていた。
「榎本さん?」
「ああ、いや失礼。息子が、好んでいたゲームの絵が描かれていてね」
どんなに冷酷そうに見えても榎本さんもちゃんと息子さんの事愛していたんだな。でなければこれがそのゲームと同じなんて見たってわからないだろう。
苦笑を滲ませる姿に俺の方が眉根を下げてしまう。
「すまない。そんな顔をさせるつもりでは無かったのだが」
「いえ……。俺の方こそすみません。辛いのは、榎本さんなのに」
「辛い……のかな。私は……」
困った様に無理矢理作られた笑みに胸がギュッとなる。
「オムライス作りましょう」
「は?」
「生姜焼きには合わないかもだけど、気分を上げるならオムライスは中々お薦めです」
これ以上その顔を見ていたくなくて強引に榎本さんの手を引っ張った。玉子コーナーならさっき行き過ぎた。どうせなら生クリーム使ってふわとろに仕上げよう。今までの昼食を見るに目立った好き嫌いはなさそう。ならピーマンも買って、生姜焼きで肉は食べるからウインナーじゃなくてシーチキンを使おうか。
いっきに買い物リストが増えた事でカゴの中は直ぐにいっぱいになった。
「重いですよね、俺持ちます」
「いいや、これ位軽いよ。なんならもっと入れても良い」
そう言う榎本さんの顔はいつもの余裕のある表情に戻っていた。いやむしろ少しワクワクしてる感じに見えるのは俺の欲求の現れだろうか。
「そんなに買っても榎本さん一人じゃ使いきれないでしょう」
クスクス笑って言えば、榎本さんも「それもそうだな」と顎に手をやり真剣にカゴの中と相談していた。
「いっそのこと毎日山田君が作りに来てくれれば有難いのだがね」
今思いついたと言わんばかりに俺を見て言った言葉。なんの変哲もないただの軽口の一つだろうに、
俺の心臓は高鳴った。
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