繋がる想いを

無月

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恋人編

7.自分達らしい足取りで

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控えめに言っても過大評価に言っても最高の隠れ家バーだった。

「また行こうな」
「うむ。飲みに行くならここが一番良い」

酒の種類は豊富。つまみの域を超える料理の数々は酒無しでも楽しめる程美味しかった。
その分若干割高だったけど店の特異性を考えれば返って安いとも感じる。

「っと、もうこんな時間か。外が見えないのが唯一の欠点だな」

外に出ればもう既に夕暮れに差し掛かっていた。
昼頃から入ってからあれもこれもと舌鼓を打ち過ぎていたな。いやでもあれは仕方ない。それ程美味しすぎた。

「少し酔いを覚ましてから帰ろうか」

響也の誘いに頷き西に赤みが差し始めた空の元歩き出す。
あては無い。
人気のない所では手を繋ぎ、人がチラホラ見え始めた辺りでどちらからともなく離して歩く。周囲を歩く男女のカップルは人前だからといって繋ぐ手を離したりしない。そのことに胸の奥にチクリと刺すものがあった。
空の手の平に冬が間直に迫った秋の風が冷たく過ぎる。

「この時間が冷え込む季節になったな」
「そうだね」

俺はコートのポケットに温もりを求め、響也は所在無さげに手を摩っている。
駅と駅の間を歩いて行く。たまにはこんな時間も良い。
帰る人と来る人の足が交差する時間帯。これから夜景を楽しむのだろうか、カップルから聞こえた場所に興味が湧いた。

「高層ビルから見える夕日に照らされた都心の街並み、か」
「ああ、先程聞こえた会話か。考えたことも無かったが、そうか。確かに綺麗だろうね」
「見た事ないのか?」
「ははは。地元に住んでいると意外にしない事があるんだよ」

言われてああ確かにと思う。
俺も地元で定番と言われている場所は行っていない方が多い。
都心の夕日や夜景は元カノと何度となく行ったけど、響也と行くって発想は無かった。
多分それは相手が女か男かの違い。
でも気付けば響也と見てみたいと思っていた。

「行ってみないか?」
「ふむ。良いね、行こうか」

響也も少し興味が出たのかフワリと微笑みこの辺りでそれが出来るビルへと足を向けた。
その場所に着けばそこそこの人が空や街を見ている。その殆どがカップルだったから何やらむず痒い思いが胸を燻った。

「あそこなら人いない。行ってみようぜ」

夕日が沈む方向。ビル屋上のギリギリの淵にガラスの壁が囲んでいるその場所に向かい、並んで見下ろした。

その景色に胸が打たれる。

誰と見たってこんな思いしなかった。こんな泣きたくなる思い。悲しくもないのに目が潤む。
多分それは隣に立つ人が響也だから。
響也と見た赤い街並みが自然と胸に染みた。

「私達の家が見えるね」
「ん。ああ、そうか。ここが俺の居る場所だからこんなに心に染みるんだな」
「どうしたんだい?急に」
「いや。何か俺焦っててさ。すぐ響也と繋がりたいって」
「ごふっ」
「思って……」

セリフの途中で咳き込まれた。悲しい。
夕日にか、それとも本当にか顔を赤らめた響也が、俺の顔に何か思ったのか片手で隠した顔を俺から背けた。
あああ……!俺本当に焦ってる……!何で直接的な事言ってしまったんだ!
気まずい空気に萎れてしまう。
そうかー。やっぱ男とは繋がれないよなー。
いや別に響也とのことは体目当てじゃないし。一緒にいるのが自然っていうか落ち着くからだし。ただちょっと友人知人にも紹介し辛い事なんだなあと改めて思っただけだし。でもちょっと俺の恋人可愛いし恰好良いし親しい人には紹介したいしなんなら響也のご両親にご挨拶して良好な関係を築けて行けたら最高だなあ。
思考の渦に呑まれ、黄昏れて遠く夕日に染まった街を見下ろす。

「……違う」

心でプラトニックを貫く覚悟を決める時に掛かった横からの呟き。

「え?」

気の所為かと思いつつも響也に振り向けば、その顔はとても真剣に俺を見ていた。

「違うよ」

ああ。うん。そんなはっきり否定しなくても我慢出来るよ。
響也を傷付けたくないんだ。

「私も君と触れ合いたいと思っている」

覚悟を決めていたのに。

「え?」

ポカンと見つめる。

「私とて男だよ。それなりの欲求位はある。つもりだ」

今度はわかる。
その頬の赤み。

「ただ、侑真とはゆっくり育み、深め合いたい」

俺の独りよがりじゃなかった。
響也も俺を求めてくれている。
その事が俺に余裕を持たせてくれる。

「ああ……うん……うん。そうだな。俺も」

俺の帰る場所はもう、響也と共にある。

「俺も響也との時間は大切にしていきたい」

だからゆっくりいこう。俺達らしいペースで。
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